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日米同盟は「経済安全保障」の時代へ~菅・バイデン共同声明で鮮明に

「経済安保」の重要性に目覚めた日本のこれまでの歩みと今後の展望

井形彬 多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授・事務局長

日本の「安全保障政策」に欠けていた視点

 今回、「経済安全保障」が日米同盟の主軸のひとつになるまでの背景を理解するには、ここ数年日本で進展してきた経済安全保障分野における議論や政治の動きを把握する必要があるだろう。

 筆者は2018年2月に「日本の『安全保障政策に欠けている視点』-『economic statecraft』とは何か」という論考を発表した。

 論考の中ではまず、国際政治において米中をはじめとする大国が「経済的な手段を用いて地政学的な国益を追求する」という『エコノミック・ステイトクラフト(経済的な国策)』を多用するようになっており、この視点が日本の安全保障政策から欠けていることを指摘した。

 各国で活発化している「エコノミック・ステイトクラフト」には、貿易、投資、経済制裁、サイバー、経済援助(ODA)、金融政策、エネルギー政策、技術協力など、様々なツールが存在する。しかし、最近まで日本が積極的に用いていたのは、主にODAを通じた外交政策に限られており、そのODAですら日本の国益にどのような形で資するのかに関して、戦略的意図が必ずしも明確ではない場合が多かった。

 論考ではさらに、民間セクターが開発した技術が軍事転用されることが増えるなか、無人システムやAI、ビッグデータの活用などの新技術の重要性が高まっていることに言及。米国の軍事戦略も変化をしてきており、「最先端の技術を持つ日本はこの試みにおいて主要なパートナーとなりうる」と指摘した。

 そのうえで日本政府への政策提言として、
(1)エコノミック・ステイトクラフト戦略の構築、
(2)エコノミック・ステイトクラフト機能の強化に向けて、国家安全保障局(NSS)内に「国家安全保障経済政策会議」を設置すること、
(3)民間企業と緊密に連携し、企業やビジネスに対してエコノミック・ステイトクラフトに関する考えを促し、奨励すること、
の三点を論じた。

 その1年後には、外務省が出版する雑誌『外交』2019年3・4月号に筆者の論考『「経済的国策」をめぐり激化する米中競争-エコノミック・ステイトクラフト(ES)にどう対処するか』が掲載された。中国が洗練されたエコノミック・ステイトクラフトを使いこなし始めたことを受け、欧米が防御的な経済安全保障上の措置を取り始めたことを紹介し、日本が取るべき政策を提言した。

 具体的には、
(1)民間レベルでは、先端技術を巡る米国の投資規制や輸出管理への対応を始める必要があること、
(2)政府レベルでは、経済安保に関する包括的な戦略立案や、インテリジェンス分析、国内政策実施の省庁間調整が必要であること、
などを指摘した。

拡大alexaldo/shutterstock.com

経済安保に「目覚めた」日本

 日本政府がエコノミック・ステイトクラフトへの対応力を上げるため、「経済安全保障」と本格的に向き合い始めたのは、筆者の『外交』論文が出された時期と重なっている。

 2019年5月、自民党の「ルール形成戦略議員連盟」が取りまとめた『提言「国家経済会議(日本版 NEC)創設」』が安倍首相に手渡された。この提言書は、各国による「経済的な外交術を操り、安全保障上の国益を追求する手法であるエコノミック・ステイトクラフト(経済外交策)は激しさを増し、安全保障の観点から最先端技術を有する企業や製品・サービスを巧妙で多用な手口により獲得しようとしている」ことを指摘し、「米中のエコノミック・ステイトクラフト戦争の下で我が国が生き抜くために、戦略的外交・経済政策を練り上げる『国家経済会議(日本版NEC)』の創設を提言する」と締めくくっている。

 この提言書を皮切りに、政府レベルで様々な組織改編が行われていく。

 2019年10月末、提言書にあった「国家経済会議」が、既存の国家安全保障局内(NSS)に新たな班として「経済班準備室」を設置する形で実現した。半年の準備期間を経て、2020年4月にはNSS内の七つ目の班として正式に「経済班」が発足している。

 経済安全保障政策の司令塔となるNSS経済班が機能するには、実際に大きな方向性を決めた後に、政策を実施する各省庁に「経済安保政策の窓口」が必要となる。経産省はNSSの経済班準備室に先立ち、6月に「経済安全保障室」を設置。外務省では経済班準備室と時期を合わせ、「新安全保障課題政策室」を設置した(参照)。

 これらの組織改編を受け、日本の経済安全保障政策も少しずつ変化を遂げた。例えば、先端技術を含む技術漏洩対策は、「ヒト」「モノ」「カネ」「サイバー」の四つのルートから生じる可能性があるが、「ヒト」の面では共同研究への補助金規制、「モノ」と「カネ」の面では外為法の改正による貿易管理や投資規制の強化、「サイバー」の分野では日本のサイバーセキュリティ対策のさらなる向上に向けた諸政策が取られてきた。

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筆者

井形彬

井形彬(いがた・あきら) 多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授・事務局長

米国シンクタンクのパシフィック・フォーラムSenior Adjunct Fellowや、国際議員連盟の「対中政策に関する列国議会連盟(IPAC)」経済安保政策アドバイザーを兼務。その他様々な立場から日本の政府、省庁、民間企業に対してアドバイスを行う。専門は、経済安全保障、インド太平洋における国際政治、日本の外交・安全保障政策、日米関係。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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