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総務省接待問題でも露呈 官僚と政治の異様で危機的な関係をどう正すのか

官邸周辺の意向に右往左往する官僚。あるべき「政官関係」に向けた分析と提言

加藤創太 東京財団政策研究所研究主幹

権力の集中と分散のバランス

 統治機構のあり方を考えるうえで最も重要な視点の一つは、権力の集中と分散のバランスのあり方である。

 古くは三権分立に始まり、権力の均衡と抑制のあり方については様々な枠組みが提案されてきた。東京財団政策研究所ではここ数年、権力の集中と分散のバランスについて、「政治のリスク分析」プロジェクトで分析を行ってきており、その一環として政官関係についての分析も行った。

 民主主義国家における官僚には、「政治への応答性」が求められる一方、「政治に対する自律性」も求められる。そして両者の関係は、権力の集中と分散の問題そのものでもある。前者を重視すれば政治に権力が集中し、後者を重視すれば権力は分散する。立法府と行政府とが明確に分立している大統領制に比べ、日本の採る議院内閣制では、官僚の政治への応答性と自律性とのバランスのあり方には、とりわけ繊細な配慮が求められる。

 政官関係についての議論はともすると、「政治主導か官僚主導か」といった過度に単純化、抽象化された二元論的な構図で語られることが多かった。しかし実務に適合しつつ、適切な権力の集中と分散のバランスを取るには、よりきめ細かな対応が必要となる。

 本稿ではそのような視点から、今後の制度的対応のあり方について具体的に提言したい。

政治行政改革の行き着いた先

 政官関係のあり方は、1990年代以降の日本で最も大きな政治論争の対象となった争点の一つである。

 バブル崩壊後、「官僚の無謬性」の虚構は崩れ、激しい「官僚バッシング」が沸き起こった。「強すぎる」官僚の力を抑制し、いかに「官僚主導」を排し「政治主導」を実現するかが、90年代後半以降に進んだ諸改革の大きな方向性の一つだった。

 一連の改革の結果、日本の政官関係は、他国との比較で見ても、政治サイドに強力かつ集権化された制度的な権力を与えることとなった。特に大きな影響力を持ったのは、閣僚人事検討会議、内閣人事局などによる幹部公務員の人事権の掌握だ。

 ただ、制度だけでは政治や行政の実態は決まらない。政官関係についての現在の諸制度の原型は、90年代末の橋本龍太郎政権の頃にすでに形成されていた。閣僚人事検討会議が発足したのも橋本政権時だ。

 しかし、日本でも強力な「政治主導」が実現しつつあることを多くの国民が実感するのは、2012年に誕生した第二次安倍晋三政権が誕生してからである。そこで顕わになったのは、政治――なかでも権力が集中した官邸――に「忖度」し、駆けずり回る幹部官僚たちの姿である。

 最近は、「官僚主導」の問題点を指摘する主張は政界でもメディアでも少なくなった。逆に、政治、特に官邸への権力集中を問題視する論調が目立つ。しかし、90年代以降の諸改革が目指していたのは、まさに「官僚主導」を排し「政治主導」「官邸主導」を実現することである。

 見方によっては、現在の状況は、一連の改革が目指していた到達点とも言えよう。改革の目的は達せられたのであろうか。あるいは行き過ぎたのであろうか。官僚の政治的応答性と自律性とのバランスが問われる局面に、今はある。

拡大首相官邸(奥)と公邸= 2017年1月18日、東京都千代田区(本社ヘリから)

政治家のモラルハザード、官僚のモラルハザード

 官僚の政治的応答性と自律性のバランスについては、1940年代に官僚の「政治的説明責任」と「プロフェッショナルとしての責任」との緊張関係の問題として、ハーバード大学(当時)のカール・フリードリッヒとユニバーシティ・カレッジ・ロンドン(当時)のハーマン・ファイナーとの間で激しく論じられている。政治応答性を重視するファイナーが、階層的な制度によって政治は官僚を統制すべきだと考えたのに対して、自律性を重視するフリードリッヒは、組織的な統制ではなくプロフェッショナルとしての責任感により、官僚を内的に規律づけることの重要性を強調した。

 官僚の政治応答性と自律性とはトレードオフの関係にある。前者を徹底すれば、官僚は政治に完全に従属し、政治に権力が集中する。この場合、政治家が国民全体の方向を向いていれば良いが、自らの選挙や利権や政治闘争のために官僚を使うといった事態も生じるだろう。そこでは、政治家のモラルハザードが問題になる。

 一方、後者を徹底すれば、官僚に民主的なコントロールが効かなくなる。また官僚機構の中でも、各省庁や各行政機関が自律権を持つようになる。権力は分散するが、迅速かつ体系だった政策決定が困難となる。省益や私益に走る官僚も出てくるだろう。官僚のモラルハザードの問題である。

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筆者

加藤創太

加藤創太(かとう・そうた) 東京財団政策研究所研究主幹

1991年東京大学法学部卒。通商産業省入省(大臣官房総務課企画室)。ハーバード大学ビジネススクール修士課程(MBA、優等号受賞)、ミシガン大学政治学部博士課程(PhD)修了。経済産業省国際経済課課長補佐、経済産業研究所上席研究員などを経て、2006年から国際大学教授。2016年から2020年まで東京財団常務理事(政策研究担当)。著書に、『財政と民主主義』(共編著、日本経済新聞出版社)、『日本経済の罠』(共著、日本経済新聞出版社)など。受賞歴に、日経図書文化賞(2001年)、大佛次郎論壇賞奨励賞(2002年)、Society for Advancement of Socio-Economics(SASE) 最優秀論文賞(2012年)など。