山本章子(やまもと・あきこ) 琉球大学准教授
1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。2020年4月から現職。著書に『米国と日米安保条約改定ー沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年)、『米国アウトサイダー大統領ー世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)、『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書、2019年)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
勤労統計調査の不正発覚から2年。今も続く追加給付。コールセンターが不満のはけ口に
2019年1月に大きく報じられ、国会で野党が第2次安倍晋三政権を厳しく追及した、雇用保険や労災保険などの過少給付の問題を覚えているだろうか。本来、雇用保険、労災保険としてもらえるはずの推計1973万人分、総額537億5000万円もの支給もれがあったことが発覚した一件である。
なぜ、そんなことが起きたのか。賃金や労働時間の動向を把握するため、厚生労働省が毎月行っている「毎月勤労統計調査」で、従業員が500人以上の大規模な事業所について、すべて調査することになっていたにもかかわらず、東京都内ではおよそ三分の一の事業所しか調べていなかったのが原因だ。2004年から不適切な手法がとられ、一部の職員は問題を認識しながら、組織全体で共有せずに放置していたことが、事態の拡大を招いた。
厚生労働省は2019年3月、過少分の追加給付を始めると発表。同年中に全対象者への給付を行うという見込みを示した。追加給付申請から給付までの手続きに要する時間は1カ月程度との想定だった。
ところが、それから2年たった現在も、追加給付は完了していない。過少給付者の確認作業と追加給付手続きが、各地のハローワークと厚生労働省にまたがっていて煩雑なことに加え、2020年に入ってからコロナ対応で追加給付業務が縮小されたためだ。
しかも、追加給付業務の遅れの「ツケ」が、沖縄のコールセンターにまわっている。全国の追加給付対象者からの苦情が、厚生労働省から追加給付に関する対応を委託された沖縄のコールセンターに殺到しているのだ。苦情に応じているのは、コロナ禍で仕事がなくなった観光業や飲食業で働いていた人々だ。
コールセンターを運営するのは、ファーストフードやカード会社など幅広い業態の企業のコールセンター業務を請け負うトランス・コスモス社(本社・東京)。沖縄県那覇市と沖縄市の2カ所のオフィスで、それぞれ約40人のスタッフが常時、追加給付に関する問い合わせへの対応を行っている。
私は本稿で書く事実をトランス・コスモスの沖縄オフィスで働く人から直接、聞いた(プライバシーを守るため、証言者の詳細は明らかにしない)。それによると、追加給付に関する問い合わせ窓口は、全国でも沖縄のこの2カ所にしかないという。人件費のコストをおさえるために、最低賃金が792円と全国一低い沖縄においたと考えられる。ちなみに東京の最低賃金は1013円である。
スタッフの時給は、「週5」で働く派遣社員の場合は1150円(週4だと時給1050円)になる。トランス・コスモスと直接雇用関係にある契約社員もいるが、そちらの給与は不明だ。