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ミャンマーでフェイスブックを「武器」に闘う市民~ 独自の“リテラシー”も

クーデター批判に国軍はネット遮断や通信傍受を合法化する法案策定を進めるが……

海野麻実 記者、映像ディレクター

ミャンマー最大都市ヤンゴンで、伝統の日焼け止め「タナカ」を塗って国軍のクーデターに抗議する市民たち=ヤンゴン市民提供

 「フェイスブック(Facebook)は民主化を成し遂げる武器なのです」

 国軍がクーデターで実権を掌握したミャンマーで今、Z世代と呼ばれる若者たちを中心に、「フェイスブック」上での抗議活動が勢いを増している。

 軍部によるたび重なるインターネットの遮断にもかかわらず、VPN(仮想プライベートネットワーク)を経由して、「国軍の挑発には乗らない」「非暴力の抵抗を」と平和的な運動を呼びかけるハッシュタグが無数にシェアされ、路上でデモ抗議を行う人々の様子が、タイムラインで溢れるように拡散されていく。ミャンマーの伝統的な言い伝えにちなみ、悪霊に見立てた国軍を祓(はら)うため、大音量で鍋やフライパンなどの金物を一斉に叩くなどの連帯がフェイスブックを通じて瞬く間に広がり、軍への不服従を呼び掛ける運動もフェイスブック上で一気に勢いを加速させた。

フェイスブックはクーデターへの「もう一つの主戦場」

 今や、ミャンマー全土で、無数のスマートフォンが抗議の声を上げている。

 そもそもミャンマーでは、1988年の「8888民主化運動」や2007年の「サフラン革命」など、独裁政権の打倒に向け、市民が民主化を求めて力強く蜂起してきた歴史がある。しかし、21世紀の若者たちの結集は、これまでミャンマーに存在しなかったソーシャルメディア「フェイスブック」という武器を得て、新たな旋風を巻き起こしている。

 そう、今やフェイスブックはミャンマーで起きたクーデターに抗(あらが)う「もう一つの主戦場」なのだ。

 最大都市ヤンゴンで生まれ育ったミャンマー人女性は、こう強調する。

 「今やフェイスブックは私たちミャンマー人にとってなくてはならないものです。今、私たちはフェイスブックという武器を得て、クーデターに立ち向かっているのです」

国民の半数以上が使用する“命綱”

 なぜ、これほどまでにフェイスブックでの抗議運動が加速しているのか。それは、ひとえに、ミャンマー人が口を揃えていうこの言葉に尽きる。「フェイスブック=インターネットなのです」

 50年に及び軍事政権による支配下にあったミャンマーだが、2011年に民政移管を成し遂げた後、通信事業自由化によりインターネットが徐々に国民生活に浸透、多くの国民がスマートフォンを手にするようになった。特に、フェイスブックユーザーは劇的なスピードで増え続け、現在は国民の半数以上がフェイスブックを使用している。

 ニュースなどを検索するエンジンもGoogleやYahoo!ではなく「フェイスブック」。気になるワードを検索の窓に入力すれば、あらゆることが完結してしまうのが、ミャンマー流。美味しい飲食店探しや人気コスメの検索に始まり、家具や家電の購入、不動産探し、さらにはお見合い相手の発掘に至るまで、フェイスブックの検索機能を使えば全て完了、といった具合だ。

 今回、フェイスブックが遮断されるというニュースが報じられた際、まるで”命綱”が絶たれるかのような悲痛なコメントがタイムラインに溢れたのも、こうした切実な背景があるからだ。

逮捕にきた警察への対応「マニュアル」が拡散

 抗議デモや不服従運動に参加した市民らが次々に拘束される動きが出るなか、クーデター発生から暫くすると、フェイスブックを「武器」として対抗する動きは独特の進化を遂げ始めた。

 主に夜間にデモ抗議参加者らを拘束する警察官らの様子を市民がスマートフォンで捉えた写真や映像が、瞬く間にフェイスブック上で拡散。フェイスブック・ライブ(Facebook live)などを通じて市民のスマートフォンから実況中継され始めてもいる。さらに、ミャンマー国民の間で急速に拡散されているのは、警察が逮捕に訪れた際にどう行動するか、という「マニュアル」だ。

 様々なアドバイスが載せられているのだが、基本的には以下の通り。

●家の鍵を必ず閉じておきましょう
●警察が来たら鍋やフライパンを鳴らして近隣の住民らにも知らせましょう
●逮捕に訪れた警察官の顔写真を撮影しましょう
●警察官の身分証明書の提示を求めましょう
●逮捕の根拠を示す書類提示を求めましょう

 そして、最も大切なこととして求めているのが、

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