松下英樹(まつした・ひでき) Tokio Investment Co., Ltd. 取締役
ヤンゴン在住歴18年目、2003年より日本とミャンマーを往復しながらビジネスコンサルタント、投資銀行設立等を手がけ、ミャンマーで現地ビジネスに最も精通した日本人として知られている。著書に「新聞では書かない、ミャンマーに世界が押し寄せる30の理由」(講談社プラスアルファ新書)
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
殺戮をためらわないミャンマー軍の論理とは
ミャンマー国軍は、国民に平然と銃を向け、発砲もいとわなくなった。メディアを通して、国民を脅迫するようなメッセージを流している。なぜ彼らはこのような暴挙に出るのか。ミャンマーという国の歴史と現実が、そこには透けて見える。ヤンゴン在住の日系投資家・松下英樹さんのリポート第10弾。
松下英樹(まつした・ひでき) ヤンゴン在住。2003年より日本とミャンマーを往復しながらビジネスコンサルタント、投資銀行設立等を手がけ、ミャンマーで現地ビジネスに最も精通した日本人の一人として知られている。著書に「新聞では書かない、ミャンマーに世界が押し寄せる30の理由」(講談社プラスアルファ新書)
3月27日(土)、クーデター勃発後、この2か月間で最も政治的に緊張している日を迎えた。今日は国軍記念日の祝日で、首都ネピドーでは恒例の軍事パレードが開催され、ミン・アウン・フライン総司令官が演説をおこなうことになっている。
3月27日 17時30分 マンダレー ミンジャン地区 5名が死亡した(ツイッターから)As of 1730 today (Mar 27), the coup regime has killed five people and injured 11 in Myingyan, in Mandalay. The deceased includes a 13-year-old who was hit in the neck. Between Mar 3 and Mar 27, a total of 14 people have died in Myingyan. #WhatsHapppeningInMyanmar pic.twitter.com/ootlT6kFAM
— Myanmar Now (@Myanmar_Now_Eng) March 27, 2021
数日前から、この日に合わせて、2月22日のような全国規模のデモが行われるとか、少数民族武装組織と市民らによる「連邦軍」(Federal Army)が国軍に対し宣戦布告するとかいった噂もあり、最大級の警戒が呼びかけられていた。私も数日分の食糧を買い込み、この週末は避難先のホテルの部屋に籠っている。
午後9時(現地時間)、今のところ大規模な衝突は起きていないようだが、SNSには各地から続々と死傷者が出ているという投稿が寄せられている。現地メディアによれば、今日だけで100名以上が殺害され、1日の犠牲者としてはクーデター発生以来、最悪の規模となってしまった。
軍人に見つかれば撃たれるという状況が続く中、それでも市民の抵抗は止むことがない。クーデター反対から始まった抗議デモは国軍の支配から脱却し、真の民主主義を求める市民革命(Spring Revolution)へと変化している。
前日(3月26日)のMRTV(国営放送)では「ミャンマーの将来を担う若者たちへ」と題して、抗議活動を続ける若者たちに対し次のような警告が発せられた。
以下は友人による和訳である。
"未来を担うミャンマーの次世代の若者たちへ"
・一部の若者が、植民地主義者にそそのかされ、ゲームに興じるかのような感覚で、国家破壊計画に基づき内乱を起こそうとする者の行為に加担したがっている。用心するべし。
・後頭部及び背中を撃たれる危険があるということを、無残な死の前例から教訓を得よ。惑わされるな、息子たち、娘たちよ。親はしっかりと子に理解させ、事前に阻止するべし。無駄死にさせないように。
・法律に反する騒乱を起こし破壊行為を働けば、過ちを犯すことになろう。同世代の友人たちが過ちを犯す前に、説得し救済せよ。若者の人生は、国と国民の利益のため以外のものであってはならない。
──これは警告というより脅迫に近い文言である。そしてそれは容赦なく実行された。
以下は本日(3月27日)の午前中に、南部のダウェイという街で撮影された、通りがかったバイクに乗っていた若者たちを誰何することもなく、いきなりライフルで射撃した瞬間の映像である。
国軍記念日は第二次大戦末期の1945年3月27日、敗色濃厚な日本軍に対しアウンサン将軍率いるビルマ国軍(当時)が一斉蜂起した日を起源としている。70年代半ばまで「ファシスト打倒の日」と呼ばれていたが、その後、独立を勝ち取った国軍の栄誉を称える日として現在の「国軍記念日」となった。例年この日には、各国大使や駐在武官などを招待し、盛大に軍事パレードが行われる。国軍にとって一年で最も重要な行事である。国軍としてはこの日までに事態の収拾を目指しており、徹底的に反対勢力の取り締まりを行うと警告していた。
今回のクーデターによる死者は累計で400名を超えた。そして、おそらく、まだ終わりではない。日本の読者は、本来国民を守るはずの軍が国民を殺戮しているのはおかしいと思うかもしれない。しかしミャンマーでは軍が国家であり、国家に背くものは反逆者なのだ。世界を見渡せば同様の国はいくらでもある。軍を非難するだけでは何も解決しない。
数日前、日本のあるテレビ局から取材を受けた時、記者からこのような質問を受けた。「国軍はミャンマーの社会にとって必要な存在なのですか?」
それに対して私の答えはこうだった。