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ミャンマー、巻き込まれる日本人駐在員宅 激しさ増す軍政当局の威圧〜ヤンゴン緊急リポート第九弾

民家の捜索を始めた兵士たち 「忍耐の限界」と軍政当局

松下英樹 Tokio Investment Co., Ltd. 取締役

クーデターを起こしたミャンマーの軍政当局は「忍耐の限界」とアナウンスし始めた。日々強まる捜索と取り締まりの圧力。国民はどこまで非暴力・非服従の抗議を続けられるのか。ヤンゴン在住の日系投資家・松下英樹さんのリポート第9弾。
松下英樹(まつした・ひでき) ヤンゴン在住。2003年より日本とミャンマーを往復しながらビジネスコンサルタント、投資銀行設立等を手がけ、ミャンマーで現地ビジネスに最も精通した日本人の一人として知られている。著書に「新聞では書かない、ミャンマーに世界が押し寄せる30の理由」(講談社プラスアルファ新書)

 3月8日(月)午後9時45分。「バン、バン、バン」激しい爆発音が連続して響き渡る。ついに軍隊が行動を開始したかと思い、窓から外を見ていたら、誰かが叫んだ。「ハッピー・ニューイヤー!」。スタングレネード(閃光発音筒)の爆発音を、新年を祝う花火に見立てて、軍隊を揶揄するためだ。圧倒的な暴力に対して、ユーモアで切り返す、民衆のささやかだが痛烈な反撃だった。

3月8日21時45分、鳴り響く爆発音に「Happy New Year!」と 叫ぶ人々の声 筆者撮影

警察官を装った兵士数百人が包囲

 今、私の住んでいるサンチャウン地区バガヤ通り周辺では、数百名の兵士(警察の制服を着ているが明らかに軍人なので、以下兵士と呼ぶ)が半径500メートルほどのエリアを完全に包囲している。日中、デモ隊を鎮圧した際に、近隣の住宅に逃げ込んだ数百名の若者たちを一網打尽にするべく、午後3時過ぎから路地という路地を封鎖して、まさに蟻のはい出る隙間も無いように取り囲んでいる。大通りには空(から)の軍用トラックが何台も止まっているのが見えた。私はまさにその包囲網の中にいる。

 日が暮れてから、しらみつぶしに家宅捜索を行っているらしい。私の部屋にも兵士がやってくるかもしれない。外国人だと伝えるためにパスポートと外国人登録証を机の上に用意しておく。午後11時過ぎ、ようやく外は静かになった。このまま無事に朝を迎えることができるだろうか。

3月8日夜、完全に包囲されたサンチャウンの様子 ツイッターのスクリーンショット
https://pbs.twimg.com/media/Ev-mrPpVEAArcR2?format=jpg&name=900x900拡大3月8日夜、完全に包囲されたサンチャウンの様子 ツイッターのスクリーンショット https://pbs.twimg.com/media/Ev-mrPpVEAArcR2?format=jpg&name=900x900

 3月8日(月) 昨夜は夜中にも銃声が聞こえてきて、よく眠れなかった。昼間の爆発や空砲の音にはもう慣れたが、夜間に聞くのは初めてだった。兵士が市民を怖がらせるためにわざとやっているのだとわかっていても、気持ちの良いものではない。

 この日も早朝から大規模なデモが行われていた。前回のリポート(ミャンマー、街路に響く追悼の歌声、無数のろうそくの灯火~ヤンゴン緊急リポート第八弾)で、筆者の自宅に逃げ込んできた若者たちの様子について書いた。ここ数日はデモが激しくなると、警官隊が強制排除しようとして若者たちに襲い掛かり、彼らは大通りから路地に逃げ込む。近隣の住民も心得ているので、鍋を打ち鳴らして警告しながら、すばやく民家や商店にかくまう。しばらくして警官隊が捜索をあきらめると、若者たちは再び大通りに出て抗議デモを再開する。イタチごっこだ。

 午後3時半ごろ、ようやく外が静かになったので、たまったゴミを捨てようとしてアパートを出たら、大型のゴミ箱が設置されている路地の入口に、5、6名の兵士が路地から人を出さないようにライフルを構えて見張っていた。何かただならぬ気配を感じて緊張したが、サンダル履きでゴミ袋を持っている私に何かすることもないだろうと思い、平静を装いながらゴミを捨てて部屋に戻った。

近隣に響く銃声と悲鳴のような叫び

 夕食後PCを開くと、#Save Sanchaung(サンチャウンを救え)とハッシュタグのついた投稿が次々と飛び込んできた。一向に沈静化しないデモ隊に業を煮やした当局は、8日午後3時ごろから、下記、地図中の赤線枠内側の一帯を封鎖して、建物に逃げ込んだ若者たちを閉じ込め、暗くなるのを待ってしらみつぶしに民家の捜索を開始したのだった。

 今日は私の部屋には来なかったが、近隣の住宅に身を潜めている若者たちは、警察の影に怯えて震えているに違いない。若者たちはもちろん、かくまっている住民たちも同罪である。連行されれば何をされるかわからない。昨日会った若者たちの姿が思い出される。とにかく無事でいて欲しい。

 夜7時過ぎくらいから、近隣の住民たちが家の中から抗議の声を上げ始めた。私の自宅から少し離れたKyun Taw(チュンドー)通りの方からは散発的に銃声と悲鳴のような叫びが聞こえてきた。

3月8日午後、ヤンゴン市サンチャウン地区、包囲されたエリア。google map より 筆者作成拡大3月8日午後、ヤンゴン市サンチャウン地区、包囲されたエリア。google map より 筆者作成

画像 3月8日夜 サンチャウンの様子、https://twitter.com/YuAung19より。※このアカウントを閲覧する際は、十分に注意してください拡大画像 3月8日夜 サンチャウンの様子、https://twitter.com/YuAung19より。※このアカウントを閲覧する際は、十分に注意してください

動画: 3月8日午後8時55分 Kyun Taw 通りの様子 
動画:逃げ込んだ若者たちを追いかける警官隊の様子
動画: サンチャウンで暴れる兵士たちの様子(日本語字幕入り)

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筆者

松下英樹

松下英樹(まつした・ひでき) Tokio Investment Co., Ltd. 取締役

ヤンゴン在住歴18年目、2003年より日本とミャンマーを往復しながらビジネスコンサルタント、投資銀行設立等を手がけ、ミャンマーで現地ビジネスに最も精通した日本人として知られている。著書に「新聞では書かない、ミャンマーに世界が押し寄せる30の理由」(講談社プラスアルファ新書)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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