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「地方紙と首長と議会のなれ合いは、徳島だけじゃなく全国的な地方政治の劣化の問題です」

後藤田正純インタビュー/上

木下ちがや 政治学者

 第2次安倍政権末期から、各地で保守分裂選挙が勃発している。とりわけ野党勢力が比較的弱い西日本地域では、島根、福岡、福井そして徳島の知事選で保守系が分裂した。他方で東北地方や沖縄のように、保守層の一部が野党側にまわり野党共闘を進化させているケースもある。茨城県の保守系代議士中村喜四郎氏の立憲民主党への入党は、旧来型の保革対立から、新たな日本社会の状況にあわせた政治的対立軸が生まれつつあることを示している。いまたたかわれている名古屋市長選もまた、従来の保革対立の枠組みでははかれない展開を見せている。

 徳島はこの保守分裂の流れを象徴する県である。知事選、各市町長選では知事派の保守系と、反知事派の保守系に同伴した国政野党や市民運動との争いがここ数年続いている。この徳島の事例を地元自民党代議士後藤田正純氏から聞き取り、これまでの与野党の枠組みを超えた地方政治のこれからを読み解くことが、このインタビューの問題意識である。

              ◇   ◇   ◇

 今回のインタビューでは徳島市の「個別事情」をあえてとりあげる。政治の動向を理解するには、細部を把握することが肝要だからだ。昨年当選したばかりの内藤佐和子徳島市長に対して、市長報酬の50%カットや待機児童解消といった選挙時の公約が守られていないとして、市民から批判の声が上がっている。市長当選直後の2020年4月25日には、私立の認定こども園並びに保育園の施設整備補助事業の支出取りやめの表明に抗議し、市民らが記者会見し、市長のリコール運動を目指す団体を発足させている。6月26日にはリコール団体「徳島の未来をつくる会」が発足している。

 さらに「週刊新潮」4月8日号には、内藤市長のスキャンダルが報じられた。史上最年少市長としてリベラルなイメージをまとい市長の座にすわった内藤氏のこの記事は、徳島市内では書店での同誌の売り切れが続出するほど耳目を集めた。事の発端は昨年の市議会の質疑で、内藤氏が公用車ではなく自家用車で登庁しているのに疑義が呈されたことだ。取材により、自家用車で通っていたのが、徳島新聞の担当男性記者宅であることがその後発覚したわけだ。同記事によれば内藤市長は取材に対してノーコメント、担当記者は「事実無根」としているが、この記事の焦点は恋愛関係の有無ではなく、取材記者と取材対象との関係にある。この徳島新聞の担当記者は市長選直前の昨年1月に、日本共産党徳島市議団団長の加戸悟氏を呼び出し、「内藤さんには大物がバックに付いている」「内藤さんに味方になってくれ」と持ち掛けていたのだ。この市長選には2期目を目指す遠藤彰良氏も出馬しており、共産党市議団は遠藤氏を支援する態勢を整えつつあった。つまり内藤氏の相手陣営の切り崩しを担当記者が仕掛けるという、政治工作が行われていたことになる。この1年、公約破りと市民から批判の声があがる事件が相次いでいる中、徳島では国政の与野党や保守革新といった従来の枠組みとは違う形の構図が生まれつつある。(木下ちがや)

「あいつは批判ばかり、悪口ばかりだ」と言われるが

拡大後藤田正純氏(左)と木下ちがや氏(右)

――後藤田さんの選挙区である徳島市では、2016年に元アナウンサーの遠藤彰良前市長が市民派として当選し、新町西地区の再開発にストップをかけました。次には内藤佐和子さんが遠藤さんを破る形で市長になったのですが、内藤さんは徳島では初の女性市長、しかも36歳の史上最年少市長でもあり、巷間リベラルなイメージで語られて、徳島出身の僕から見たら、徳島でもだんだんと市民本位の政治ができてきている、そう思っていたんです。ところが地元では「全然そんなことないんですよ。ぜんぜん逆行しているんです」と言う話を聞かされました。いま内藤佐和子市長のリコールを求める市民運動が起こっています。

後藤田 マスコミは選挙が終わり、政治家として責任と権力をもっているのに、いまだに市長を「女性」という属性でしか見ていないと思いますね。姜尚中さんや伊藤詩織さんと対談したり、瀬戸内寂聴さんまで対談にひっぱりだしてきた。でも実際に政治家としてどういう政策をやっているのかは伝わっていない。政治への関心が低いというのも問題で、徳島の市長選挙の投票率が39.9%。6割は投票行ってないんです。同じころにやった東京都知事選の投票率が55%でしたから、それより低いのです。

――徳島市議会では公明党と維新が与党で、少数派の野党が自民、共産、立憲という布陣で協同して対抗するという構図です。内藤さんは選挙のときに市長の給与を50%カットしますという公約(注1)で当選したのに、新たに15%削減という条例改正案を出しています。単純な公約破りです。自民市議団と共産市議団は不信任案を出して対抗しましたが、そちらも反対多数で否決されました。

(注1)内藤市長は2021年3月、自身の給与を15%カットする条例案を市議会に提出したが否決された。自民市議団は共産市議団などとともに条例案に反対した。市長は「今回の議決結果には、当惑しております」などとコメントしている。

後藤田 内藤さんというのは徳島市の行政のトップです。二元代表制ですから行政のトップを直接選挙で選ばれだわけですが、政策の中身よりも、最年少だとかなんとなくリベラルだとかいう単純な考え方が、民主主義の劣化を反映したものじゃないでしょうか。メディアも選挙戦のさなかから、イメージが先行した報道ばかりだったような気がしますね。

――そもそも「市民との対話」を掲げて当選した内藤さんですが、NHKの「市長就任1カ月を迎えて」というインタビューで「対話とかできますか、逆に」と言い放ち、突然の保育所建設中止に反対する署名を持参した小さな子供さんを連れたお母さんお父さん等との面会を拒否して、2時間余りも市長室にこもってしまったこともありました(注2)。3月31日に内藤市長は阿波踊り実行委員会の突如解散を決定しました(注3。それに対して事業体総責任者の前田三郎キョードー東京取締役は「何も知らされておらず、あぜんとしている。一方的に契約を切られたのであれば理不尽だ」と怒りをあらわにしています(注4

(注2)「待機児童解消」を公約に掲げて当選した内藤市長は「私(市長)の政策判断です」として教育・保育施設等整備事業(保育園・認定こども園建設事業)を中止した。徳島市は昨春、入所を希望しても入れなかった子ども251人、入所していても定数以上に受け入れられている子ども273人、4月以降生まれてきた赤ちゃんで入所を希望する子ども100人余り、合わせて600人を超える待機児童がいる。国が3分の2もの補助をつけ、市の負担はわずか2億円という有利な事業で、8園で500人が入所できることになっていた。全国で245自治体が国に補助申請をし、中止したのは徳島市だけ。ちなみに、近年建設された北井上認定こども園(定数90人)は4億7千万円、勝占認定こども園は6億9千万円(定数120人)は全額市の負担だ。内藤市長は会見で、「子育て環境や教育環境の整備は最大のテーマの一つだということに変わりはない。ただ、子どもたちに借金を残したくない」と説明している(木下)。

(注3)内藤市長は「今年の阿波おどりは縮小した形になるかもしれませんが、何としてでも開催することで次の世代に受け継いでいきたい。今後の運営体制や事業計画について早急に検討し、今年の阿波おどりの成功に向けて取り組んでいきたい」とコメントしている(朝日新聞徳島県版2021年4月1日付)。一方、運営を委託されていた共同事業体の総責任者、前田三郎キョードー東京取締役が4月12日、会見を開き、市側に損害賠償請求することを明らかにしている(徳島新聞電子版2021年4月12日付)。

(注4) 徳島新聞「「一方的で理不尽」 阿波おどり実行委解散に事業体総責任者」、NHKオンライン「阿波おどり実行委員会の解散決定」

 徳島市議会の対立構図や市政のあり方は大阪市に似ていると思います。大阪は自民党の市会議員だった柳本顕さんと共産党や立憲系が、維新や公明党と対抗した。しかし徳島県外の人にはこの複雑な構図が非常にわかりにくいし、伝わっていないでしょう。まずは、SNSなどを通じて積極的に徳島県政、徳島市政への批判を展開している後藤田さんに、いま徳島で起きていることの意味を聞いてみたいのですが・・・

後藤田 はい。でもまず、その「批判」というのが気になります(笑)。最近「メディアは批判ばかり」「悪口ばかりだ」と叩かれますでしょう。田中角栄さんはメディアに批判されるのが政治家で批判するのがメディアの役目だと堂々とおっしゃっていました。僕が徳島の地方政治に対して何かいうと、「あいつは批判ばかり、悪口ばかりだ」と論点がすりかえられ、「見て見ぬふり」という日本的不作為が正当化されてしまう。もしかしたら、これが今回の取材の核心なのかもしれないけれど、徳島だけの問題じゃない。これが日本の悪いところだと僕は思っているんです。

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筆者

木下ちがや

木下ちがや(きのした・ちがや) 政治学者

1971年徳島県生まれ。一橋大学社会学研究科博士課程単位取得退学。博士(社会学)。現在、工学院大学非常勤講師、明治学院大学国際平和研究所研究員。著書に『「社会を変えよう」といわれたら」(大月書店)、『ポピュリズムと「民意」の政治学』(大月書店)、『国家と治安』(青土社)、訳書にD.グレーバー『デモクラシー・プロジェクト』(航思社)、N.チョムスキー『チョムスキーの「アナキズム論」』(明石書店)ほか。

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