迫力不足の中国側
今回の米中会談で強く感じたのは、中国側の準備が粗雑なことと、政治の流れに対する“読み”の浅さだ。国内で一般国民に対して行う手法や説明ぶりと同じでは、国際社会では通用しないことを、まずは認識するべきだろう。
ブリンケン国務長官はオバマ大統領の時代、バイデン副大統領の腹心であった。また、今回のトップ会談に同席したサリバン大統領補佐官も信頼が厚い同志だ。いずれも大統領と思想的・政策的に一体であるから、会談においてはかなりの当事者能力がある。中国側の発言への応答に関して、アラスカからワシントンにいちいち確認をする必要はないのである。
また、ブリンケン国務長官は形式的には副大統領に次ぐ立場だが、実質的には政権のナンバーツーである。それに米国務長官の国際政治への影響力は突出している。
このように充実した布陣で会談にのぞんだ米国側に対し、中国側の陣容はいかにも弱い。
楊氏は外交トップとはいえ、25人いる共産党政治局員の一人に過ぎない。外相と国務委員を兼任する王毅氏も外交担当2位ではあるが、党の序列は高くはない。これだけでも、会談において強い当事者能力は期待できない。結局は、習近平主席など上層部の指示を待つ他はないからだ。
勢い、中国側の対応はかたちだけのものになる。米国側は楊氏らの言動について「スタンドプレーを意図しているようだ」と指摘したが、映像からもそれはうかがえた。

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米国側の強硬姿勢の背景に王毅氏の発言
中国側の今回の会談に臨む姿勢を決定づけたのは、世界経済フォーラム(WEF)が1月25日にオンラインで開催した「ダボス・アジェンダ会議」における習近平・国家主席の演説と、王毅国務委員兼外相が3月7日、全国人民代表会議(全人代)に合わせて行った記者会見だろう。
習主席は「ダボス」での演説で「『新冷戦』によって他者を排斥、威嚇し、制裁を行うことは世界を分裂や対抗に向かわせるだけだ」と強調して米国を牽制(けんせい)した。だが、常識的に考えれば、中国が進めつつある経済力と軍事力を駆使した現状変更の覇権主義を野放しにするわけにはいかない。
ちなみに「新冷戦」という言葉は、日本でも一部で使われているが、中国の習主席の常套句(じょうとうく)である。覇権主義が招いた混乱の責任を米国にも分担させようという意図がある。「新冷戦」は「どっちもどっち」という国際世論を期待している事には注意を要する。
この「ダボス」の習演説を反映してか、王毅外相の記者会見での発言も強硬そのものだった。「(米国は)民主や人権の旗を掲げて他国の内政に干渉し、動乱の原因を作ってきた」と米国を強く批判。民主派を排除する香港の選挙制度の改変については、
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