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最高裁「孔子廟」違憲判決と靖国神社

厳格な政教分離原則をあてはめるべきこと

内田雅敏 弁護士

政教分離原則を厳格にみた最高裁

 4月です。靖国神社は21日からの春季例大祭を前に、最高裁判決を悩ましく思っているのではないでしょうか。

拡大靖国神社(東京都千代田区) CK Ma/shutterstock.com
 2021年2月24日、最高裁大法廷は、那覇市が「孔子廟(びょう)」のために公有地を無償で使用させていることは、政教分離を定めた憲法20条及び公の財産を宗教団体等に支出するのを禁じた89条に違反すると判決しました(14対1)。

 この判決について、新聞各紙の社説は、孔子廟が宗教的性格と共に学問的性格をも併せ持つがゆえに、憲法の政教分離原則の厳格な適用にある種の驚きを覚えながらも、この原則を定めた経緯、すなわち戦前、神道が国家と結びつき国家神道として猛威を振るい、軍国主義の道を突き進み1945年8月15日の敗戦に至ったという苦い教訓によるものであることからして、最高裁大法廷が厳格に判断したことは理解できるとしています。

 朝日新聞は、現役閣僚らの靖国神社参拝を考える時、多くの犠牲のうえに手にした憲法のことを改めて考える必要を指摘し、信濃毎日新聞は、歴代の知事や市町村長の護国神社への関わりを指摘し、憲法の原則を逸脱する振る舞いを厳しくいさめています。

 政教分離原則を巡る最高裁違憲判決は 愛媛県が靖国神社、護国神社に玉串料を支出したことが問題とされた「愛媛玉串料訴訟」(1997年)、北海道砂川市が神社に市有地を無償提供していることが問題となった「空知太神社訴訟」(2010年)に次いで3例目です。

 愛媛玉串料訴訟判決では、目的効果基準が論じられました。玉串料への公金支出がどのような目的でなされ、またそのことによってどのような効果があるか、つまり「一般人がそれを見て、この宗教は、国または地方公共団体と密接な関係にある特別な宗教なんだなと思うようになるかどうか」です。最高裁大法廷は13対2で、これを認め、玉串料への公金支出を違憲と判断しました。

拡大靖国神社に菅義偉首相が奉納した真榊が置かれていた(左奥)=2020年10月17日
 この判断基準を準用すれば、首相らが靖国神社に参拝したり、真榊などの供物料を提供したりすれば、それが公金でなく自分の財布から出されたものであったとしても、一般人をして靖国神社が特別な宗教と認識させることは十分に考えられるところです。

 しかし、これまで、最高裁が、首相らの靖国神社参拝、真榊など供物料の支出について、合憲違憲の判断をしていません(請求は棄却しながらも、判決理由中で首相の靖国神社参拝を違憲とした判決は、地裁、高裁で、数件あります)。

 これは、我が国で原告となって裁判を起こすには、具体的な権利侵害、すなわち、首相らの靖国神社参拝、供物料の支出によって具体的に損害を被ったことが要件となっているからです。これを「訴えの利益」といいます。首相らの前記行為によって不快感等を覚えたとしてもそれだけでは「訴えの利益」がないとして請求は棄却され、合憲違憲の判断がなされないまま裁判が終わってしまうのです。

 愛媛玉串料訴訟、空知太神社訴訟、そして孔子廟訴訟は、被告が国や首相らとは異なり、地方公共団体なので、公金支出等について住民による監査請求権があり、これに基づいて具体的な裁判として成立するのです。

 制度上の不備により、首相らの靖国神社参拝、供物料の支出の合憲違憲が裁判所の判断にさらされないとしても、首相らが、憲法の政教分離原則を順守しなければならないことは当然です。

 菅首相らは、那覇市の孔子廟用地の無償貸与を厳格な政教分離原則に基づき憲法違反とした最高裁大法廷判決を尊重し、靖国神社参拝はもとより、真榊などの供物料の支出はやめるべきです。

 2月25日付産経新聞社説(主張)は以下のように述べています。

だが「違憲」が独り歩きしては困る。今回の判決を盾に社寺の伝統行事などにまで目くじら立てるような「政教分離」の過熱化は避けたい。(中略)首相ら公人の靖国神社参拝や真榊奉納に「政教分離」を持ちだす愚も避けるべきだ。

 もともと、この孔子廟違憲訴訟は、那覇市在住の人物が反中国、反那覇市政的発想で提起し、原告代理人もその筋では有名な弁護士で、産経新聞も訴訟を支持してきました。判決の持つ「ブーメラン効果」に慌てているのではないでしょうか。最高裁判例は、当該事例だけに限らず、判例法として「独り歩き」するのです。

 靖国神社は、頼みとしてきた天皇参拝が途絶えて久しく、首相らの参拝、それがかなわないならば、せめて供物料だけでも、としており、今回の大法廷判決により、供物料の提供は違憲だという声が大きくなるのは、きっと悩ましいことでしょう。

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筆者

内田雅敏

内田雅敏(うちだ・まさとし) 弁護士

1945年生まれ。弁護士としての通常業務の他に、長年にわたり、中国人強制連行・強制労働問題(花岡、西松、三菱マテリアル)など戦後補償問題、靖國問題などに取り組む。著書に『元徴用工 和解への道 ――戦時被害と個人請求権 』(ちくま新書)、『和解は可能か――日本政府の歴史認識を問う 』(岩波ブックレット)など 。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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