東京都への「まん延防止重点措置」適用は合憲か?
「人の支配」を許す改正特措法に対抗し、「法の支配」の常識的な問いを取り戻す
楊井人文 弁護士
東京都でまん延防止等重点措置(以下「重点措置」という)が4月12日から5月11日まで適用される。この措置は、果たして合憲だろうか?
そんな問いがどこからも聞こえてこないのだとしたら、異常である。
コロナ禍でみんな大変な思いをして我慢しているのだから、そんな問いを立てるべきでないというなら、もっと異常である。
「法の支配」のもとでは、ごく当たり前の、常識的な問いだからである。政府・自治体が、営業の自由、移動の自由をはじめとする人々の諸活動を制限することは、たとえ要請・呼びかけであっても、コロナ禍以前の社会であれば、よほどの理由がない限り、許されなかったことである。
よほどの理由、すなわち「公共の福祉」のために制限が必要なのであれば、本当にそれは必要最小限のものなのかを、厳しく問うことが常識であった。
その常識は、コロナ禍のような危機に直面すると通用しなくなるのだろうか。そんなはずがない。
「法の支配」は社会が危機に直面してこそ、「人の支配」「空気の支配」あるいは「多数者の専制」が優勢にならないよう、その歯止めとして機能しなければならないもののはずだ。
私はコロナ禍の今も、「法の支配」は無視してはならないという人々の素朴な信念が失われていないと信じて、この措置は合憲だろうか? と問いたいのである。

まん延防止等重点措置適用後初めての朝、マスクをつけて通勤する人たち=4月12日午前7時54分、東京・品川駅
必要最小限度の措置なのかという問い自体を無力化した法律
といっても、ここで専門的な憲法論を展開したいのではない。「法の支配」に関する哲学的議論をするつもりもない。一般の人々と分かち合えるよう、普通の話をしたいだけである。
「この重点措置は果たして合憲か?」という問いは、言い換えれば、次のようになる。
「この措置は本当に、目的を達成するために必要最小限のものなのか?」
「この措置による制限・副作用を甘受しなければならないほどに、今は差し迫った状況にあるのか?」
現時点での私の結論から述べると、いずれもNOである。
もちろん、状況は常に変化し、予断を許さないのだが、重点措置の実施前日に本稿を書いている4月11日時点では、東京都は重点措置を実施しなければならないほど差し迫った状況にはないと考える。
いや、関西圏で猛威を振るっている変異株の脅威が差し迫っていてYESなのだという人もいるだろう。もちろん、そういう意見があっても良い。それがYESかNOかを議論できる枠組みがあるのであれば、良い。
最大の問題は、それがYESなのかNOなのか問うこと自体を無力化してしまう法律ができてしまった、という事実である。
それが、私が「一線を越えた」と警鐘を鳴らしたことの意味であり、先般の緊急事態宣言の最中に、自民党と立憲民主党が密室修正協議を経て成立させた改正インフルエンザ等対策特別措置法(以下「改正特措法」という)の本質的な欠陥である。
まず、東京都の最新の感染状況を確認しておこう。
4月10日の1日あたりの陽性者数は458.6人(発生届出日ベース、7日間移動平均)である。今年に入って最も少なかった253.4人(3月8日)から、約1ヶ月で約200人増えたことになる。
この間、陽性者の増え方を示す実効再生産数はこの間1〜1.1前後を推移してきた(東洋経済オンライン特設サイト参照)。1を超えているので、増加傾向が約1ヶ月続いていることを意味する。
だが、注意すべきは、大阪府や兵庫県で1.5を超え、いわば急増傾向が表れたのとは状況が異なるという点だ。東京都はジリジリと増えているというのが実態であり、この傾向自体は緊急事態宣言解除前の3月上旬から特段変化は見られないのである。

東京都と大阪府の陽性者数の推移(東洋経済オンライン特設サイトより、2021年4月10日時点)https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/
特に気になるのは、死者数である。死亡日別で見た死者数は2月上旬をピークに減少傾向は変わらず、1日10人未満の水準を維持し、顕著な増加の兆しは出ていない。都内の死者はかなり遅れて報告されてくるため、直近(3月下旬〜4月上旬)の死者は今のデータより少し増えるかもしれないが、増加に転じているようには見えない。
他指標も見てみよう。都では、発熱相談件数もモニタリングしている。これは1月初めの1日平均100件レベルをピークに減少に転じ、4月8日現在は56.9件(7日間平均)で、緊急事態宣言が解除された3月21日(62.1件)より少なめである。