立憲民主党の新世代の4議員が語る「令和」の政治の現実と野党の生きる道
2021年04月22日
新型コロナ禍によって、日本社会が抱えてきた根の深い課題があらわになっています。それは、不平等や雇用、女性などの社会問題、脆弱なITやデジタルディバイドといった社会基盤にかかわる問題、危機管理や民主主義のあり方をめぐる問題など、多岐にわたります。
こうした深刻な現実を前にして、政治は何をするべきか。政党や政治家は克服する道を示すことはできるのか。「論座」では、政治の当事者である政治家とともに、課題解決を視野に入れた「論考」を展開することにしました。まずは立憲民主党の新世代の衆院議員の4人、小川淳也さん、落合貴之さん、亀井亜紀子さん、堀越啓仁さんに、継続的に寄稿をお願いします。
それに先立ち、今の政治をどう見るか、どんな課題に着目しているか、社会をどう変えていきたいかなど、座談会で語っていただきました。(司会 論座編集部・吉田貴文)
小川淳也(おがわ・じゅんや)
1971年生まれ。東京大学法学部卒業。1994年自治省入省。沖縄県庁、春日井市役所などを経て、2005年衆院議員初当選、現在5期目。総務大臣政務官、民進党役員室長など歴任。著書に『日本改革原案 2050年成熟国家への道』(光文社)
落合貴之(おちあい・たかゆき)
1979年生まれ。慶應義塾大学経済学部卒業。三井住友銀行行員、衆議院議員江田憲司秘書などを経て、2014年衆院議員初当選、現在2期目。衆議院経済産業委員会野党筆頭理事、党政調副会長など歴任。著書に『民政立国論 一人ひとりが目指し、挑み、切り拓く新世界』(白順社)
亀井亜紀子(かめい・あきこ)
1965年生まれ。学習院大学法学部、カールトン大学(カナダ)卒業。英語通訳、衆議院議員秘書を経て、2007年参議院議員初当選、2017年より衆議院議員で現在1期目。衆議院農林水産委員会、地方創生特別委員会、立憲民主党国際局長。
堀越啓仁(ほりこし・けいにん)
1980年生まれ。大正大学人間学部仏教学科、東京福祉専門学校作業療法学科卒業。僧侶をしながら作業療法士としてリハビリに従事。2017年衆院議員初当選、現在1期目。環境委員会委員、消費者問題特別委員会委員、倫理選挙特別委員会委員。
――昨年秋に合併新党の立憲民主党が発足、ほぼ同時期に菅義偉政権もスタートして半年が過ぎました。菅政権は発足時は高かった支持率が急落、今は下げ止まっていますが、低空飛行を続けています。一方、立憲民主党の支持率はなかなか上がりません。こうした現状についてどう見ていますか。
亀井 一番の問題は、自民党がいいとは思わないけれど、野党に政権がかわったらどういう世の中になるかがイメージできないことです。立憲民主党のポスターの「あなたのための政治」というスローガンを見ると、「『あなたのための政治』って当たり前でしょ」と思ってしまう。他方、新型コロナウイルスへの対応を見ると、危機管理に強いはずの自民党がこんなにボロボロなのかと驚いていますし、多くの国民もそうだと思います。
堀越 確かに、地元を歩いていると、立憲民主党がどういう世界を目指したいのか分からないとよく聞きます。僕自身は明確にあると思いますが、それを伝えてもあまり国民にはピンと来ないところが、正直いってあるのかなと……。
小川 結党以来、65年間のほとんどの間、政権を担ってきた自民党は、政権政党としてプロです。これに対し野党は、私以外のお三方には直接の責任はないのですが、民主党政権の端くれにいたものとして、あれだけ高い期待を国民からいただきながら、十分応えられなかった。その無念さ、自責の念を、今も抱えています。民主党がもう少しうまく政権運営できていれば、政治の風景は随分と変わっていたでしょう。野党への失望の「反射的利益」で、安倍晋三、菅義偉政権は一定の支持を得られています。
落合 安倍さんは頼りなくて、菅さんのほうが仕事人という感じがしていたのですが、コロナやワクチンへの対応、内閣提出法案の4割に間違いがある現実などを見ると、政府がまっとうに機能してないと思わざるを得ません。そのトップである菅さんに政権担当能力がないと言っていい状況です。立憲民主党に対しては、国政選挙の投票率が政権交代を実現した2009年の7割から5割まで下がっていることに象徴されるように、有権者の幻滅は依然、強いと思います。
――野党のあり方や政権交代については後で詳しくお聞きするとして、まずは現在の政治状況についての認識をお伺いしたいと思います。今年は令和3年ですが、振り返れば、「平成」の初めは冷戦が終わったり、バブルがはじけたり、自民党、社会党による「55年体制」が幕を下ろしたり、文字どおり「大転換期」でした。新型コロナという思わぬ危機に見舞われた「令和」の初めも、大転換期になるのでしょうか。
平成を特徴づけるもう一つはIT化の進展です。令和はそれがさらに進み、AIが人間を超える「シンギュラリティー」が2045年頃に到来するとも言われています。AIの使い方やルールを決めておかないと大変なことになると思います。
小川 グローバリズムでいろいろな構造問題が起きているのに、政治が国内単位であるギャップから、様々な悶絶(もんぜつ)が生まれています。対応の方向は二つしかありません。一つは経済をローカルにする。それは保守主義、ナショナリズム、保護主義に結びつきます。もう一つは、政治をグローバルにする。矛盾を解決するため、国際政治の機能を強化する。この道は容易ではないですが、どの国も国民も経験したことがないチャレンジに踏み出さないといけないと思っています。
落合さんが触れた格差拡大の背景には、グローバリズムのもと公平な再分配が行われていないことがある。OECDで議論されている法人税の下げ止め、引き上げや、「GAFA」への課税はやるべきですが、より重要なのは、世界が成長経済から決別することです。成長によって矛盾を解消した20世紀的発想から、成長がなくとも最適な再分配で各国の国民生活を担保する「パラダイムシフト」を志向するべきだと思います。
今、米中の対立が激化して、「新冷戦」とも言えるような状況が始まっています。豊かになった中国が、富を軍事力に振り向けるとともに、世界を中国のサプライチェーンに組み込むという経済安全保障上の布石を着々と打ってきたことに、アメリカをはじめ各国が気付き始めた。これからは、民主主義・人権・法の支配・言論の自由といった価値観を共有する国々との経済活動を考えていくべきだと思います。
堀越 僕が政治に関心を持ち始めたのは10年前の3・11。原発事故があり、生きていくうえで本当の豊かさとは何かを考え始めたのがきっかけです。この問題意識を加速させなければいけないという思いがあります。
モノに囲まれていても、人はあまり豊かさを感じないんじゃないか。周りの40代の人たちと話をしていると、食の問題や健康、環境といったモノの豊かさとは別のものに意識が向いてきている感じがします。豊かさについて、国民一人ひとりが自分の頭で考えなければならない節目にきていると思います。
私は僧侶でもあるので、超高齢化社会とその先の多死社会、「命」の問題も気がかりです。コロナ禍で自殺者が増え、子どもの自殺者が昨年は400人以上もいるのは、異常な事態です。
――豊かさについて考えることで政治に関心をもつようになったというのは興味深いですが、政治家になるには大きな決断がいると思います。引き金になったのは何だったのですか。
黙っているとダメというのが政治活動の基本です。たとえば県の条例がかわり、障害福祉サービスが切り詰められたら、当事者の方々と話をして、利用者の家族や本人の負担が増えるのが許されないと思えば、署名活動やら要望活動を一緒にやりませんかと呼びかけています。
――政治家になる動機やきっかけはそれぞれだと思いますが、政治信条や行動原理が透けてみえるようでおもしろいですね。
落合 私は堀越さんと同学年で、平成が始まった時は小学生でした。政治家とは縁のない家でしたが、ベルリンの壁が壊されたり、モスクワのレーニン像が倒されたりするインパクトのある映像をテレビで見ているうちに政治に興味を抱き、サラリーマンを経て、政治家になりました。
議員になって分かったのは、有権者の意思がほぼ反映されていない政治の実態です。民主主義的な選挙を経ているはずなのに、なぜそうなるのか。考えた末、投票する側と選ばれる側が、それぞれを別の世界の存在だと思っているのが原因だと思うようになりました。
民主主義が機能するためには、選ぶ側が選ばれた人たちを育てる、あるいは選ぶ人の中から選ばれる人がでてこないといけない。SNSをうまく使い、普通の人でも政治家になれる、普通の人が出てほしいと思う人を政治家にできるようになればと思いますね。
落合さんと同様、実家は政治家とは関係がありません。パーマ屋を営む父母は庶民ですが、社会の役に立つ人になれと言われ、中央官庁に進みました。しかし、天下りや接待問題で幻滅、政治家を志しました。
当時、自民党はずいぶん痛んでいたので、国民が「選択肢」を手にしないと浮かばれないと考え、野党の民主党の門を叩いた。国民にまともな政治のオプションをつくりたかったのです。時代は成長期の安定軌道からすでに外れていました。成長幻想から脱却し、社会の持続可能性を追求する。そんなオプションです。
亀井 私は4人のなかでは唯一、父親が政治家、いわゆる世襲です。ただ、世襲といわれるのが嫌で、職業としては政治を選択しないできました。
父は政治家を継がせようとは思っていませんでした。ただ、郵政民営化に反対して自民党を離党、政党をつくり、地元で自民党への対立候補を立てないといけなくなった。野党が政権をとるには、各選挙区で候補者を出して与党にかわる選択肢を示さないといけない。けれども、与党の強い候補者に対して手を挙げる人はなかなかいない。まずは自らが選択肢になろうと、参院選島根全県区に立候補しました。
――自民党に対する選択肢というのが、小川さんと共通する「キーワード」ですね。自民党と立ち位置は異なりますか。
亀井 安倍政権ができた時、「経済成長最優先」というスローガンがポスターにのっていましたが、疑問でした。日本がこれから目指すべきは、「持続可能な経済」だと私は思います。自民党は国民を豊かにしてくれるというイメージの刷り込みがあって、野党政権だとそれが変わると多くの人が思っているようですが、間違いです。自民党型の成長とは異なる「持続可能な経済」が選択肢としてあり得ます。
支持率が上がることだけを言うのが、政党や議員の役割ではない。票にならないことでも、ちゃんと光を当てて地道にやっているということが、いつか評価をしていただけると思っています。僕が環境や動物福祉に力を入れているのはそのためです。
有権者も変わりつつある気がします。成長以外に大切なモノがあることに気づき、そのために行動に起こす動きが出始めています。そういう人たちと一緒に物事を進めていくことも、われわれはやらないといけないと思います。
――政権が目前の課題に追われてなかなか示せない長期的な課題を取り上げ、解決のための選択肢を示すことは、野党の大事な役目だと思いますが、立憲民主党の支持率が合併新党の発足後も上昇しないのは悩ましいですね。
まず、お三方にお詫びしないといけないのは、私は4年前、小池百合子・東京都知事が立ち上げた希望の党から立候補しました。あの時、立憲民主党を旗揚げした枝野さんや、その旗のもとに駆けつけた落合さん、亀井さん、堀越さんは、日本政治に不可欠なリベラルの立ち位置を守りました。その功績は極めて大きいと思います。その後、私は枝野さんにお願いして、立憲民主党の会派に入れていただきましたが、4年前の罪は今も背負っています。
それを踏まえて申し上げますが、希望の党、そして小池知事がいてこそ輝いた立憲民主党は、希望の党がなくなり、小池さんがほぼ消滅することで、「反射的輝き」を失ったと思います。「自力走行」するためには、自民党と対峙する明確な理念や政策体系オプションが必要ですが、それがまだない。
立憲民主党は今、政権の批判勢力としての野党の役割はぎりぎり果たせているのかもしれませんが、政権を担える勢力として国民から認知されてはいない。小手先でなんとかなるというものではないとシビアに見ています。
――結党時から立憲民主党の落合さんはどうですか。
では、どうすればいいか。小川さんをはじめとする日本新党世代の次の世代の人たちを、立憲の新しい人材の層として、「次はこの人たち。この次はこの人たち」というようなかたちで育てていけるかにかかっていると思います。
やはり若いリーダーが必要です。ただ、昔と違って若い人が少ないので、若年層をある程度優遇しないと、若いリーダーを押し上げられません。若者の声をことさら強調して国会に届けるというリーダーを、野党が育てていくという姿勢を打ち出すことが大切だと思います。
小池さんが民進党を壊してくれたお陰で、枝野さんを中心にゼロベースで新しい提案ができるようになったのは、立憲の強みです。大きな方向を示し、各分野についてはチームをつくって詰めていく。それができるかは、われわれ若い世代にかかっています。
その点で、失敗したとはいえ、3年間の政権経験があるメンバーが残っているのは強みでもあります。かつて政権にいた人たちは、失敗を率直に認め、今度こそという思いを伝えるということが大事だと思います。
島根県という「保守王国」でつくづく感じるのは、自民党って宗教みたいなものだということです。海外でどんな宗教を信じているか聞くと、「教会にはほとんどいかないし、熱心じゃないけど、一応キリスト教」みたいな答えをよく聞きました。自民党も、積極的に支持しているわけじゃないし、集会にもいかないけれど、一応自民党。なぜかというと、親もそうだから。そこをどう突き崩すか。多数派にいることで安心している人たちに、どう立憲民主党を支持してもらうか。難問ですが……
――政権交代への道のりは遠いようですね。
小川 現段階でいうと政権交代の可能性はゼロだと厳しく受け止めています。
民主党政権の頃、こんな風に感じたことがありました。野球にたとえると、与党は守り、野党は攻めです。具体的に言うと、与党は社会に綻びがでないように守備につく。野党は打席に立って強い打球をうつのですが、それは守備を攻撃するためではなくて、放置すると国民に被害が及ぶので、守備の弱点を明らかにするためです。ところが、政権をとった時、民主党は守備につきながらバットを振っていました。これだと打球は拾えないし、アウトもとれない。
つまり、野党で政治家をやることと、与党で政治家をやることは、まったく違うのです。それを自覚できる人、ほんとうは経験している人が一番いいのですが、そういう人が、教育というか躾(しつけ)をして、政党のカルチャーを変えていかないといけないのでしょう。
堀越 民主党がダメだったという批判を僕もよくききます。ただ、自分が救急医療の現場にいた時、民主党政権にそれほど悪い印象は持ちませんでした。たとえば、救急車のたらい回しが当時、相当あったのですが、民主党政権で救急搬送受け入れ加算制度をつくったことで救急医療病院のベッドが増え、救急患者を受け入れられるようになった。
こうしたいいところは印象に残らず、悪いところばかり強調されるのは残念です。菅政権や安倍政権の批判よりも、私たちだってこういうことができた、われわれに期待する国民の声があったから実現したということを、もっと伝えられれば思っています。
――今年の秋までには確実に総選挙があります。自身の当選、党勢の拡大のため、具体的に何を訴えていきたいですか。
また、持続可能な経済や生活が守るためには、「自然資本」が不可欠なので、環境についても全力で取り組みたいと考えています。
亀井 持続可能な経済を目指す政策づくりに、政党として取り組むべきです。私の地元の島根県では、人口が減っているのに新築のマンションができ、空き家が増えています。若い夫婦が独立する時、中古の空き家を改修して住めばいいのに、国の政策としては、新築を買うように誘導する。空き家、家を探す人、地元の工務店を結びつければ、家は再生されるのに……。
新しいものは良いものだというメンタリティーを変えていかないといけません。ノーベル平和賞をとったケニアのワンガリ・マータイさんが、日本の「もったいない」という言葉を広めましたが、この言葉を見直して、日本らしい経済活動を始めるべきだと思います。
くわえて、党の国際局長として、立憲民主党にも政権を担える外交・安全保障政策があるということをアピールするお手伝いをする必要があるとも思っています。
戦術的には、共産、令和、国民、社民との共闘、候補者の一本化は必須です。さらに、党のチャーミングさを増すために、新たに参画してくれた中村喜四郎さん、功罪あるにせよ小沢一郎さんなど、真ん中から右、保守層に遡及力のある人たちをうまく使わないといけません。今の布陣では批判勢力の域をでない印象です。
落合 成長すれば家計がよくなるはずなのに、国全体の経済が成長しても家計がよくならないという、当たり前でないことが起きています。ただ、なぜそれが起きているのか、学者の世界でも議論が分かれています。
つまり、政治家がこうやるべきだと訴えるのが難しい時代になっています。であれば、答えがなかなか見つからないということを国民にも分かってもらい、一緒に考えていく政治家集団をつくることが必要だと思います。
コロナ禍で街頭演説していると、人々が政治への関心を持ちつつあると感じます。サラリーマンが地域にいる時間が増え、学生も一人でいる時間が増えた。その結果、自分のこと、社会、そして世界について考え、政治に興味をもつようになってきているのではないでしょうか。
だからこそ、政治家は適当なことを言うべきではない。逆に、本気で訴えれば、爆発的に響くと思います。そうした本来の民主主義に立ち戻った政治、国民と共につくる政治に、令和の政治は変わっていくのではないか。そう実感しています。
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