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正念場のワクチンパスポートと「ワクチン外交」

差別への対応も急務

塩原俊彦 高知大学准教授

 いま、世界はいわゆる「ワクチンパスポート」(ワクチン接種証明書)の導入をめぐって正念場にさしかかっている。すでに、このサイトにおいて、ワクチンパスポートについては、「電子化されたワクチン接種証明書(ワクチンパスポート)の必要性」「「電子予防接種証明書」がもたらす新たな「差別」」で論じた。ワクチン外交については、「「ワクチン外交」の裏面」「ロシアと中国の「ワクチン外交」戦略」「「ワクチン外交」と地政学」で論じた。

 今回は、この二つが直接、関係する場面について解説してみたい。簡単に言えば、ワクチン接種を証明するといっても、そもそもどのワクチンを認証対象とするかに外交力がかかっている点に注目したいのである。なお、健康状態を示す書類に「パスポート」という言葉を使うことに違和感をもつ向きがあるが、ここでは、イメージのわかりやすさから適宜使用する。

ヨーロッパの「デジタルグリーン認証」

 2021年3月17日、欧州委員会はワクチン接種証明書、検査証明書(NAAT/RT-PCR検査または迅速抗原検査)、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)から回復した人の証明書という3種類の証明書を対象とする「デジタルグリーン認証」の導入を提案した。欧州連合(EU)の加盟27カ国は、ワクチン証明書のアイデアを支持している。欧州各国が独自のルールを設定することに変わりはないが、この構想により、欧州大陸全体での協調的なアプローチが確立されることが期待されている。

 この証明書があれば、EUの居住者とその家族は、EU加盟国の中を自由に旅行することができる。欧州議会と欧州理事会は3月25日、同認証に関する立法案に緊急手続きを適用することで合意した。

 下図に示したように、「デジタルグリーン認証」は、まずワクチン接種証明書、検査証明書、回復証明書(感染経験者)をもとに、無償の証明書がデジタル形式または紙媒体で発行される。いずれも、必要な鍵情報を含むQRコードと、証明書が本物であることを確認するためのデジタル署名が付与される。EU加盟国以外の国民は、訪問を予定している加盟国にデジタルグリーン証明書を請求することができ、EU入国時に認証を受けることになる。ワクチン接種の証明については、EU加盟国の国民と同様のルールが適用される。EUが承認したワクチンは認められ、その他のワクチンを認めるかどうかは各加盟国が決定できる。なお、この証明書が欧州以外の国のシステムと互換性があることを確認するために、欧州委員会は世界保健機関(WHO)との調整を行っている。

 この証明書には、氏名、生年月日、発行日、ワクチン/テスト/リカバリーに関する関連情報、証明書の固有識別子など、限られた情報が収載される。このデータは、証明書の真正性と有効性を確認・検証するためにのみ確認することができる。

 重要なことは、デジタルグリーン認証が「EU域内に居住するEU域外の国民や、他の加盟国への渡航権を持つ訪問者にも発行されるべきである」とされている点だ。要するに、国をまたいで移動する旅行などのためにEU市民とその家族に国籍を問わずに発行されるべきものということになる。ただ、レストラン、劇場、美術館など、その他の活動にこの証明書を導入するかどうかは、各国の判断になるとされている。なお、デジタルグリーン認証システムは一時的な措置にすぎない。世界保健機関(WHO)がCOVID-19の緊急事態の終息を宣言した時点で中断されることになっている。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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