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ロシアとウクライナの国境、一触即発の緊張状態

四つの条件がそろえば、プーチンは戦争に突入する?

塩原俊彦 高知大学准教授

 ロシアとウクライナの国境で緊張が高まっている。アメリカのジョー・バイデン政権誕生後、ウクライナの東に位置するドンバス地域の取り扱いをめぐって、ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領が新たな動きを示すなかで、同地域での紛争が悪化している。

 それだけではない。ウクライナ軍はロシアによって併合されたクリミア半島やロシアとの国境に向けて移動している。これに対して、ロシアもウクライナ国境に向けて軍を移動させている。バルチック艦隊の大型揚陸艦(BDK)3隻も英仏海峡南を向かってすでに3月21日に通過した(BDK1隻あたり、最大で空挺部隊1個と戦車12輌を搭載して輸送可能)。

 戦争にもなりかねない深刻な状況となっている。だからこそ、バイデンは4月13日に行われたウラジーミル・プーチン大統領との電話会談で、ロシア軍のウクライナ国境近くへの集中に懸念を伝えた。

 ここでは、ロシアとウクライナとの間で、何が起きているかについて解説してみたい(とくに、ロシア語雑誌「エクスペルト」の電子版に掲載された「ミンスクのフランケンシュタインに命を吹き込む:なぜウクライナには新しい戦争が必要なのか」を参考にしている)。

「ミンスク合意」の三つの段階

拡大ドンバス和平のための首脳会議に参加するロシアのプーチン大統領と、フランスのマクロン大統領=2019年12月9日、パリ

 ロシアとウクライナの関係を理解するためには、まず、2014年9月5日付「ミンスク議定書」および9月19日付「ミンスク覚書」の延長線上で議論されてきた和平協定、「ミンスク協定遂行措置」がベラルーシの首都ミンスクで2015年2月12日、ウラジーミル・プーチンロシア大統領、ペトロ・ポロシェンコウクライナ大統領、アンゲラ・メルケルドイツ首相、フランソワ・オランドフランス大統領(いずれも当時)によって承認されたことを思い浮かべる必要がある(詳しくは拙著『ウクライナ2.0』を参照)。

 これは「ミンスク合意」と呼ばれている。同措置はハイディ・タリヤヴィニ欧州安全保障協力機構(OSCE)代表者、 レオニード・クチマ元ウクライナ大統領、駐ウクライナロシア大使ミハイル・ズラボフ、ドネツクとルガンスク(ウクライナ語では、ルハンスクだが、煩雑になるので、以下ロシア語で表記)の人民共和国(前者はDPR、後者はLPRと表記)のトップ、アレクサンドル・ザハルチェンコとイーゴリ・プロトニツキー(いずれも当時)によって採択・署名されたものであった。

 同措置は13項目からなり、三つの段階を想定している。第一段階では、停戦、武器の撤収、拘束者の交換、ドネツク州およびルガンスク州の特定地域における地方自治の一時的な手続きに関する法律と地方選挙の手続きについての議論、経済関係の回復、すべての戦闘員の恩赦などが行われる。

 第二段階では、国境の管理権をウクライナに移すことが想定されており、「対立するすべてのゾーンでのウクライナ政府側による国境の完全なコントロールの回復は、地方選後の初日から開始され、第11項 の遂行条件である2015年末までに包括的政治和解(ウクライナ法および憲法改革に基づくドネツク・ルガンスク州の個々の地区での地方選)の後に完了されなければならない」と規定されていた。これは、ドンバスでの地域選挙当日の夜に、ドンバスの特別な地位に関する法律を施行し、もしOSCE選挙監視団がこの選挙が正当に実施されたと認定すればその法律が恒常的性質をもつという、当時のドイツ外相、フランク=ヴァルター・シュタインマイアーが提案したもので、「シュタインマイアー・フォーミュラ」と呼ばれる方式だ。

 第三段階は、第二段階を実現するために、「OSCE の監視下でのウクライナ領内からのすべての外国の兵力、軍備、傭兵の撤退およびすべての不法なグループの非武装化」や、「非中央集権化という主要要素を前提とする新しい憲法の2015年末までの施行を伴ったウクライナでの憲法改革の実施と、同じく、2015年末までのドネツク・ルガンスク州の個々の地区の特別の地位に関する永続法の採択」が盛り込まれていた。

 だが実際には、ウクライナ政府は紛争参加者に恩赦を与えることを望まず、地域の特別な地位について交渉せず、地方選の前に国境を引き渡すことを要求するなど、第一段階の合意の一部さえ拒否してきた。

 ゼレンスキーは、2019年の大統領選の前から恩赦に合意しないことを宣言し、時間がたつにつれて、その立場はさらに厳しくなり、公然とミンスク合意の変更を要求するようになる。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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