欠陥だらけの土地規制法案――政府の裁量濫用で市民活動制限の恐れ
政府は今国会で成立目指すが、立法の必要性みあたらず
馬奈木厳太郎 弁護士
1.戦時の「要塞地帯法」・「軍機保護法」が蘇ったような「土地規制法」

映画「この世界の片隅に」のワンシーン©こうの史代・双葉社/「この世界の片隅に」製作委員会
みなさんは、アニメーション映画『この世界の片隅に』(同名漫画が原作)をご覧になったことがありますか?
作品のなかで、主人公のすずが、呉湾に停泊している艦船をスケッチしていたところ、憲兵に見つかり怒られるというシーンがあります。これは、呉湾が要塞であり「要塞地帯法」の指定を受けていた時期があることや、「軍機保護法」に触れるおそれがあったことによります。
1899年に成立した要塞地帯法は、国防を理由として、要塞を中心に一定距離内を要塞地帯と指定し、この地域において、立入り、撮影、模写、測量、築造物の変更、地形の改造、樹木の伐採などを禁止もしくは制限し、罰則を設けて厳重に保護していました。
また、軍機保護法は、軍事機密を保護の対象とし、これらの探知、収集、漏洩を処罰するとしていました。具体的には、軍港などの港湾、砲台、その他国防のために建設した防禦営造物、軍用艦船、軍用航空機、兵器、軍需品工場、その他の軍事施設について、測量、撮影、模写、録取などを禁止・制限していました。
要塞地帯法も軍機保護法も、先の大戦後に、勅令により廃止されました。
ところが、今国会(第204回国会)に、要塞地帯法・軍機保護法を彷彿とさせるような法案が提出されました。それが、自衛隊や米軍などの施設周辺の土地の利用を規制する法案(土地規制法案)です。本稿では、この法案の問題点について検討したいと思います。

米海軍と海上自衛隊が共同で使う厚木基地。周辺は住宅密集地で、騒音などの被害は首都圏300万人に影響すると推計されている=2015年7月14日、神奈川県綾瀬市と大和市、朝日新聞社ヘリから