黒江哲郎(くろえ・てつろう) 元防衛事務次官
1958年山形県生まれ。東京大学法学部卒。81年防衛庁に文官の「背広組」として入り、省昇格後に運用企画局長や官房長、防衛政策局長など要職を歴任して2017年退官。現在は三井住友海上火災保険顧問
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
連載・失敗だらけの役人人生⑰ 元防衛事務次官・黒江哲郎が語る教訓
総理官邸に勤務していた頃、上司としてお仕えしていた事務担当の内閣官房副長官(各省事務次官の元締め)(古川貞二郎氏=編集部注)から「いずれ幹部になろうとする者は、自ら責任を負う覚悟を決めておかなければならない。」と言われました。
役人人生で少なくとも二回、「覚悟」を決めるきっかけがありました。一度目は、既に紹介した運用課長時代のインド国際緊急援助会議における幹部激怒事件です。修羅場で他人に助けを求めても無駄であり、自分で何とかしなければならないということを思い知りました。
二度目は、2011年(平成23年)12月、防衛政策局次長として沖縄問題を担当していた頃です。普天間移設が停滞している焦りから極端で乱暴な言辞を吐くことが多くなっていた私は、そのたびに当時の次官(中江公人氏=編集部注)からやんわりと諭されていました。その次官が年明けに退官されると聞いた時に、この先自分を諭すバランサーの役目を果たしてくれる先輩はもういない、と気が付いたのです。
当時の手帳を眺めていたところ、あるページに「スーパーサイヤ人にならねばならない」「当たり前に、常識的に、前向きに→自覚持たねばならない」という走り書きがありました。当時何を考えたのか、記憶はもう曖昧です。多分、漫画「ドラゴンボールZ」で厳しい修行の末いつもスーパーサイヤ人でいられるようになった悟空のように、常に持てる能力を100%発揮できなければならない、仕事ぶりにムラがあったり極端で非常識な事を口走ったりしないように自らを律しなければならない、と反省し自覚したのだと思います。
苦しくても自力で闘うしかないし、その結果については自分が責任をとらなければなりません。その覚悟を決めるのは、早ければ早いほど良いと思います。では、どうすれば覚悟を決められるのでしょうか。
先の内閣官房副長官は、「若いうちから自分よりも二階級上の上司が何を考えてどう判断するのかをよく見ておくことが役に立つ。二階級上の上司は、君には見えないものが見えるし、手に入らない情報にも触れられるから、君とは異なる広い見地から判断することが出来る。それをよく観察して、自分がそのポストに就くための準備をしておくということだ」とおっしゃいました。普段から意識を高く持って準備しておけば、自然に覚悟も身につくということだと思います。