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米中対立の「新冷戦」が権威主義国家に及ぼす影響~ミャンマーから考える

米中は陣営維持のため、圧政による国内統制をどこまで認めるのか

加藤博章 関西学院大学国際学部兼任講師

 米国と中国の対立が激しさを増している。トランプ政権で顕著になった米中関係の険悪な状況は、バイデン政権になっても収まる気配はない。一路一帯などで他国への働きかけを強める中国。他方、米国は同盟国との結びつきを強め、中国包囲網の形成を進める。

 米中の動きは、かつての米ソ冷戦のごとく、陣営間対立のようでもある。冷戦下、米ソ両国は陣営を維持することに全力を挙げるかたわら、圧政による国内統制を黙認してもいた。米中対立を「新冷戦」と表現する向きもあるが、冷戦のときのように、権威主義国家を利する結果を生むのかどうか。本稿では、米中対立が権威主義体制にどのような影響を与えるかについて考えたい。

Delpixel/shutterstock.com

陣営間対立が権威主義国家を延命

 かつての冷戦は、米ソの核開発競争など、国際政治の文脈から語られることが多いが、それだけでなくそれぞれの国内における対立も存在した。そこでは、クーデターなどで政府の転覆をはかることで、相手陣営の勢力をそぎ、自らの陣営の強化を図っていった。逆に自陣営を維持するために、民主化もしくは共産化を行おうとする勢力に弾圧を加えることも行っていた。アルゼンチンを中心にラテンアメリカ諸国を巻き込んで行われた「汚い戦争」はこの典型例であろう。

 こうした事例は、21世紀の現在であれば、国際世論の反発を招き、各国はその行いを非難する。しかし、冷戦下においては、こうした行為に対して、米国やソ連は自分の陣営の行いについては、非難を避けるか、その動きを助けるということも行っていた。自国の陣営を維持することが最重要だったからである。

 冷戦が終結に向かうなか、軍政などの非民主的な国家、すなわち権威主義国家では、民主化運動がおこり、権威主義体制を放棄せざるを得なくなった。例えば、80年代に民主化運動が激化した韓国や東欧諸国がこれにあたる。冷戦が終焉へと向かう中で、権威主義体制を擁護する大義が失われ、民主化へと向かう動きが加速されたのである。

 冷戦下で権威主義国家は暴力によってその体制を維持することが出来た。繰り返しになるが、冷戦という陣営間対立の中で、各国が黙認せざるを得ない状況があったためである。とすれば、米中対立が激化し、新しい「冷戦」とも称される状況の中で、権威主義国家を黙認する状況が再び生まれることはあるのか。ミャンマーで進行中のクーデターを例に、その点について考えたい。

ミャンマーのクーデターを招いた民主主義

 2021年2月1日、ミャンマー連邦共和国(以下ミャンマー)でクーデターが勃発した。クーデターがなければこの日、総選挙後、初の国会が開かれるはずだったが、国軍はウィン・ミン大統領、アウン・サン・スー・チー国家顧問、国民民主連盟(NLD)の幹部などの身柄を拘束し、国会は開かれることはなかった。

 軍出身のミンスエ第一副大統領が大統領代行(暫定大統領)に就任、憲法417条に基づき、1年間の非常事態宣言を発出した。ミン・アウン・フライン国軍総司令官に立法、行政、司法の三権が委譲され、国家行政評議会議長に就任した。旧政権の閣僚24人は全員が解任され、代わりに国軍系の閣僚が11人任命された。

 何故、ミャンマーでクーデターが発生したのか。逆説的ではあるが、民主化が進展したからというのは一つの見方であろう。

 2020年11月の総選挙の結果、NLDは連邦議会の改選分の83%にあたる396議席を獲得した。他方、国軍系政党、連邦団結発展党(USDP)は33議席の獲得にとどまり、獲得議席は前回を下回った。

 この結果について、国軍は不正があったと指摘する。1月26日に国軍報道官が、翌日にはクーデターによって国軍行政評議会議長に就任したミン・アウン・フラインも選挙不正があったと主張している。

 2021年3月現在、選挙不正の有無、国軍の指摘の真偽は分からない。しかし、この総選挙の結果、NLDが圧勝したという事実が国軍側を追い詰めた可能性は十分にあり得る。クーデターがなく、無事に国会が開かれれば、憲法改正へとつながった可能性が高いからだ。ミャンマーでクーデターが発生したのは、民主化の最後の一押しを封じるためだったと言えよう。

ヤンゴンで3月8日、道路につるされたヤンゴンで女性用の「ロンジー」越しに治安部隊とにらみ合う市民=2021年3月8日、ミャンマー、ノーコーコー撮影

クーデターへの諸外国の反応

 ミャンマーで発生したクーデターに対して、米国をはじめとする国際社会からはこれを批判する声があがった。

 米国は2月11日、クーデターに関わった10人と3企業を制裁対象に指定した。3月4日には、米国製の特定品目のミャンマー向け輸出に事前の許可を必要とするとともに、ミャンマー国防省、内務省、国軍系企業を輸出規制のリストに加えると発表した。これは、デモ隊を武力で弾圧する動きに対抗するとともに、米国製品がデモ隊弾圧に使われることを防ぐ目的から行われた。

 英国やカナダも国軍幹部に対する制裁を強化している。英国は2月18日、ミャ・トゥン・ウー国防相、ソー・トゥ内相、タン・フライン内務副相が英国に持つ資産を凍結し、英国への渡航を禁止した。ミン・アウン・フライン行政評議会議長は、2020年7月にロヒンギャ迫害を理由として、すでに制裁の対象になっているが、さらに制裁を強化した形だ。カナダも、同日、ミン・アウン・フライン議長を含む国軍の9人との取引を禁止する措置を取った。

 欧米の動きとは対照的に、東南アジア諸国は当初、クーデターに対しては様子見という姿勢だった。3月2日にはASEAN特別外相会議が開かれ、国軍が外相に任命したワナ・マウン・ルウィン氏も出席した。クーデター発生以降、ミャンマーの当局者が国際会議に出席したことは、ミャンマーを国際社会につなぎ止めておくうえで、重要であり、一定の成果があったと言える。

 同会議では、シンガポールやインドネシアなどがミャンマーの現状を非難したが、AそもそもSEANには軍政下にあるタイなどミャンマーへの強硬な対応に反対する国もあり、一枚岩となることは難しい。議長声明は「当事者に暴力の自制を求める」という表現にとどまった。

 日本は、丸山市郎駐ミャンマー大使を通じて、国軍に対して自制を促すとともに、アウン・サン・スー・チー氏をはじめとする拘束中のNLD幹部の解放、そして対話を求めている。日本は、ミャンマーにとって第三の貿易相手国であり、NLD、国軍の双方とパイプを持つ。今のところ、制裁へと動く欧米に同調する動きはないが、新規のODAを見合わせるなど、慎重に圧力を強めている。

 ミャンマー最大の貿易相手国である中国は、

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