次期衆院選に向けて野党にとって逆風になる可能性も
2021年04月27日
国民の注目を集めた参院長野選挙区、衆院北海道2区の両補欠選挙と、参院広島選挙区の再選挙が4月25日に投開票された。結果は、三つの選挙区ともに野党勢が勝利をおさめ、新聞各紙には「自民全敗」の大きな活字が踊った。
メディアが伝えるように、自民党に逆風が吹いたのは間違いないし、野党共闘が功を奏したというのもその通りだが、この流れが半年以内に実施される次期衆院選まで続く流れになるわけではない。それどころか、野党の対応次第では、今回の結果が衆院選に向けて裏目に出る可能性すらある。
私がみるところ、国政選挙の本選挙と補欠選挙や再選挙との間には、有権者の投票行動に基本的な違いがある。
具体的には、補選や再選挙の場合、「現政権に対する評価」が投票行動を大きく左右する傾向が強い。次の政権を選択する「政権選択」が有権者の投票行動を決める本選挙、なかでも衆院選とは、その点において大きく異なる。
とりわけ、今回の補欠選挙・再選挙のように、新型コロナウイルスの感染拡大や、東京五輪・パラリンピック問題など、国のあり方ともかかわる大きな方向性が問われると、地域に特有の判断材料の比重は後退する。しかも現在、菅政権の支持は定常的に低迷している。だから有権者にすれば、現政権に“お灸”をすえたという感が強い。
収賄罪で在宅起訴された吉川貴盛元農林水産相=自民を離党=の議員辞職に伴う衆院北海道2区補選で自民党は候補擁立を見送ったが、これは不祥事に対する自民党の「反省」とは受け取られず、むしろ「逃げ」とか「弱気」と見られ、他の二つの選挙にも影響を与えたと思う。
もし自民党が勝つとすれば、参院広島選挙区の再選挙だろうと見ていたが、それも接戦の末、女性候補に一本化してのぞんだ野党勢に敗れてしまった。
私は長年、広島県の大学で教えてきたので、多くの県民の声が耳に入る。「自民王国」であり、「質の高い保守主義の牙城(がじょう)」と自負してきた広島県民は、公職選挙法違反(買収)で有罪となった河井案里氏=自民を離党=をめぐる事件の顚末(てんまつ)によって、自尊心を深く傷つけられた。
いわゆる「河井事件」は、広島県を地元とする岸田文雄・前政調会長が率いる「宏池会」(岸田派)つぶしの策動と見るのが一般的だから、岸田氏が先頭に立って動いた今回の再選挙では、自民党が勝つ可能性があると思っていた。実際、自民党内からも「勝って当然」という声が上がっていたようだが、「河井事件」が残した傷は想像以上に深刻だった。これはもちろん岸田氏の責任として片付けられることではない。
この敗北が意味するのは、ずばり「自民党は党本部から河井氏側に支払われた“1億5千万円”とも言われる資金の流れを明白にしろ」という、菅政権に対する厳しい催促に他ならない。それを明らかにしなければ、広島県民はもとより、多くの善良な自民党支持者は納得しないであろう。
今回、三つの選挙に勝利した野党勢には、この勢いをこのまま次期衆院選につなげたいという考えがあるようだが、それには疑問を禁じ得ない。というのも、前述したように、補欠選挙や再選挙と異なり、衆院選では次の政権を選択する「政権選択」が、有権者の投票行動を支配するからだ。参院通常選挙も、結果次第では政権交代につながるので、衆院選ほどではなくとも、「政権交代」の是非が投票行動を左右すると言っていい。
たとえて言えば、補欠選挙では、まな板の上に現政権を置いて料理をするが、本選挙では、現政権とそれに代わろうという勢力の両方をまな板の上に置いて厳しく比較する。そのうえで、未知の新しい勢力のほうをより厳しく切り開くのである。
私が危惧するのは、野党が三つの選挙を「勝った」と誤解することだ。そうではなく、現政権の業績や能力に対して、有権者が不合格の評価をくだしたと見るべきだろう。投票率が最も高い参院長野選挙区補選でも44.40%、参院広島選挙区再選挙では33.61%、衆院北海道2区補選で30.46%と低調に終わったことにも注意を払うべきだ。野党に対して熱い期待があれば、こんな低投票率のはずがない。現政権に失望している自民党支持者が棄権したのだろう。
野党が自分たちは勝ったのだと誤解すれば、本選挙たる衆院選に向けて「現体制を補充、強化する」という方向で進んでしまう。指導者も体制も戦略も、これまで通りで何も変わらないだろう。もしそうであれば、衆院選で“負ける”どころか、“惨敗”の憂き目に遭うことは間違いないと私は思う。
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