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「アジア太平洋」から「インド太平洋」へ~日本外交の変化をどう見るのか

世界の未来決めるフロントラインは日本―能動的外交で米中対立緩和を

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

トランプ氏登場で変容。日米の二国間関係重視に

 しかし、トランプ大統領の出現は国際関係を大きく変えた。米国は「アメリカ・ファースト」や二国間主義を唱え、地域協力からも撤退していった。TPP(環太平洋パートナーシップ協定)は米国を中心メンバーとして自由主義経済体制の高度なルールを策定し、将来的には中国なども加入せざるを得ないところに追い込む戦略的な計画だったが、米国は撤退した。この頃から日本もアジア太平洋地域協力には距離を置き、米国との二国間関係を重視する姿勢が突出することとなった。

拡大日米首脳会談に臨むトランプ大統領と安倍晋三首相=2018年9月26日、ニューヨーク

バイデン政権で「インド太平洋」の概念で中国と対抗

 米国でトランプ時代は終わり、バイデン政権は国際協調路線に復帰する姿勢が顕著であるが、同時に中国との競争を対外関係における最重要な課題と位置づけている。そして中国と競争していくうえで日本・インド・豪州との枠組みである「クアッド」を重視する姿勢を見せている。

 即ち、中国と対抗していくうえでの概念は中国などを含むアジア太平洋ではなく、むしろ、現時点では中国を含まない、価値を共有する「インド太平洋」の概念となっていると見ることが出来る。

 日本は2016年に安倍内閣の下「自由で開かれたインド太平洋」戦略を提唱しており、米国の外交姿勢と合致する形となっている。

日米共同声明では名指しで中国非難

 そして4月16日にワシントンで菅総理とバイデン大統領との間で行われた日米首脳会談で発出された日米共同声明は、この点を繰り返し明確にしている。声明では「アジア太平洋」という言葉は完全に姿を消し、「インド太平洋」が頻繁に語られている。

 さらに「経済的なもの及び他の方法による威圧の行使を含む、ルールに基づく国際秩序に合致しない中国の行動について懸念を共有し」、「東シナ海におけるあらゆる一方的な現状変更の試みに反対する。日米両国は、南シナ海における、中国の不法な海洋権益に関する主張及び活動への反対を改めて表明するとともに、国際法により律せられ、国連海洋法条約に合致した形で航行及び上空飛行の自由が保証される、自由で開かれた南シナ海における強固な共通の利益を再確認した。日米両国は、台湾海峡の平和と安定の重要性を強調するとともに、両岸問題の平和的解決を促す。日米両国は、香港及び新疆ウイグル自治区における人権状況への深刻な懸念を共有する」と、中国を名指しで非難している。

 そこには中国を関与させるより対抗していくという姿勢が明確に示されているだけではなく、これまで日本が積み上げてきたアジア太平洋協力の重要性は語られることはなかった。

拡大日米首脳会談を終え共同会見に臨む菅義偉首相(左)とバイデン大統領=2021年4月16日、ワシントン

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

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