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慰安婦訴訟、今度は「門前払い」~なぜ韓国の司法判断は割れたのか

「主権免除」をめぐって国際法の新潮流を考える

市川速水 朝日新聞編集委員

両訴訟は契機に違い。共通争点は「主権免除」

 一連の慰安婦訴訟は契機が異なる。改めて整理すると――。

 第1次訴訟は、2006年までに韓国が全面公開した日韓請求権協定(1965年)の交渉史料が発端だった。日韓の実務交渉の過程で慰安婦問題が清算の対象になっていなかったことが確認されたことを背景に当事者から補償を求める声が上がり、さらに韓国政府がその声を放置して外交的に日本に働きかけなかったことを憲法裁判所が2011年、「韓国政府の不作為は違憲」と決定。その後、日本への調停申し立てが不調に終わって訴訟に発展したものだ。

拡大慰安婦問題で「日韓合意」の会談を前に握手する岸田文雄外相(左)と尹炳世・韓国外相=2015年12月28日、ソウルの韓国外交省
 第2次訴訟は、2015年12月28日に日韓外相が慰安婦に関する「合意」を発表し、慰安婦問題が最終的かつ不可逆的に解決したことを確認し、少女像の撤去について韓国側が努力することなどを約束したことが契機となった。元慰安婦らが、被害当事者の意見が反映されておらず勝手な合意は許されないと反発し、翌年、提訴した。

 二つの訴訟に共通する争点は、韓国の裁判所が国際慣習法の「主権免除」の例外を認めるかどうか、だった。一方で、第1次訴訟は日本による朝鮮半島植民地統治の清算方法に深くかかわるもの、第2次訴訟は、膠着状態に陥っていた慰安婦問題について、法的解決を棚上げして政治的・人道的解決を図った「外交」の是非が問われたもので、動機や責任を問う対象が微妙に異なる。

拡大在韓国日本大使館近くに設置され、日韓政府間合意で「韓国側が撤去に努力する」と約束された慰安婦問題のシンボル「少女像」=2017年5月、ソウル

日韓政府間合意は「外交的要件を具備」

 今回の第2次訴訟の却下理由を口頭で述べた内容について、韓国・聯合ニュースは以下のような記事を配信している(原文を筆者が翻訳。以下も同様)。

 「裁判所は、第2次世界大戦後、ドイツを相手に欧州の様々な国家で被害者が訴訟を起こして国家免除(主権免除)を理由に却下された事例に言及しつつ、『国家免除の例外を認定すれば強制執行の過程で外交的衝突が不可避だ』と説明した」

 また、原告が最も問題視していた2015年の「日韓政府間合意」についても言及している。

 「裁判所は、慰安婦合意に関して『外交的な要件を具備しており、権利救済の性格を持っている』とし、『合意の過程で被害者の意見を収斂していないなど内容と手続きで問題があったが、このような事情だけで(政府の)裁量権を逸脱・濫用したとみることは難しい』と指摘した」

「被害者の問題解決は外交交渉を含めて努力を」

 「(裁判所は)続いて『合意には相手があるため、韓国の立場だけ一方的に反映することはできない。合意案に対して被害者の同意は得られなかったが、被害者の意見を収斂する手続きを経て一部被害者は和解・癒やし財団から現金を受領した』と付け加えた」(注:和解・癒やし財団は、政府間合意の際に日本側が10億円を拠出し、被害者に直接現金を届けるために韓国で設立された組織)

 「裁判所は最後に『韓国が傾けた努力と成果が被害者の苦痛と被害を回復するには不十分だったと思われる』としつつも『被害回復など慰安婦被害者の問題解決は、外交的交渉を含む努力によって行われなければならない』と強調した」

拡大韓国外交省前で、日韓合意破棄と「和解・癒やし財団」の解散を訴える元慰安婦支援団体=2018年12月、ソウル

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筆者

市川速水

市川速水(いちかわ・はやみ) 朝日新聞編集委員

1960年生まれ。一橋大学法学部卒。東京社会部、香港返還(1997年)時の香港特派員。ソウル支局長時代は北朝鮮の核疑惑をめぐる6者協議を取材。中国総局長(北京)時代には習近平国家主席(当時副主席)と会見。2016年9月から現職。著書に「皇室報道」、対談集「朝日vs.産経 ソウル発」(いずれも朝日新聞社)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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