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日本も「メタン排出削減戦略」の策定を急げ

気候変動対策は二酸化炭素だけではない

塩原俊彦 高知大学准教授

 地球の気候変動をもたらす温室効果ガス(Greenhouse gases)のなかでもっとも有名なのは二酸化炭素(CO₂)である。だが、温室効果ガスにはほかにもメタン(CH₄)、亜酸化窒素(N2O)などがある。これらの違いは、エネルギーを吸収する能力(放射効率)と大気中に存在する時間(寿命)の2点にある。

 1トンの二酸化炭素を排出した場合と比較して、1トンのガスの排出量が一定期間にどれだけのエネルギーを吸収するかを示す指標、地球温暖化係数(GWP)でみると、メタンのGWPは、100年間で28〜36と推定されている(EPA=米国環境保護庁「地球温暖化係数を理解する」)。いま排出されているメタンの寿命は平均して約10年であり、二酸化炭素よりもはるかに短い(100年たっても、現在の大気中にある二酸化炭素の40%が存在しているとみられている)。しかし、メタンは二酸化炭素よりもはるかに多くのエネルギーを吸収する(二酸化炭素は1だからメタンは二酸化炭素に比べて28~36倍の吸収率)。20年間でみると、メタンは二酸化炭素に比べて56~96倍ものエネルギー吸収率とされている。

 2018年に排出された温室効果ガスの構成をみると、二酸化炭素が81%、メタンが10%だった(図1参照)。二酸化炭素が地球の温暖化に決定的な影響をおよぼしているのは事実だが、短期間でなくなるとはいえ、エネルギー吸収率の高いメタンが与える温暖化への影響もまた重大である。

 2021年4月3日付のThe Economistに掲載された「各国政府はメタン排出量の削減目標を設定すべき」という記事では、「メタンは、産業革命以前からの気温上昇の23%に関与している」と指摘している。

 ここでは、二酸化炭素に比べて論じられることが少ないメタンについて詳しく考察したい。4月22日にジョー・バイデン米大統領が主導する気候変動首脳会議(サミット)において、二酸化炭素だけでなくメタンの排出削減が話し合われることを期待して、問題点を解説したい。

メタン排出の急増

 フランスの気候・環境科学研究所(LSCE)の大気物理・化学の専門家マリエル・ソーンワへのインタビューによると、大気中のメタン濃度は、産業革命開始時に比べて2.5倍になっており、2000年代初頭に安定した後、2007年から再び増加しはじめ、2014年から急激に上昇している。

 メタン排出量の約40%は自然起源、60%は人間活動に直接関係する人為起源のものである。自然発生源には、沼地やマングローブなどの湿地帯のほか、北極圏の永久凍土が融解してできた湿地帯があり、嫌気性細菌(酸素のない環境に生息する細菌)が合成したメタンを、メタン生成と呼ばれる現象によって放出している。また、地中に閉じ込められていた化石メタンが自然の脱ガスプロセスによって放出されるという地質学的なソースもある。

 インタビューによると、農業と廃棄物処理は、人為的な排出量の約60%を占めている。「家畜(牛や羊などの反芻動物の消化過程や糞尿の発酵に伴う排出)だけでも人為的な排出量の30%を占め、田畑に水を張る米の生産では10%を占めている。また、化石燃料(石炭、天然ガス、石油)の燃焼や輸送は、地下に閉じ込められている化石メタンの放出につながる」という。たとえば、油井は稼働中、石油をくみ上げる際に必ずガスが発生する。

 こうしたことから、米中ロをはじめとするエネルギー生産・消費大国は、大量のメタンガスを排出している。また、家畜を多く飼っている国では、農業関連の排出量が圧倒的に多くなっている。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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