なぜ個人情報保護上、万全とは言えないLINEが優遇されているのか
2021年03月23日
無料通信アプリLINE(ライン)への信頼感を失わせる出来事が朝日新聞によって明らかになった。2021年3月17日付の「朝日新聞電子版」に掲載された「LINEの個人情報管理に不備 中国の委託先が接続可能」や「中国の4人に接続権限 LINE「日本に人材おらず」」という記事がそれである。
だが、LINEを使わないことを学生に勧めてきた筆者にとっては、信頼性に乏しいLINEの不祥事は「当然」としか感じられない。むしろ危惧されるのは、LINEを使った行政サービスを行っている行政機関が数多く存在することだ。過度の同調性から、安易にLINEを使ってきた日本行政サービスの現状に警鐘を鳴らしたい。
拙稿「LINE、ヤフー、そしてソフトバンクへの疑問」のなかで、筆者はつぎのように書いた。
「筆者の授業を受けている学生やゼミ生にはシグナル(Signal)を推奨している。ラインよりもずっとプライバシー保護が徹底しているからだ。2013年に米国政府の諜報活動の実態を暴露したエドワード・スノーデンは国家安全保障局(NSA)などと民間会社との個人情報協力を明らかにしたが、その段階でメッセンジャー・アプリのなかで暗号化による情報漏れの防止措置をとっていたのはシグナルやウィッカー(Wicker)くらいであった。」
LINEはもともと、2011年の東日本大震災をきっかけに誕生した。その出自は複雑だが、いわゆるモバイル・メッセンジャー・アプリの一つである。同じようなアプリには、フェイスブックが提供するワッツアップ(WhatsApp)やフェイスブック・メッセンジャー、テンセントのウィチャット(WeChat)、アップルのiMessageなどがある。
今回、問題になったのは、中国にある関連会社にシステム開発を委託するなどし、中国人技術者らが日本のサーバーにある利用者の個人情報にアクセスできる状態にしていた点だ。LINEという会社は個人情報の保護にルーズであるという強い印象を受ける。
もっとも、メッセンジャー・アプリに詳しい人であれば、LINEが個人情報保護という観点からみて推奨できないことは常識だろう。それは、暗号化による情報保護が不十分な点に現れている。
元CIA職員で、国家安全保障局(NSA)の仕事も請け負っていたエドワード・スノーデンによる暴露で、個人情報が携帯電話会社からNSAに漏れていることがわかったのが2013年のことである。「プリズム」と呼ばれるシステムを通じて、NSAは検索履歴、e-mail の内容や送受信 履歴、ファイル転送先、ライブ・チャットを含む、いわゆる「メタデータ」を携帯電話会社から収集していたのだ。
利用者の信頼を失った携帯電話会社は、スマートフォンなどで暗号を使って末端から末端までの暗号化(end-to-end encryption, E2EE)によって情報を保護しようとするようになる。この努力において、もっとも利用者から高い信頼を得ているのがシグナル(Signal)だ。
たとえば、2021年1月12日に更新された「最も安全なメッセージングアプリ10選」という記事では、WhatsApp、iMessage、LINEを含む10のアプリのうち、「シグナルがもっとも優れたアプリであると考えている」と結論づけられている。シグナルは100%オープンソースであり、ユーザーデータに依存する企業の資金ではなく、寄付や助成金によって運営されているほか、シグナルに統合されているメッセージングプロトコルは、今日の市場で最も安全なものであると考えられているとも指摘されている。
2021年3月10日に公表された「2021年、プライバシーとセキュリティに最適なメッセージングアプリ」によると、この時点で、LINEもWeChatもあらかじめ設定されている標準の状態(初期設定)でE2EEを搭載していない。ゆえに、あまりアプリに詳しくない人にとっては、プライバシーの保護が蔑ろになりやすい。なお、この記事でも、「メッセージングアプリは数多くあるが、そのなかでも、シグナルは、リーチの広さ、セキュリティ、プライバシー対応の機能などの点で、本当にお勧めのアプリである」と書かれている。
このところ、多発するみずほ銀行の現金自動預払機(ATM)障害にみられるように、コンピューターの運営会社の良し悪しが提供するサービスの信頼性を決定づけていることがわかる。そう考えると、LINEの運営会社が信頼に足るのかどうかが気にかかる。
ヤフーを抱えるZホールディングス(ZHD)は2021年3月1日、LINEと経営統合した。ZHDはソフトバンクの子会社で、その親会社がソフトバンクグループということになる。同グループのトップに立つのは孫正義である。
この孫が国際的に
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