「大異を捨てて小同につけ」という歴史の教訓~『鳩山一郎とその時代』に学ぶ
2021年04月03日
この本の中で、筆者は公職追放が解除されて、政権を担い、総辞職するまでを担当した(第3章)。関連して、鳩山が入会したフリーメイソンとの関係にも言及した(参照:「日本のフリーメイソンのこと知ってますか?(上)」
「日本のフリーメイソンのこと知ってますか?(下)」 )。
戦後の鳩山一郎の政治人生は山あり谷ありだ。戦争が終わって早々、自由党を結成、最初の総選挙で第一党となったにもかかわらず、首相就任の当日に公職追放の憂き目にあう。鳩山追放はGHQの強い意向だったことが指摘される(『鳩山一郎とその時代』第2章)。
1952年に占領が終わった後、衆議院議員として政界復帰、吉田茂との権力闘争の紆余曲折を経て1954年、首相に就任した。自由民主党(1955年結党)の初代総裁、日ソ国交回復を成し遂げた総理大臣として、戦後政治史にその足跡を残している。
サンフランシスコ講和条約が発効し、日本が独立した当時は、いうなれば「吉田一強」の時代であった。吉田茂率いる与党は圧倒的な議席数を持ち、対峙する野党はバラバラに分裂していた。そうした状況下で、鳩山はいかにして政権を獲得したのか、政権交代はいかにして成し遂げられたのか、歴史を遡ってみたい。
戦後史における吉田茂と鳩山一郎の政権をめぐる争いはあまりにも有名だ。
戸川猪佐武の『小説吉田学校』をはじめ、多くの作品で取り上げられ、政治に関心があれば、必ず目にする話だろう。
二人の対立の原点は、公職追放決定後に鳩山が、友人の吉田に自由党と政権を託した際に、いわゆる「3条件」とも「4条件」とも言われる「密約」を交わしたことに遡(さかのぼ)る。
この条件の内容は、閣僚人事に口を出さない、資金は鳩山が面倒を見る、吉田が嫌になったら辞めるという、吉田に都合の良いものであった。その四つ目に、鳩山が政界復帰したら吉田が政権を返すという約束が存在したか否かを巡り、大いに紛糾した。2021年現在、両者が交わした条件の現物が発見されていないため、真相は藪の中である。
政界復帰直前に半身不随となった鳩山が、政界復帰し「4条件」に基づき政権譲渡を求めると、吉田首相は「3条件」しか存在しないとして、政権の譲渡を拒否する。双方の主張は交わることなく、互いの支持者を動員して、与党自由党を二分する事態となり、1952年秋の総選挙では両陣営が選挙本部を別々に構えた。また鳩山は、吉田首相の「軽武装」に対して再軍備を主張、「対米一辺倒」の吉田外交を批判し、ソ連との国交回復を求めるなど、政策的な対立軸を示し続けた(参照:「安倍首相が北方領土に取り組む歴史的必然」。
他方、野党は離合集散を繰り返していた。
革新系の社会党は、講和条約と日米安保条約の批准を巡り、左右に分裂した。保守系の国民民主党は、非自由党系の追放解除者と合流し、1952年に改進党を結成した。総裁は重光葵元外相である。改進党は野党共闘で政権交代を目指すか、あるいは吉田自由党と協力することで政権譲渡を目指すか、激しい路線闘争を繰り広げた。
1953年3月、吉田首相と鳩山による党内抗争の煽(あお)りで、わずか半年足らずで解散に突入した。吉田首相の失言がきっかけだったために、俗に「バカヤロー解散」と称される。鳩山は与党自由党を飛び出し、分党派自由党(分自党、鳩山自由党とも)を結成した。
だが、政権交代は幻に終わった。重光改進党が再軍備や憲法改正に積極的であるのに対し、左派社会党は再軍備反対であった。この政策の違いを理由として、野党は共闘できなかった。
結局、首班指名では左右社会党は重光に票を投ぜず、吉田が勝利した。こうして与党が過半数割れしたにもかかわらず、第5次吉田内閣が成立した。野党は千載一遇のチャンスを逃したのである。一連の出来事は「重光首班工作(事件)」と呼ばれる。
第5次吉田政権は、保守系野党に対する分断工作を進めた。重光改進党には、政権譲渡をちらつかせつつ、同じ保守党として政策ごとの協力を求めた。一方、離党した鳩山自由党には復党を働きかけ、最終的に、三木武吉と河野一郎らを除く、大多数が吉田自由党に復帰した。
激しい吉田批判を展開し、ついには離党した鳩山の自由党復帰について、戦後自由党を鳩山と一緒に作った芦田均元首相は「鳩山氏もこれで政治的には終止符であろう」と記した(『芦田均日記』1953年11月18日)。その1年後の1954年12月に鳩山が内閣を組織するとは、芦田のみならず、誰一人として予想できなかっただろう。
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