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ミャンマー、巻き込まれる日本人駐在員宅 激しさ増す軍政当局の威圧〜ヤンゴン緊急リポート第九弾

民家の捜索を始めた兵士たち 「忍耐の限界」と軍政当局

松下英樹 Tokio Investment Co., Ltd. 取締役

SNSを飛び交う市民連行の情報

 SNSには民家に隠れている若者たちから連絡を受けた家族や友人たちが、状況を書き込んでいる。既に数十人が連行されたらしい。

 こんな書き込みもあった。「サンチャウンに住んでいる外国人はすぐに大使館に連絡して、救援を依頼してください。彼らは外国人には危害を加えないはずです。できるだけ多くの若者を助けてあげてください。」

 たぶん近くに住んでいる外国人やミャンマー人が、本当に救援を求めたのであろう。在ミャンマー米国大使館からも当局に対して、すぐに包囲を解いて若者たちを安全に帰宅させるよう緊急メッセージが発出された。

3月8日 21:23 在ミャンマー米国大使館からのメッセージ 同大使館のFBページより https://www.facebook.com/usembassy.rangoon拡大3月8日 21:23 在ミャンマー米国大使館からのメッセージ 同大使館のFBページより https://www.facebook.com/usembassy.rangoon

 この間、状況が把握できないまま、私はベランダとPCのある仕事机との間を行ったり来たりしているだけだった。午後11時すぎ、ようやく外が静かになった。今のところ私が住んでいる路地までは捜索の手が及んでいないようだ。まだ安心はできないので、外出できる服装のままで就寝した。

 3月9日(火)6時起床。外を見ると、既に兵士の姿はなかった。どうやら心配していたような事態にはならなかったようだ。身支度を整えるとすぐにオフィスに向かった。日中はいたるところで交通が遮断されるため、安心して移動できるのは早朝と夕方だけである。

 午前9時、インターネットが接続可能となる(現在、午前1時から午前9時までインターネットは遮断されている)。すぐにこんなニュースが目に入ってきた。

[9日 ロイター] - ミャンマーの主要都市ヤンゴンでデモに参加し、治安部隊によってサンチャウン地区に追い込まれた数百人の若者が同地区から移動できるようになったと、活動家らが9日、明らかにした。

 青年活動家のシャー・ヤモネさんは、約15~20人の人たちと一緒に建物にとどまっていたが、帰宅できたと電話で語った。別のデモ参加者は、治安部隊が同地区から去ってから2時間後の午前5時ごろに離れることができたとソーシャルメディアに投稿した。

 活動家団体によると、治安部隊はサンチャウン地区の家々を捜索し、約50人を逮捕した。

 報道によれば、午前3時くらいに包囲網は解かれたようである。50人ほどは捕まってしまったようだが、ほとんどの若者は無事に帰宅できたようだ。それにしても、昨夜は本当に怖い思いをしたことだろう。彼ら、彼女らはこんな目にあっても、抗議活動を続けることができるだろうか。心配だ。

 午前10時、遅刻してきたミャンマー人スタッフが私に声をかけてきた。「松下さん、昨夜は大変だったでしょう。大丈夫でしたか?」「家の周りが包囲されたこと? どうして知っているの?」「知っているどころじゃないですよ。昨夜はヤンゴン中で『サンチャウンを救えって』言って、みんな朝まで路上でデモをやっていたんですよ。警察を呼び寄せてかく乱するために。そのせいで遅刻してしまいました。すみません」

 クーデター発生以来、午後8時以降は外出禁止となっている。夜間外出することは、それだけで逮捕される危険に身をさらすことだ。既に全国で50名以上が殺害され、1000人以上が逮捕されている。その最中に夜間デモに参加するのは、文字通り命懸けの行為である。渦中にいた私が寝ている間に、ヤンゴン中で必死の抵抗が続いていたのであった。

 SNSには昨夜のデモの様子が次々とアップされていた。画像を見て、私も胸が熱くなった。ありがとう。おかげで多くの若者たちが救われた。そして、私も。

#Save Sanchaung  夜間デモへの参加を呼びかけるツイッターの投稿のスクリーンショット拡大#Save Sanchaung 夜間デモへの参加を呼びかけるツイッターの投稿のスクリーンショット

巻き込まれる日本人駐在員

 2月28日には日本人の家に催涙弾が撃ち込まれるという事件があった。また3月8日の夕方には、職場から帰宅途中に治安部隊とデモ隊との衝突現場に遭遇した日本人駐在員が、車に乗り込んできた治安部隊に銃を突き付けられたとの事。どちらも外国人を狙ったものではなく、大事には至らなかったものの、危険は身近に迫っている。今後は帰国を検討する駐在員も増えてくるだろう。

2月28日 日本人の部屋に催涙弾が撃ち込まれた現場。画像は本人のnoteより。
https://note.com/tomoyaan/n/nda74235a2324拡大2月28日 日本人の部屋に催涙弾が撃ち込まれた現場。画像は本人のnoteより。 https://note.com/tomoyaan/n/nda74235a2324

 8日夜、国営のMRTVは「政府の忍耐は限界に達した。暴動を止めさせるために犠牲者を最小限に抑えようとしてきたが、大半の人々は完全な情勢安定化を求め、暴徒に対するより効果的な措置を要請している」と、さらに取り締まりを強化する方針を伝えている。

 国民はいつまで、非暴力、不服従の抗議を続けられるだろうか。恒例になった午後8時の鍋叩きの音も次第に小さくなってきている気がする。


筆者

松下英樹

松下英樹(まつした・ひでき) Tokio Investment Co., Ltd. 取締役

ヤンゴン在住歴18年目、2003年より日本とミャンマーを往復しながらビジネスコンサルタント、投資銀行設立等を手がけ、ミャンマーで現地ビジネスに最も精通した日本人として知られている。著書に「新聞では書かない、ミャンマーに世界が押し寄せる30の理由」(講談社プラスアルファ新書)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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