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慰安婦訴訟、今度は「門前払い」~なぜ韓国の司法判断は割れたのか

「主権免除」をめぐって国際法の新潮流を考える

市川速水 朝日新聞編集委員

拡大ソウル中央地裁

同じ地裁で1月は原告勝訴、3カ月後に正反対判断

 韓国の元慰安婦、李容洙(イ・ヨンス)さん(93)ら被害者・遺族20人が日本政府を相手取って起こした損害賠償訴訟で、ソウル中央地裁は2021年4月21日、原告の訴えを却下した。韓国の司法は主権国家を裁くことができないという「主権免除」(国家免除)の原則に則り、「門前払い」にする判断を下した。

拡大判決後、取材に答える元慰安婦の李容洙さん=2021年4月21日、ソウル
 同年1月8日、同じ地裁で別の原告12人に対しては、訴えた場所が韓国であっても、「主権免除」の例外として日本政府を裁く管轄権がある、と一人当たり1000万円弱の賠償を日本政府に命じる判決があったばかりだった。

 日本政府はいずれの裁判についても「主権免除」を理由に参加せず、1月の判決(便宜上、第1次訴訟と呼ぶ)は控訴せずに敗訴が確定した。4月の判決(=第2次訴訟)は、原告が控訴の意向を示しているため、引き続き二審に判断が委ねられることになりそうだ。

 国際慣習法の「主権免除」をめぐって、正反対の司法判断が併存することになった。

 日本政府にとっては、第1次訴訟の判決は常軌を逸したものであり、第2次訴訟の却下は至極当然の結果ということになる。

日本政府の立場に沿う今回判決

拡大1月の慰安婦訴訟判決の日に記者団の質問に答える菅義偉首相=2021年1月8日、首相官邸
 菅義偉首相は第1次訴訟判決の際、「主権国家は他国の裁判権には服さない。これは決まりですから」と語り、茂木敏充外相も康京和(カン・ギョンファ)・韓国外相に「国際法上の原則を否定した判決は極めて遺憾で、断じて受け入れられない」と抗議した。

 それに先立つ2019年5月、日本政府は韓国政府に対し、「日本政府が韓国の裁判権に服することは認められず、訴訟は却下されなければならない」と伝達していた。第2次訴訟の一審判決は結果的に、日本政府の立場に沿った形となった。

 第2次訴訟の判決に際し、ソウル地裁は口頭で却下の判断に至った理由を説明した。この中に、第1次訴訟と判断が分かれた「境界線」がくっきりと浮かび上がっている。

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筆者

市川速水

市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員

1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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