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スエズ運河での立ち往生が教える世界の物流

地政学的にみた北極海ルートの重要性と課題

塩原俊彦 高知大学准教授

 2021年3月23日、世界最大級のコンテナ船が強風でスエズ運河を塞ぎ、数百隻の船舶が1週間にわたって立ち往生した出来事は世界の物流についてさまざまな問題を提起した。ここでは、この件が与えた影響や教訓を地政学の立場から分析してみたい。なお、考察にあたっては、ロシア語雑誌『エクスペルト』に掲載された二つの記事(「パンデミック、中国要因、スエズ危機」「『北極・スエズ2.0』は不可能:ロシアにとっては利益にならない」)を参考にした。

海洋物流の現状

 最初に、国連貿易開発会議(UNCTAD)が毎年刊行している『海上輸送レヴュー2020』(Review of maritime transport 2020)によると、下に示した「表1.1 暦年別国際海上貿易動向」からわかるように、2019年の海上貿易量は110億トンを超え、1970年に比べて4倍ほどに増加している。世界貿易の主要な輸送手段は海運であり、現在では世界貿易の80%以上を海運が占めているのだ。

 運搬手段別の構成比でみると、1970年代には石油、液化ガス、化学品などの液体バルク貨物を輸送するタンカーの構成比が高かった。だが、その構成比は1970年の55.3%から2019年には28.6%まで低下した。これに対して、コンテナ輸送が増加し、Other dry cargoの構成比は1970年の27.5%から2019年の42.3%まで大幅に上昇した。なお、Main bulkはコンテナに収容せずにそのまま船倉に積まれて輸送する物船に載せる貨物(主に鉄鉱石、穀物、石炭)で、その構成比は1970年の17.2%から2019年の29.1%まで上昇した。

 国連の統計によると、過去20年間でコンテナ貨物は、1998年の6,000万TEU(20フィートの標準的なコンテナ1個)から2019年には約1億5,000万TEUへと約3倍に増加している(ただし、2020年の実績によると、この海上交通量は史上初めて大幅に減少し、5%減となっている)。近年、スエズ運河ルートではコンテナ輸送が主流となっており、ここで輸送される年間10億トンを超える貨物のうち、約6億トンがコンテナで輸送されている。ちなみに、、アメリカとヨーロッパを結ぶ北大西洋ルートでは、年間約20億トンの貨物が輸送されており、ヨーロッパとアメリカ西海岸、南米を結ぶパナマ運河では、年間5億トンの貨物が通過する。

 2020年初頭の世界の貨物船は、100総トン以上の船が9万8140隻で、総積載量は20億6190万トンにのぼる。所有する船の満載喫水線の限度まで貨物を積載したときの全重量から船舶自体の重量を差し引いた総トン数でみたランキングでは、ギリシャ、日本、中国、シンガポール、香港、ドイツ、韓国の順になっている。

 コンテナ船に注目すると、上位10社で全世界のコンテナ船市場の80%以上を占めており、そのトップは、世界のコンテナ船市場の16.6%を占め、過去最高の650隻の船を持ち、390万個以上のコンテナを所有するデンマークのマースク社だ。ついで、スイスのMSC(560隻、370万コンテナ、15.7%)、中国のCOSCOグループ(480隻、290万コンテナ、12.3%)、フランスのCMA CGMグループ(505隻、270万コンテナ、11.5%)、ドイツのHapag-Lloyd(236隻、170万コンテナ)となっている。第六位は、2017年7月7日に、川崎汽船、商船三井、日本郵船の3社で定期コンテナ船事業を統合し設立されたONE(Ocean Network Express)だ。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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