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コロナに立ちすくみ米中対立の渦に巻き込まれる菅政権の今ここにある危機

後手に回るコロナ対策。支持率低迷にざわつく自民党。初の日米首脳会談でも難題が……

星浩 政治ジャーナリスト

 菅義偉政権が新型コロナウイルスの感染拡大に立ちすくんでいる。緊急事態宣言が解除されたばかりなのに、感染の急拡大を受けて、6都府県を対象に「まん延防止等重点措置」に踏み切らざるを得なくなった。

 今夏の東京五輪・パラリンピックは開催できるのか。そして衆院の解散・総選挙、自民党総裁選というハードルをどう乗り越えるのか。菅首相が明確な見通しを示せない中で、日本は米国と中国との対立の渦に巻き込まれようとしている。内政、外交の危機に瀕(ひん)する日本政治の現状を読み解いてみよう。

「まん延防止等重点措置」の適用について、記者の質問に答える菅義偉首相=2021年4月9日、首相官邸

「岸田や石破では、コロナ危機を乗り越えられない」

 菅首相は最近、親しい国会議員に昨秋の自民党総裁選に立候補した時の心境を振り返って、こう語った。

 「岸田(文雄元外相)や石破(茂元幹事長)では、このコロナ危機を乗り越えられない。70歳を過ぎた老体だが、私がやるしかないと思った」

 菅氏には「首相」という権力の座に強い野心があったことは確かだが、コロナ危機の中で「自分がやるしかない」という使命感があったことも間違いない。

後手に回るコロナ対応、世論も「評価せず」

 しかし、コロナ危機は収まらないどころか、再拡大が続いている。年末から年始にかけて「第2波」が猛威を振るい、「第3波」で感染者はさらに増加。大阪府や兵庫県は3月1日に緊急事態宣言が解除されたが、再び感染が拡大して4月5日から大阪市、神戸市などでまん延防止等重点措置が取られた。宮城県仙台市も同措置に加えられた。

 東京都も3月22日に緊急事態宣言が解除されたものの、感染再拡大を受けて4月12日からまん延防止措置の対象(23区と多摩地区の一部)とすることになった。京都府(京都市)、沖縄県(那覇市など)も、まん延防止措置に加えられた。

 感染の収束を受けて緊急事態宣言を解除するが、その後に「Go To キャンペーン」などで人出が急増し、感染が拡大する。再び、緊急事態宣言やまん延防止措置を取る。その繰り返しだ。

 第2波、第3波と感染者は増え続け、医療体制が逼迫(ひっぱく)する。飲食店などは営業時間短縮の要請に振り回され、観光業界などの不振は先が見えない。感染対策や生活支援策などで菅政権の対応は後手に回り、各種世論調査でも「コロナ対策を評価しない」が多数を占めている。

日本の「時代遅れ」が露呈、東京五輪という難問も

 菅首相にしてみれば、感染拡大に伴う病床逼迫の問題などは、長く続いた自民党政権下で改革が進まなかった医療体制の不備が表面化したもので、菅政権だけに責任があるわけではないという思いも強いという。ただ、菅氏は7年8カ月続いた安倍晋三政権でずっと官房長官を務めており、医療を含む行政全体の不備には重い責任があるはずだ。

 給付金を配る際には、住民基本台帳やマイナンバーと国民の銀行口座が紐付いておらず、手間と時間がかかった。安倍政権下でデジタル化を推進していたはずだったが、世界基準で見れば大きく遅れていた。コロナウイルスに対するワクチンの開発も、米国や英国だけでなく、ロシアや中国にも遅れをとっている。アベノミクスによる景気拡大や成長戦略路線の影で、日本の「時代遅れ」ぶりが露呈してしまった。

 菅政権はデジタル庁を新設するなど、遅れの挽回を目指すが、時間がかかりそうだ。医療制度の抜本改革に至っては、国と自治体、さらには医師会などとの調整もあり、抜本改革のメドは立っていない。

 コロナ対策で立ちすくむ菅首相だが、目の前には東京五輪・パラリンピックを予定通り開催するのかどうかという難問も立ちふさがる。海外からの観光客は受け入れないことになったが、国内の感染拡大がやまないようなら、各国から参加見合わせの意見が出てくるのは必至だ。

東京五輪・パラリンピックに向けた5者協議をする大会組織委員会の橋本聖子会長(中央)。右は丸川珠代五輪相。オンラインで参加する(左から)東京都の小池百合子知事、IOCのバッハ会長=2021年3月20日、東京都中央区

総裁選と総選挙をめぐり緊張する党内政局

 くわえて、今年は9月に自民党総裁選があり、衆院議員の任期満了の10月までには必ず解散・総選挙も行われる。

 菅首相は、解散について問われると、「コロナ対策が最優先」と答えてきた。5月上旬までは、大阪に続いて東京にもまん延防止措置が取られることになり、春の解散・総選挙は事実上、見送られた。

 夏以降の解散について、菅首相は「総裁選の前に解散となる可能性はある」(4月6日のBS番組)と述べている。9月までに衆院の解散・総選挙に踏み切り、勝利すれば、総裁選は事実上の無投票となって再選。さらに3年間の総裁任期を手にすることができる。それが菅首相にとっての「ベストシナリオ」だろう。

 だが、自民党内には支持率が低迷する菅首相に代わって新たな総裁・首相を選び、そのもとで解散・総選挙を迎えたいという議員も少なくない。また、安倍前首相の出身派閥である細田派(清和会)や麻生太郎副総理・財務相の率いる麻生派などは、菅首相と二階俊博幹事長が主導する政権運営に不満がくすぶる。細田派幹部の下村博文政調会長が昨年秋以来、早期の解散を唱えてきたのは、早めに総選挙を済ませ、秋の総裁選でポスト菅の候補を担ぐ狙いがあったからだろう。

 アンチ菅陣営では、今春の解散の可能性が小さくなるにつれて、総裁選を前倒しして、新総裁を選び、秋に解散・総選挙を求める動きがジワジワと広がってきた。そこを見透かして、菅首相が放ったのが

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