メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

ドイツ地方選の衝撃~メルケル与党大敗で欧州政治に変革の可能性

長期政権の劣化を露呈、与党はずしの連立構想が浮上

花田吉隆 元防衛大学校教授

コロナ対策で打ち出したイースター休暇中の行動制限強化策を撤回して謝罪したドイツのメルケル首相=2021年3月24日、photocosmos1/Shutterstock
 3月21日の千葉県知事選挙は、102万票の大差で自民党推薦候補が敗れ去った。4月25日の衆参3補選、再選挙を前に、自民党関係者は先行きに不安を感じざるを得ない。丁度それと踵を接するかのように、海の向こうでも同じことが起きた。

2州ともメルケル首相のCDUが歴史的惨敗

 3月14日に行われたドイツ西部二州における州議会選挙は、メルケル首相のキリスト教民主同盟(CDU)にとり衝撃的な結果となった。

 元々、両州とも対立政党が政権を握る。従って、負けてもともとであり、大敗さえしなければいいというものだった。しかし現実には、まさにその大敗を喫した。

 CDUのバーデン・ビュルテンベルク州での得票率は24%で、前回2016年より約3ポイント少なく、第一党となった緑の党の32%に大きく水をあけられた。もう一つ、ラインラント・プファルツ州では28%だったが、これも前回より約4ポイント減らし、第一党の社会民主党(SPD)の36%とは8ポイントもの開きがある。CDUの得票率は、ともに過去最低だ。

新党首への危惧拡大、首相候補選びに影響

 CDUの新党首アルミン・ラシェット氏にとり、今回は初陣だった。選挙は、この新党首の下でCDUがどれだけ戦えるかを占うものだったが、有権者のラシェット氏に対する評価は厳しかった。

 ラシェット氏では、CDUがこれからどうなっていくのか、明確なイメージを描けず不安だとの有権者の声を前に、CDU内では、これで9月の連邦議会選挙が戦えるのかと危惧する声が出始めた。

 各党はこれから首相候補を絞り込んでいく。CDUが、ラシェット氏では勝てそうもないとすれば別の候補を立てていくしかない。

ドイツ最大与党・キリスト教民主同盟(CDU)のアルミン・ラシェット党首。1月の党首選で選出された=photocosmos1/Shutterstock.com
キリスト教社会同盟(CSU)のマルクス・ゼーダー党首=photocosmos1/Shutterstock.com

 有力なのが姉妹政党、キリスト教社会同盟(CSU)の党首、マルクス・ゼーダー氏で、同氏の国民の人気は高く、有力候補であることは疑いようもないが一抹の不安がないでもない。これまでCSUの候補で戦って一度も勝利したことがない。今回、同じ轍を踏むわけにはいかない。

 しかしここにきて、今回の選挙の意味するところは、首相候補の調整問題だけに止まらないのではないか、との見方がでてきた。

国政選への影響見越し、連立構想が変化

キリスト教民主同盟(CDU)の党本部建物にある党名のロゴ=hydebrink/Shutterstock.com
 何といっても、CDUの負け方がひどい。過去最低の得票率は、今後これで止まってくれるのか、それとももっと下がっていくのか、はっきりしたことはわからないが、CDUに更なる逆風が吹くことも十分考えられる。

バーデン・ビュルテンベルク州議選で、緑の党への支持を訴えるクレッチマン州首相のポスター=2021年3月12日、シュツットガルト
 逆に、緑の党の躍進は目を見張る。バーデン・ビュルテンベルク州のヴィンフリード・クレッチマン州首相(緑の党)の人気は、緑の党が十分な政権担当能力を持っていることを示している。

 今後、CDUの凋落と緑の党の躍進という今回の流れが加速していくようであれば、連邦議会選挙も影響を受けないではいられない。

 これまで、9月の選挙後に関し、誰もが、第一党のCDUと第二党の緑の党による連立政権を予想していた。しかし、場合によっては、この見方は修正しなくてはならないかもしれない。では、一体どういう連立の組み合わせがあり得るのか。

緑の党を軸に、CDU外しの「信号連立」急浮上

 ここで、急速に浮上してきたのが、「信号連立」の可能性だ。信号連立とは、緑の党、SPD(シンボルカラー、赤)にビジネス重視の自由民主党(FDP、黄)を加えた「緑赤黄」連立をいう。

 今、大方の世論調査で、CDUは急速に支持率を失いつつあるが、これがこのまま続き、代わって緑の党が躍進するようなことがあれば、選挙後の連立交渉をCDU抜きですることもあり得ないことではなくなる。CDUを外し、2位以下による連立の可能性だ。

 無論、緑の党とFDPとは立場にかなりの隔たりがあり、交渉は容易でないかもしれない。しかし妥協が不可能というわけでもない。現に、ラインラント・プファルツ州では、この組み合わせで政権運営が行われている。

独政治の左旋回を招き欧州全体を揺るがす可能性

緑の党のサイン=Tobias Arhelger/Shutterstock.com
 もし仮に信号連立が実現すれば、ドイツ政治は緑の党を軸に大きく左旋回することになる。1998年から2005年の、SPDと緑の党による連立政権の再来だ。

 変化は気候変動問題への政策に止まらない。公共投資や財政赤字に対する基本姿勢や、場合によっては中露への対応も変わる可能性がある。ドイツ政治の変化はドイツ国内に止まらず、欧州全体に波及していくだろう。

 つまり、この選挙の持つ意味は、今後のドイツ政治並びに欧州全体の動きを占う上で極めて重要ということだ。今や、

・・・ログインして読む
(残り:約1531文字/本文:約3453文字)