メインメニューをとばして、このページの本文エリアへ

バイデン米大統領から具体的な支持なし?東京五輪はもはや漂流する難破船

共同声明に「菅首相の努力を支持する」の文言は入ったけれど……

大濱﨑卓真 選挙コンサルタント

 バイデン米大統領にとって初めての「ホワイトハウス外交」となる日米首脳会談が4月15日(米国時間)に行われました。この会談の焦点のひとつに、7月からの東京五輪・パラリンピックがどのように取り扱われるかがありました。

 共同声明では「大統領は、今夏、安全・安心なオリンピック・パラリンピック競技大会を開催するための菅総理の努力を支持する」と記されましたが、努力への支持表明にとどまり、選手団派遣など具体的な約束はなし。筆者は、これで東京五輪開催はいよいよ厳しくなったと感じています。

日米首脳会談後、共同会見をするバイデン大統領(右)と菅義偉首相=2021年4月16日午後5時33分、ワシントンのホワイトハウス

二階幹事長発言は中止のためのアリバイづくり?

 五輪開催に向け、東京五輪・パラリンピック競技大会組織委員会は機運盛り上げに一生懸命ですが、正直言って、なかなか上手くいっていません。

 東京五輪を成功裏に終わらせるためには、当然のことながら相当数の国が選手団を派遣することが条件となります。裏を返せば、主要国が選手団を送らない決断をすれば、その時点で東京五輪の開催は難しくなるでしょう。実際、2020年3月に東京五輪が開催延期となったのも、カナダが選手団派遣を中止したことなどがきっかけでした。

 15日には、自民党の二階俊博幹事長がTBSのCS番組で、「開催中止も選択肢」と発言したことが話題となりました。永田町では「余計なことを」「どういう理由か」などと話題になりましたが、私は、日米首脳会談に向けての外務事務担当者レベルの折衝で、バイデン米大統領から「選手団派遣の確約」が取れないことがわかったことによる、中止のためのアリバイ作り(予防線)であると感じていました。

 15日(米国時間)に行われた日米首脳会談の共同記者会見後に出された共同声明を読む限りでは、バイデン米大統領が「選手団派遣の確約」したとは受け取れず、会見でも菅義偉総理が「バイデン大統領から開催に対する決意を支持していただいた(I told the President about my determination to realize the Tokyo Olympic and Paralympic Games this summer as a symbol of a global unity. President Biden once again expressed his support for this determination.)」などと述べるに留まりました。

 また会見の際、記者からの「バイデン米大統領は菅首相に、米国選手団を送ることを確約しましたか?」という質問に、やはり菅首相は「バイデン大統領から開催に対する決意を支持していただいた(I expressed my determination to realize the Tokyo Olympics and the Paralympic Games as a symbol of global unity this summer. And President Biden, once again, expressed his support.)」と繰り返すだけでした。

国際的にも国内的にも「アゲンスト」

 客観的に見て、国際世論は東京五輪にとって完全にアゲンスト(向かい風)です。ニューヨーク・タイムズ紙は「最悪のタイミング、一大感染イベント」とセンセーショナルな記事を公表したほか、五輪放映権ビジネスの中枢ともいえる米NBCですら「聖火は消されるべきだ」とコメントするなど、非常に厳しい状態です。英医学誌BMJにも同様の主張が掲載されていることからも、国際的な厳しさは強さを増しています。

 さらに国内世論も、必ずしもフォロー(追い風)ではありません。時事通信の世論調査によれば、東京五輪・パラリンピックについてたずねたところ、「中止する」という回答が39.7%で最も多く、「開催する」28.9%、「再延期する」25.7%と続きました。昨年12月の調査では、「2022年以降に延期すべきだ」が29.9%、「中止すべきだ」が21.1%。今年2月の調査でも「22年以降に再延期すべきだ」35.3%、「中止すべきだ」25.8%で、中止すべきとの声が今年春以降急増していることがわかります。

日米首脳会談後の共同会見で発言する菅義偉首相=2021年4月16日、ワシントンのホワイトハウス

東京五輪は操舵手がいない船

 国際世論や国内世論が向かい風なのに、東京五輪が開催に向かおうとするのは何故でしょうか。私は、これはもはや「慣性の法則」レベルの話であり、誰も止める事が出来なくなっている状態だと感じています。

 まず第一に、昨年、東京五輪を延期する決断をしたのは、バッハ会長と安倍晋三首相(当時)でした。カナダが選手団派遣を見送ったことなどから、急転直下でこの二人がテレビ会議を通じて開催が難しいことを確認し、延期を決断しています。この「東京五輪1年延期」の意思決定にはJOCや組織委員会の意思は大きく介在せず、むしろトップ同士で決めた意思決定だったとされています。

 翻って今、菅総理に国際的な指導者らとこうした意思決定をするだけのリーダーシップがあるかどうかは、心許ないところがあります。外交が苦手なことも含めて、強いイニシアチブを持った意思決定が出来ないことが問題でしょう。

 組織委員会もまた、力がありません。森喜朗氏の会長辞任からはじまった組織委員会の人事異動もまた、国際社会に組織委員会のイニシアチブのなさを露呈したに過ぎませんでいた。橋本聖子氏が森氏にかわって新しい会長に就任しましたが、派閥内での会長ポストの禅譲にも見え、新会長の求心力は高まっているように見えません。さらに、女性の地位向上という名目で、女性理事を突然増やすことを迫られるなど、組織ガバナンスに大きな変更のあっただけに、東京五輪開催の可否という組織委員会自体の存在意義が問われるような決定を下すだけのイニシアチブがとれるとは、とても思えません。

 IOC(国際オリンピック委員会)もまた、

・・・ログインして読む
(残り:約755文字/本文:約3255文字)