メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

news letter
RSS

無料

「無惨な死の前例から教訓を得よ」 脅迫と化したミャンマー国軍のメッセージ〜ヤンゴン緊急リポート第十弾

殺戮をためらわないミャンマー軍の論理とは

松下英樹 Tokio Investment Co., Ltd. 取締役

ミャンマー国軍の論理は、この国の歴史と現実を反映

 長い返答をしたが、そのほぼ全容を再掲する。日本人にとっては想像しにくいが、これがミャンマーの実態であり、国軍の考え方だ。

 「例えて言えばミャンマーの国軍は、人口の70%を占めるビルマ族が支配する地域を縄張りにしている暴力団だと考えてみてください。そしてミャンマーの場合は、政府に属する軍隊ではなく、国軍が政府だったのです。それはNLD政権の5年間も変わっていません。国軍が試しにやらせていただけの話です。

 彼らは独立以来ずっと別の組織(国境周辺の少数民族武装組織)と抗争を続けてきました。国防という概念はありません。戦う理由はさまざまな利権です。

 ミャンマーが世界第2位のアヘン(ヘロイン)の生産国というのはご存知ですよね?最近はけし栽培によるヘロイン精製よりもっと手軽に化学合成できるメタンフェタミン(覚せい剤)の製造の方が主流です。

 麻薬の他に宝石や地下資源(レアメタル、金など)、カジノ、密貿易など、ミャンマー政府の統治がおよばない地域は無法地帯というかそれぞれの武装勢力が支配下に置き、それぞれの利権を守るために戦っているのです。その経済規模は数十兆円にのぼると言われています。それを容認してきたのは国際社会であり、起源は植民地時代の分断統治に遡ります。

 国軍はミャンマー政府という形をとって、少数民族武装組織のビジネスに目こぼしをする代わりに『みかじめ料』を取っていました。武力で威嚇しつつ、裏では持ちつ持たれつの関係で、微妙なバランスを保ちながら、国際社会の非難の目をかわしてきました。これがミャンマーの、そして世界の現実です。

 それが可能であったのは40万人の兵力です。彼らもその力を維持するための資金が必要なのです。税金で賄われているわけではありません。

 日本だっていまだに暴力団は存在しますよね? 暴力団を相手に話し合いで解決できますか? 私は現状を肯定しているわけではありません。ただ、戦争も麻薬も無くならないということは歴史が証明しています。

 国軍を暴力団に例えましたが、幹部は士官学校を出たエリートです。70年以上もずっと自分たちの組織を維持するために、日夜訓練をし、作戦を練っています。今回のクーデターも決して総司令官の暴走などではありません。組織としての決断です。スーチー氏らが国軍の権力をおびやかしたことに対して、彼らにとってはクーデターが最善の解決策だったのです。

 すでに200名以上の国民が殺害され、2000人以上が投獄されました。(3月23日時点)

 無差別に市民を殺戮しているように感じるかもしれませんが、効果的に民衆に恐怖を与えるために、一人ずつ人目につかないところで殺害しているのです。
内戦になれば数千人、数万人、あるいは数十万人が亡くなるかもしれません。それに比べれば、 最小限の犠牲で抑えている。それが国軍側の論理です。

 誤解のないようにもう一度言いますが、私は現状を肯定しているわけではありません。一つの意見として参考にしてください」

「上からの民主化」だったミャンマーの歴史

ミャンマー少数民族武装組織の勢力図 出典 https://globalriskinsights.com/2017/03/aung-san-suu-kyi-honeymoon-over/myanmar-ethnic-militant-map-v2-2/拡大ミャンマー少数民族武装組織の勢力図 出典 https://globalriskinsights.com/2017/03/aung-san-suu-kyi-honeymoon-over/myanmar-ethnic-militant-map-v2-2/

 ミャンマーの2011年以降の民主化はもともと国軍主導の「上からの民主化」であったことを我々は忘れてはならない。ミャンマー国軍は40万人の兵力を有し、関係者は100万人以上にのぼる強固な組織である。独立後70年以上、国家を支えてきたのは自分たちであるという強い自負を持っている。

 今回のクーデターの理由をミン・アウン・フライン総司令官の暴走とする論評もあるが、例え彼が辞任あるいは解任されたとしても、国軍の政治への関与が無くなることはない。日本政府もそこを理解しているからこそ、対応に苦慮しているのだ。これを機に撤退を考える企業も出てくるだろうが、一旦撤退してしまうと、また進出する際には一から出直しになってしまう。今までの投資を無駄にしないためにも、ここは最悪の事態も想定しながら、どのようにしてビジネスを維持するか、早急に「生き残り戦略」を考えるべきである。

 「アジアのラストフロンティア」として、やっと世界中から注目されるようになってきたミャンマーが、再び軍事政権に戻ってしまうことは、2003年からミャンマーで仕事をしてきた私にとっても受け入れがたい出来事である。

 しかし犠牲になった多くの若者たちのためにも、この国の可能性を信じ続けたい。

日本としてミャンマー国民の保護を

 日本でもミャンマーで起きている悲惨な出来事が連日報道されており、在日ミャンマー人の方々やミャンマーの人々を支援する様々な方たちがメッセージを発信されている。私の記事に対するコメント欄にも、「何か私にできることはないでしょうか?」と声をかけてくださった方が何人もおられたことは大変嬉しく、勇気づけられた。

 米政府は3月12日、ミャンマーの軍事クーデターを受けて、米国にいるミャンマー人に滞在を許可する「一時保護資格(TPS)」を与えると発表した。私が皆さんにお願いしたいことは、日本政府に対して、直ちに日本にいるミャンマー人に対して同様の措置を取るように声を上げていただきたい。2020年6月時点で本邦に在留しているミャンマー人は3万3303人である。その中で帰国を希望しない人がいれば、まずその人を保護していただきたい。

 そして、できれば今後発生する難民の受け入れを検討していただきたい。1988年の民主化運動以降、軍事政権下で国外に流出したミャンマー人は400万人以上と言われている。難民の受け入れが難しいのであれば、技能実習生でも特定技能でも留学生でも良いのでミャンマーの若者を一人でも多く受け入れて欲しい。せめてそのくらいは、政府として対応していただきたいと願う。

全ジャンルパックなら本の記事が読み放題。


筆者

松下英樹

松下英樹(まつした・ひでき) Tokio Investment Co., Ltd. 取締役

ヤンゴン在住歴18年目、2003年より日本とミャンマーを往復しながらビジネスコンサルタント、投資銀行設立等を手がけ、ミャンマーで現地ビジネスに最も精通した日本人として知られている。著書に「新聞では書かない、ミャンマーに世界が押し寄せる30の理由」(講談社プラスアルファ新書)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

松下英樹の記事

もっと見る