悪化する一方の日韓関係の改善は政権交代によるしかないか?
2021年04月10日
日韓関係は悪化したまま目立った改善が見られない。
昨年9月の菅義偉首相就任が、安倍晋三前首相と文在寅韓国大統領との間で完全に冷え切った両国関係を改善する糸口になるのではないかとの期待も一部にはあった。実際、就任直後の電話会談を終えた菅首相は、両国関係が相互にとって重要であり、北朝鮮問題や日米韓連携も重要だとの認識を示した。しかし一方で、日韓の諸課題について「一貫した立場に基づいて、今後とも韓国に適切な対応を強く求めていきたい」とし、基本的に従来路線を踏襲し譲歩はしない姿勢を示した。
日本の世論も、こうした状況と概ね整合的である。
今年2月に公表された2020年10月調査の「外交に関する世論調査」によると、現在の韓国との関係を「良好だと思わない」とする回答の割合は82.4%に上った。前年調査の87.9%よりは下がったが、依然として極めて高い水準であり、前年の75.5%から81.8%へ悪化した中国よりもなお高い。その裏返しとして、韓国に「親しみを感じる」人の割合は、史上最低となった前年の26.7%から若干改善したとはいえ、34.9%と引き続き低水準にとどまっている。
ここまで両国関係が冷え込んだ原因は、いわゆる元徴用工問題、慰安婦少女像、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄騒動、半導体材料の輸出管理強化など数多い。なかでも、元徴用工問題は、解決済みという大多数の共通認識を覆す形で、2018年10月に韓国の最高裁判所にあたる大法院が日本企業に対して損害賠償命令を出したことで状況が悪化、裁判所による日本企業の資産差し押さえを巡る緊迫した状態にまで至っている。
また、慰安婦少女像についても、2011年にソウルの日本大使館の前に、2016年には釜山の日本総領事館前にも設置されたほか、昨年9月にはドイツのベルリンに設置された像の撤去を巡る対立が注目されるなど、状況は悪化の一途である。
こうした状況は、米中対立が深まる中で、日本にとっても韓国にとっても両国の連携強化が有効な対応策になり得ると考えている筆者にとって、その可能性の低下につながる韓国側の振る舞いは理解しがたいものがある。
上記の調査においても「今後の日本と韓国との関係の発展」が重要だと思う人の割合は、2019年の57.5%から2020年は58.4%へ若干ながらも上昇、過半数を維持している。過去を振り返れば、2002年のサッカーワールドカップ日韓共同開催やその後の韓流ブームなどによって、両国関係は2010年頃まで戦後最高ともいえるほど良好であったが、2012年8月に当時の李明博大統領が竹島に上陸した頃から雲行きが怪しくなり、朴槿恵政権で悪化傾向が定着、文在寅政権では悪化が加速した。
文政権は、日韓関係の悪化をむしろ歓迎しているようにも見える。政権支持率が大幅に悪化しているため、批判の矛先を他に向けるためである。
2017年5月に8割を超える高支持率でスタートした文政権は、その後も1年程度は7割前後の支持率を維持したが、景気が悪化するに伴い2018年8月には50%台まで低下、南北首脳会談の開催で北朝鮮問題の進展が期待され、一時的に持ち直す場面もあったが、12月には50%を割り込み、支持率と不支持率が初めて逆転した。
それからしばらくは5割前後を維持していたものの、2019年10月、腹心の曺国(チョ・グク)元法相、通称「玉ねぎ男」が娘の不正入学疑惑などで辞任に追い込まれ、後任の秋美愛(チュ・ミエ)前法相も息子の兵役期間中の特別待遇疑惑などから2020年12月に辞任、文大統領の与党「共に民主党」から出馬した呉巨敦(オ・ゴドン)前釜山市長、朴元淳(パク・ウォンスン)前ソウル市長がともにセクハラ問題で辞任するなどスキャンダルが相次いだ。
最近では不動産価格の高騰で一般市民の住宅購入という夢が遠のく中、韓国土地住宅公社職員による不動産投機疑惑や、青瓦台(大統領府)の政策室長による不正賃貸料引き上げなどが支持率低下に拍車をかけ、2021年3月には支持率34.1%、不支持率62.2%まで状況が悪化した。
これらのスキャンダルより前に支持率が低下した原因として、経済政策の失敗が指摘できる。
文政権の当初の高支持率を支えたのは、雇用環境の改善を期待した若者層である。韓国では若年層の失業率が極端に高いと良く言われるが、実際の数字を示すと、文大統領の就任直前に当たる2017年1~3月平均の失業率は、全体で3.7%、50代が2.0%、40代2.2%、30代3.5%に対して20代は10.0%と突出して高い。
さらに言えば、その5年前(2012年1~3月期)の失業率が全体で3.3%、50代2.1%、40代2.2%、30代3.0%に対して20代は7.3%と同様に高いだけでなく、この5年間に上昇した失業率(3.3%→3.7%)の大部分が20代によるものであることも分かる。
こうした数字が示すのは、雇用調整が新卒採用など若年者の雇用抑制によって行われたということである。そこで文大統領は若年層の雇用環境改善を選挙公約に掲げ、若年層の圧倒的な支持を得た。
しかしながら、若年層の失業率は目立った改善が見られなかった。コロナが流行する前の2019年においても、全体の失業率3.8%に対して20代は8.9%と若者の苦境に変化はないため、もはや若年層の支持を取り戻すのは困難な状況にある。
また、文政権が推進した「所得主導政策」の目玉として最低賃金が大幅に引き上げられたが、これが逆に中小企業の雇用抑制につながり、景気押し上げ効果はなかったという評価も大勢である。むしろ、非正規雇用を増やし、所得格差を拡大させただけだという指摘もある。
こうした経済政策の失敗に相次ぐスキャンダルが加わり、反保守を中心に4割程度と言われた岩盤支持層からも見放されつつある状況に至っているのだ。
こうした逆風の中で、文政権にとって「反日」は、自らに向けられた批判の目をそらすために好都合だったのであろう。さらに、支持回復を狙って打ち出したのが、強大な権力を持つ検察の改革であった。
有料会員の方はログインページに進み、朝日新聞デジタルのIDとパスワードでログインしてください
一部の記事は有料会員以外の方もログインせずに全文を閲覧できます。
ご利用方法はアーカイブトップでご確認ください
朝日新聞デジタルの言論サイトRe:Ron(リロン)もご覧ください