牧原出(まきはら・いづる) 東京大学先端科学技術研究センター教授(政治学・行政学)
1967年生まれ。東京大学法学部卒。博士(学術)。東京大学法学部助手、東北大学法学部教授、同大学院法学研究科教授を経て2013年4月から現職。主な著書に『内閣政治と「大蔵省支配」』(中央公論新社)、『権力移行』(NHK出版)など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
抑えの効いた「官邸主導」と内政での「官僚主導」の再生が急務
新型コロナウイルス感染症(以下「新型コロナ」)に対する政府の対策があまりにもお粗末だという声が、全国に満ち満ちている。
「第3波」を乗り越えたとして、年明けに発令した2度目の緊急事態宣言を3月に解除したのもつかの間、4月には再び宣言を発令し、5月7日には期限を5月末まで延長した。しかも菅義偉首相は、手続き上必要な国会での説明を自ら行わず、国民に向けた記者会見でも発言は精彩を欠いている。
振り返れば、2度目の緊急事態宣言を解除する時点で、東京都の一日あたりの感染者数が300人ほどだったから、解除後に感染者数が増えるのはある意味自然であろう。昨年来の懸案だった重症者用病床の確保は成功せず、ワクチンに至っては世界最低水準の接種率である。観光業や外食産業を中心に経済への悪影響は深刻さを増すなか、成算なきまま東京オリンピックの準備だけは進むという、まさに目を覆わんばかりの事態である。
こうした惨状は、菅政権固有のものなのだろうか。そうではない。安倍晋三前政権が続いていたとして、今と異なる対応ができたいたかは疑わしい。
振り返れば、安倍政権も新型コロナ対策ではちぐはぐな施策を繰り返していた。そして、目下最大の課題であるオリンピック開催について、IOCが2年先まで延長を提案したにもかかわらず、1年の延長を主張したのは、安倍首相その人であった。
そうだとすると、問題の根源は、安倍・菅政権に共通する構造的な欠陥にあるのではないか。変異ウイルスが次々と現れ、新型コロナの終息まで、長ければ数年はかかるだろう。「ポスト菅」の不在がささやかれるものの、どのような形であれ、菅政権もいずれは終わる。現状のままでは、後継政権もまた厳しい状況におかれるのは必至であろう。問題はそれほどまでに根深いのである。
いったい何がこうした問題を引き起こしたか。ここでは、「政治主導がもたらす政治の劣化」と「内政の司令塔不在」という二つの要因をあげたい。
「政治主導がもたらす政治の劣化」とは、①政治主導ゆえ、政策で失敗すればその責任を政治が担う②挽回しようとさらに政治主導を強めた結果、失敗がますます続き、政権の劣化がとめどもなく進む、ということだ。「内政の司令塔不在」は、現在の日本の統治機構では、新型コロナに典型的な複合的な内政課題に対応できず、いったん政策でしくじると、立て直せないまま、政権が崩壊への道をたどっていくということである。
とすれば、解決策を単純である。すなわち、1、政治主導の旗を降ろす、2、内政の司令塔をつくる、しかない。
具体的には、政権はまず、民主党政権以来の政治主導をやめて官僚主導へと舵を切り、そのうえで、官僚による内政の司令塔を時間をかけてつくるべきである。民主党政権から継承した政治主導を捨て、内政分野の官僚が“オール・ジャパン”のために存分に政策を形成するようとりはからうことが必要である。
このままだと、あるとき政権が、たとえば新型コロナで大失敗をして選挙で大敗し、準備のない野党が政権を担う事態が起こらないとは限らない。本稿では、そんな政治的危機に陥らないためにどうすればいいか、考えてみたい。