市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員
1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
「不完全な五輪」に成り下がり、開催国なのに過半数が反対――根底に政治不信も
2021年夏の東京オリンピック・パラリンピックで、海外からの観戦・観光客の受け入れを断念する方針が正式に決まった。新型コロナウイルス感染の再拡大や、水際での検査態勢強化、一時的な人口増による集団感染の恐れなどを考慮したもので、日本政府や国際オリンピック委員会(IOC)などの立場からはやむを得ない選択だろう。
NHKは翌日の夜に「生討論!」というスペシャル番組を組み、東京五輪はどうあるべきか、アスリート出身者や主催側幹部、識者らが真剣な議論を繰り広げた。
五輪を開催する、しないの判断基準や線引きが明確でない。大会組織委員会の理念が見えない、大半は大会が開かれることを願うが、各方面でそのための努力が足りないのではないか……。本音に近いと思われる厳しい意見、組織内部の悩みも明かされた。
しかし、何かどうも消化不良の感じが残った。スポーツの祭典、平和を望む祭典を可能なら開いた方が良いのは当然だ。アスリートの晴れ姿も見たい。一方で、まだ語り尽くされていない、タブーのようなよどんだ空気感のある問題が背後にあったからだ。
それは、「日本の政治と五輪」の奇妙な関係。政治が五輪に与えた「足かせ」とも言える。
「癒着している」とか「政権による五輪利用」とまでは断言しにくい。
突き詰めれば、東京に五輪を誘致する時からの安倍晋三首相(当時)の言動と、そのうさんくささを引きずっているから。誘致当時の官房長官として安倍氏を支え、政権を引き継いだ菅義偉・現首相が、安倍政権時代を否定できず、今に至るまで自縄自縛に陥っているということだ。