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行動経済学が教えるワクチン接種の促進法

必要なのは、迅速で透明性の高い情報開示と丁寧な説明

塩原俊彦 高知大学准教授

 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)への対策として期待されているワクチン接種が日本はまったく遅れている。日本では、4月12日からようやく高齢者向け接種が市町村でスタートする。といっても、唯一承認されているファイザー・バイオンテック製ワクチンの供給が大幅に遅れているため、急速に接種が実施できるわけではない。

 こうした環境下で不可思議に思うのは、ワクチン接種率を少しでも引き上げ、いわゆる「集団免疫」を獲得するための準備が十分にはなされていないのではないかという点である。いまのうちに、接種率を少しでも引き上げるための準備を用意周到に行うべきなのではないか。

接種者を増やすために何をすべきか

 グローバル・マーケティング・リサーチ会社、IPSOSの調査結果(2021年1月28~31日に15カ国の75歳以下を調査)によると、「もしCOVID-19向けワクチンが自分に接種可能となったら、受ける」と回答した人の割合が日本は64%と中位にとどまっている(下図参照)。感染者の急増で深刻さが増すブラジルが88%ともっとも高く、鎮静化が伝えられている中国でも85%と高い。ほかに、イタリア、スペインが80%だ。中国の希望割合が高いのは、政府による「圧力」が高いからではないかとみられている。

 ついで、接種を希望する人の割合が高かったのは、カナダの79%、韓国の78%、オーストラリアの73%、米国の71%、ドイツの68%とつづく。日本よりも希望者の割合が低かったのは、南アフリカの61%、フランスの57%、ロシアの42%だ。比較的効果が高いとみられている自国ワクチン、「スプートニクV」を有しながら、ロシアの接種希望割合が低いのは、国家に対する信頼が低いからであろう。プーチン大統領は3月23日に第1回目のワクチン接種を受けたと報道されているから、これ以降、接種希望者が増えるかもしれないが、接種時の様子は放映されず、国民の疑心暗鬼はつづいている。

 こうした状況から、日本政府はワクチン供給量を確保するのはもちろんだが、より多くの人にワクチンを接種してもらうよう促す政策を具体的に検討しなければならないと訴えたい。そこで、ここでは、経済原則を行動分析に適用するという「行動の経済学」の立場から、ワクチン接種が本格化する夏に向けて、日本政府や自治体が接種者を増やすために何をすべきかについて論じてみたい。

「ワクチン躊躇」の要因は

 世界保健機関(WHO)は、さまざまなワクチンがあるにもかかわらず、その投与を拒む人が多くいるためにワクチンで予防可能な疾患への取り組みが妨げられるという問題に早くから注目してきた。これは「ワクチン躊躇」(Vaccine hesitancy)と呼ばれ、2019年の資料では、「ワクチンがあるにもかかわらず、ワクチン接種を躊躇したり、拒否したりすること」と定義されている。

 ワクチン接種を躊躇する要因には、ワクチンの安全性に対する過小評価がある。ワクチンによる潜在的な副作用(最近、「副反応」という人が多いが、ここでは「副作用」と表記する)に対する認識の高まりが、逆に、その安全性の過小評価につながっている。同じく、疾病そのもののリスクを過小評価している人は、ウイルスを差し迫った脅威と認識していないか、軽視している可能性があるため、ワクチンを接種する可能性が低くなる。

 ワクチン躊躇を助長するもう一つの主な要因は、医療機関や医療専門家への不信感である。ワクチン投与に際してそれを受け入れるかどうかを判断する場合、一般の人々はワクチンに関する知識が限られているため、信頼に頼る傾向がある。子どものワクチン接種の決定においては、医療従事者に対する信頼がとくに重要となる。過去1年以上にわたって、間違った政策をとりつづけてきた専門家が責任をとらずに居座り、「いい加減」とも受け取れる政策を押しつけいる日本の場合、この信頼の回復という問題が実はきわめて重要であると指摘せざるをえない(クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」における感染対策の失敗以降、相談の目安「37.5度以上の発熱が4日以上」の撤回の無責任など、枚挙にいとまがない)。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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