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東京都への「まん延防止重点措置」適用は合憲か?

「人の支配」を許す改正特措法に対抗し、「法の支配」の常識的な問いを取り戻す

楊井人文 弁護士

重症者は病床使用率10%台で横ばい

 次に、医療提供体制も見ておこう。

 4月10日現在の入院患者数は1505人である。今年のピークだった3427人(1月12日)の半分以下で、最も少なかった1250人(3月14日)の約2割増にとどまる。昨年夏のピーク(1710人、8月11日)より少なく、確保病床数は拡充されているため、病床使用率は約30%となっている。

 重症患者(都基準、人工呼吸器装着)は37人である。これも今年のピークだった160人(1月20日)の4分の1の水準である。

 先ほど、3月上旬以降、実効再生産数が1.1前後で推移し、1日あたり陽性者数がジリジリ増えている現状を確認したが、幸いながら、重症者数は50人以下の水準をキープしている。都基準の運用病床ベース(332床)でみると、病床使用率は10%台である。

 専門家はよく「陽性者が増えれば、重症者の増加が2週間後に現れる」という。だが、ジリジリとした増加傾向が1ヶ月続いているのに、重症者・死者数に顕著な変化はないのである。新規陽性者に占める65歳以上の割合は減少傾向にあり、陽性者の大半を重症化率の低い人たちが占めている可能性がある。

 先行して重点措置が実施された大阪府や兵庫県と比較すると、違いが顕著にわかる。

 大阪府は陽性者数、重症者数ともに増え方が顕著であった。病床使用率が4月に入り4割を超え、とりわけ重症病床は、府のコロナ重症センターの運用体制を縮小してしまう失策も手伝って8割超となった。

 兵庫県も増加ペースが加速し、病床の逼迫が現実化してきた。

大阪府と兵庫県の重症者数の推移(東洋経済オンライン特設サイトより、2021年4月10日時点)
https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/拡大大阪府と兵庫県の重症者数の推移(東洋経済オンライン特設サイトより、2021年4月10日時点) https://toyokeizai.net/sp/visual/tko/covid19/

 ところが、東京はそうはなっていないのである。

 ではなぜ東京も重点措置を適用することになったのかといえば、関西圏で猛威をふるっているとされる英国株(N501Y)の脅威が差し迫っている、東京への重点措置適用はいつなのか、とメディアが繰り返し報道したことが大きいだろう。

 変異株に対する警戒もわかるのだが、強い制限措置を実施すれば、必ず強い副作用が発生し、失業者や倒産が増えることも、火を見るより明らかなのである。


筆者

楊井人文

楊井人文(やないひとふみ) 弁護士

1980年大阪生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業後、産経新聞記者を経て、弁護士登録。2012年〜2019年、日本報道検証機構代表としてマスコミ誤報検証・報道被害救済サイト「GoHoo」を運営。2013年よりYahoo!ニュース個人オーサーとして、メディアの報道や憲法問題などについて、独自の調査・検証記事を発表してきた。2017年6月、ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)を旗揚げし、事務局長。2020年1月〜2021年2月、インファクト(InFact)のファクトチェック部門編集長。日本公共利益研究所主任研究員。2018年4月、共著『ファクトチェックとは何か』を出版(尾崎行雄記念財団ブックオブイヤー受賞)。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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