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日本によるアフリカ最大規模の天然ガス開発に赤信号【上】

「イスラム国」がついに三井物産などの事業を停止させる

舩田クラーセンさやか 国際関係学博士、明治学院大学国際平和研究所研究員

1. 攻撃の激烈化と「深刻な人道危機」:70万人を超える避難民

 天然ガス開発地のあるモザンビーク北端のカーボ・デルガード州では、2017年10月から、イスラム教をベースとする武装集団による武力攻撃と政府軍との交戦状態が続き、現在までに、2811回の攻撃、3000人近くの死者と71.5万人もの避難民が発生している 。国連による「深刻な人道危機」との指摘から、1年以上が経過した が、避難者は止むことがないばかりか、同州内では収容しきれない人びとが周辺州に溢れ始めており、モザンビーク北部全体が深刻な危機に直面している。

 これらの武装集団は、天然ガス開発事業を攻撃対象に掲げ、昨年末からタンザニア国境にあるLNGプラント建設地への攻撃を強めてきた 。2020年8月には、プラント建設や洋上ガス田開発、そして行政・警備のための物流に不可欠なモシンボア港や警察署や行政拠点、港を奪還し、度重なる政府軍の反撃にもかかわらず、現在もこれを占領し続けることに成功している。

 「イスラム国」に至っては、モシンボアを「イスラム国中央アフリカ州(Islamic State’s Central African Province:ISCAP)」の州都と表明しているほどである。また、周辺の交通網も待ち伏せ攻撃により寸断されており、政府・企業側は空輸や小型船での対応を余儀なくされている

 また、これらの武装集団は、インド洋上のガス田掘削サイト周辺の島々にも攻撃を開始しており 、これまで日本や現地政府が主張してきた「散発的な攻撃」「テロ」との認識がいかに不適切か分かる。

2.攻撃対象地・天然ガス開発事業への日本の官民による関与

 日本の官民(三井物産とJOGME)は、「ロブマ・オフショア・エリア1鉱区」の第二の権益者(20%保有)として、フランスの石油大手Total社(26.5%)とともに、この開発事業に携わってきた。とくに、三井物産は、陸上LNGプラントと海底天然ガス生産設備の建設のために、2015年来、自らの資金を投じるとともに 、日本の公的機関であるJBICへの融資を申し入れてきた。

 なお、基本設計などには、「アルジェリア人質事件」で多数の犠牲者を出した日揮 、そして千代田化工建設などが受注している。また、天然ガスの購入については、東京ガスと東北ガスが契約を締結している。

 なお、三井物産への融資は、JBICだけでなく、日本の9民間銀行を含めた協調融資として行われており、日本貿易保険は、20億ドル(218億円程度)の貿易保険を引き受けている。

 「日本貿易保険は、本プロジェクトが調達する総額144億米ドルのプロジェクトファイナンスのうち、株式会社三菱UFJ銀行、株式会社みずほ銀行、株式会社三井住友銀行、三井住友信託銀行株式会社、日本生命保険相互会社、クレディ・アグリコル銀行東京支店、ソシエテ・ジェネラル銀行 東京支店、株式会社新生銀行、及びスタンダードチャータード銀行東京支店による融資(総額20億米ドル)に対して保険を引き受けます」

 なお、日本貿易保険は、現在株式会社となっているが、政府が100%出資する株式会社であり、2017年4月まで独立行政法人であった。

3. 地元住民の反発・不満の広がりと環境団体などの反対

 天然ガス開発地カーボ・デルガード州では、2017年10月から、以上のような武力攻撃が開始され、政府軍との間で交戦状態にあっただけでなく、天然ガス田の対岸にあるアフンギ半島でのLNG施設建設予定地に暮らし、立退きと移転を強いられた漁民や農民の間で社会的不満が高まっていた。

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筆者

舩田クラーセンさやか

舩田クラーセンさやか(ふなだクラーセンさやか) 国際関係学博士、明治学院大学国際平和研究所研究員

京都生まれ。国際関係学博士(津田塾大学)。1994年にモザンビークにて平和維持活動(UNMOZ)に参加し、パレスチナとボスニア・ヘルツェゴビナなどで政府派遣要員として紛争後の民主選挙の監視に関わった。その後、研究活動を進め、2004年から2015年まで、東京外国語大学にて「戦争と平和学」「アフリカ研究」「国際開発・協力」などの教育に携わる。その後、研究の軸足を「食と農」に移すとともに日本内外で市民社会の活動にも積極的に関わっている。著書に「モザンビーク解放闘争史〜「統一」と「分裂」の起源を求めて」(御茶の水書房)、The Origins of War in Mozambique (African Minds)、共著に「解放と暴力〜アフリカにおける植民地支配と現在」(東京大学出版会)、The Japanese in Latin America(Illinois University Press)、編著に「アフリカ学入門」(明石書店)、訳書に「国境を越える農民運動〜草の根が変えるダイナミズム」(明石書店)。 ブログ:https://afriqclass.exblog.jp/ ツイッター:https://twitter.com/sayakafc

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