武田淳(たけだ・あつし) 伊藤忠総研チーフエコノミスト
1966年生まれ。大阪大学工学部応用物理学科卒業。第一勧業銀行に入行。第一勧銀総合研究所、日本経済研究センター、みずほ総合研究所の研究員、みずほ銀行総合コンサルティング部参事役などを歴任。2009年に伊藤忠商事に移り、伊藤忠経済研究所、伊藤忠総研でチーフエコノミストをつとめる。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
悪化する一方の日韓関係の改善は政権交代によるしかないか?
日韓関係は悪化したまま目立った改善が見られない。
昨年9月の菅義偉首相就任が、安倍晋三前首相と文在寅韓国大統領との間で完全に冷え切った両国関係を改善する糸口になるのではないかとの期待も一部にはあった。実際、就任直後の電話会談を終えた菅首相は、両国関係が相互にとって重要であり、北朝鮮問題や日米韓連携も重要だとの認識を示した。しかし一方で、日韓の諸課題について「一貫した立場に基づいて、今後とも韓国に適切な対応を強く求めていきたい」とし、基本的に従来路線を踏襲し譲歩はしない姿勢を示した。
日本の世論も、こうした状況と概ね整合的である。
今年2月に公表された2020年10月調査の「外交に関する世論調査」によると、現在の韓国との関係を「良好だと思わない」とする回答の割合は82.4%に上った。前年調査の87.9%よりは下がったが、依然として極めて高い水準であり、前年の75.5%から81.8%へ悪化した中国よりもなお高い。その裏返しとして、韓国に「親しみを感じる」人の割合は、史上最低となった前年の26.7%から若干改善したとはいえ、34.9%と引き続き低水準にとどまっている。
ここまで両国関係が冷え込んだ原因は、いわゆる元徴用工問題、慰安婦少女像、軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の破棄騒動、半導体材料の輸出管理強化など数多い。なかでも、元徴用工問題は、解決済みという大多数の共通認識を覆す形で、2018年10月に韓国の最高裁判所にあたる大法院が日本企業に対して損害賠償命令を出したことで状況が悪化、裁判所による日本企業の資産差し押さえを巡る緊迫した状態にまで至っている。
また、慰安婦少女像についても、2011年にソウルの日本大使館の前に、2016年には釜山の日本総領事館前にも設置されたほか、昨年9月にはドイツのベルリンに設置された像の撤去を巡る対立が注目されるなど、状況は悪化の一途である。
こうした状況は、米中対立が深まる中で、日本にとっても韓国にとっても両国の連携強化が有効な対応策になり得ると考えている筆者にとって、その可能性の低下につながる韓国側の振る舞いは理解しがたいものがある。
上記の調査においても「今後の日本と韓国との関係の発展」が重要だと思う人の割合は、2019年の57.5%から2020年は58.4%へ若干ながらも上昇、過半数を維持している。過去を振り返れば、2002年のサッカーワールドカップ日韓共同開催やその後の韓流ブームなどによって、両国関係は2010年頃まで戦後最高ともいえるほど良好であったが、2012年8月に当時の李明博大統領が竹島に上陸した頃から雲行きが怪しくなり、朴槿恵政権で悪化傾向が定着、文在寅政権では悪化が加速した。
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