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再ストリップ宣言

[230]赤木雅子さん裁判、福島市、桐野夏生さんとの対話……

金平茂紀 TBS報道局記者、キャスター、ディレクター

 今から4年半前に、このWEBRONZA(現「論座」)で日誌を連載するにあたって、僕は「精神のストリップを行う覚悟について」と題して、こんな文章から日誌を書きだしていた。2016年9月26日のことだった。

 「……その昔、澁澤龍彦が生い立ちから処女出版までの短い自作年譜を記した末尾に、<これだけ書くのも、私には精いっぱいであり、まことに苦痛のきわみであった。ストリップを演ずるような苦痛である。肉体のストリップなら、まだましであるが、精神のストリップは、性に合わない>と記していた。さすがに精神貴族である。端的に言って、自己顕示は醜悪だ。その醜悪をこれから行うというのだ……」

 以来、幾度となく自己嫌悪に耐えながら日誌を書き続けてきた。本にもしていただいた(『漂流キャスター日誌』七つ森書館)。その後も書き続けた。2020年11月にアメリカで大統領選挙を取材しながらも、その日誌は何とか書き続けられ、精神のストリップを演じ続けてきた。

 そのアメリカでの取材中に、4年ほど使っていた私物のパソコンがクラッシュしてしまった。もともとそのPCとは相性があんまりよくなかったのだが、騙し騙し使い続けていた。それが本当に動かなくなってしまった。根がずぼらな性格ゆえバックアップをとるという習慣がなかったので、PCのなかのデータが全部お陀仏になったなあと諦めていた。壊れたタイミングも、何と大統領選挙でトランプ敗北が決まった劇的な時に、だった。やれやれ。

 ワシントンD.C.の黒人街のPCショップに駆け込んだが全く埒があかなかった。コロナ禍のもと、アメリカから日本に帰国してからの2週間の自己隔離で、ホテルに缶詰めになり、パソコン修理やらデータ復旧やらもままならない。取材現場にも行けない。拷問のような2週間だった。

 そのひとつの帰結として、データを復旧させてから古い順番に日誌を書いていくという作業を諦めざるを得なくなった。本音を言えば気力が失せたのだ。もういいや、こんなストリップ。徐々にしかし確実に、何だかこの精神のストリップ作業を続けること自体にひどく疲れていた自分が見えてきた。何度も起き上がってはストリップを再開しようと試みたのだが、ものすごい圧を感じるようになっていた。

 だが3カ月もすると、自身を客体視して文章を書いていた精神状態が自分にとってきわめて大切などこか「懐かしい」時間だったことがわかってきた。それは、自省的になる時間でもあった。ただ、そうこうするうちにも、時間は無慈悲に過ぎ去っていく。継続すること自体が日誌の重要なポイントだったのだが。

 そんな折、何人かの読者の方々から「どうしたんですか?」という問い合わせをいただいた。精神のストリップにずっとお付き合いしてくださった方々が心配してくれていたのだ。それは小さな声だったかもしれない。けれども心に沁みた。コロナの時代の愛。

 時間は有限だ。僕にはもうそれほど残されていないような気がしている。復旧したパソコン内のデータは何とか取り出せてハードディスク内に保存できた。それをもとに古い記録は徐々にゆっくり書き足していくとして、とりあえず、今のこの状態を客体視して日誌を再開していくことにしたい。ご支援、激励まことにありがたし。
*連載[215]~[229]は後日配信していきます(編集部)

「論座」連載をまとめた『漂流キャスター日誌』(七つ森書館 )「論座」連載をまとめた『漂流キャスター日誌』(七つ森書館 )

「赤木俊夫ファイル」で致命傷を負う人々がいる

2月17日(水) あしたからの福島取材のためPCR検査を受ける。これで7回目になる。今では唾液採取方式が多数派となり、検査結果もその日のうちに出る。朝、検体を提出すれば、午前中には何とか結果が出るという早さだ。今回も陰性だった。

 チョン・ギョンモ氏死去。戦後日米韓関係史のなかで特別な位置を占めた人物だ。オンラインで日本記者クラブの宮城県女川町長記者会見をみる。思うところ大。

 森友学園問題の財務省公文書改ざんで自殺した近畿財務局の赤木俊夫さんの妻・雅子さんが提訴した民事訴訟の口頭弁論取材で大阪へ。今回は傍聴希望者が多く、大阪地裁前で列をつくって並んだ。くじ引き抽選の結果、何と運がいいことに当たった。倍率約2.5倍かな。列の中には知り合いが結構いた。

筆者提供筆者提供

 法廷では、国側の代理人が5人着席していて、報道の代表カメラによる冒頭撮影があったが、それが終わるや、10人くらいの省庁関係者がどっと入廷してきて国側の席に座った。何か後ろめたいものでもあるのか、カメラに映りたくないようなのだった。

 今日の法廷では、原告側が文書提出命令を裁判所に要請するにあたって、雅子さんの意見陳述があった。まともな市民感覚からすると、どのような経過で赤木俊夫さんが死に至ったのかを知るうえで「赤木ファイル」の調査は不可欠なもので、なぜ国側が「ファイル」を法廷に提出しないのかが理解不能。どの部分を誰からの指示でどう消去・修正したのか。それが明らかになると、困難な立場となる、あるいは致命傷を負う人々がいることが推認される。大阪地検特捜部は、その内容をすでに把握しているのだろうが、刑事立件については、すでに不起訴処分にしていて、ファイルの存否も含めて明らかにしていない。

 閉廷後の記者会見を取材していたら、

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