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自滅に向かう政治主導と「内政の司令塔」不在が招いたコロナ対策の破綻

抑えの効いた「官邸主導」と内政での「官僚主導」の再生が急務

牧原出 東京大学先端科学技術研究センター教授(政治学・行政学)

与党の結束を弱め、後継者不在を招いた政権の慢心

 まず、「政治主導がもたらす政治の劣化」について詳しく見ていく。

 政権は“生き物”である。政権交代をはたし、高揚している段階では、与党が一丸となって内外の諸課題に向き合うが、やがて慢心が生ずると、政権内や党内で徐々に分裂が生じる。

 2012年の衆院選に勝利し、民主党から政権を取り戻した自民党の安倍晋三総裁は、選挙後の記者会見でこう述べている。

 ――今回の総選挙において、全国を遊説で回りながら、国民からの期待として、この政治の混乱と停滞に一日も早く終止符を打ってもらいたい、そういうひしひしとした期待を感じました。一方、まだまだ我が党に対して、完全に信頼が戻ってきているわけではない、政治全般に対する国民の厳しい目が続いていることを実感いたしました。

 選挙で大勝しながらも、「国民の厳しい目」を意識して、野党時代の苦難を忘れずに政権チームの結束を図ったのが、初期の第2次安倍政権であった。だからこそ、国民の支持は高かったし、たとえば安保関連法でいったんは支持率を落としても、次なる課題に向き合うことで政権への支持は回復した。

拡大2012年の衆院選で当選確実になった候補者の名前に花をつける自民党の安倍晋三総裁。左は石破茂幹事長=2012年12月16日、東京・永田町の党本部

 しかし、「安倍一強」が強まり政権内に慢心が広がるなか、2017年の森友・加計学園問題以後、安倍首相自身が関係するスキャンダルが相次ぐようになると、首相と官邸は敵対する勢力に対し、野党はもとより、政府部内や与党内であっても、露骨なまでに攻撃を加えるようになった。こうした政権の対応は、与党内の結束を弱めるとともに、有力な首相後継者をも不在にした。

 実際、安倍首相には衆目が一致する後任はいなかったし、すでに問題山積の菅首相の後継と目される有力者も見当たらない。有り体に言えば、政権が行き詰まったとき、より劣化した政権が登場するしかないというのが、自公政権の現実なのである。

次第に成果が上がらなくなった安倍政権

 ここで、ふたつの問いが立てられよう。そもそも、なぜ劣化したのか。そして、なぜ劣化を立て直せないのか、である。

 まず劣化の原因だが、それは政権交代後の政権が政治主導によって課題処理に当たっているからに他ならない。

 政治主導とは、結束した与党を基盤に、官邸が中心となって政策を形成し、行政を作動させることだ。これを可能にしたのは、1994年の政治改革関連法成立と2001年の省庁再編でもたらされた、選挙の勝利によって国民の支持を顕在化させ、その力で既得権益や各省の省益を押さえ込み、独自の政策を形成する官邸の強力な権限であった。

 だが、安倍政権のもと、政治主導で進められた政策は、外交をのぞいて、次第に成果があがらなくなった。

 経済政策について言うと、確かにアベノミクスは好景気をもたらした。だが、それも2018年秋に終了していたことが明らかになり(政府の景気動向指数研究会が「景気基準日付」として「18年10月を景気の暫定的な山に認定することが妥当」と判断)、インフレ目標であった物価上昇率2%も果たせていない。

 外交については、2016年秋のアメリカ大統領選挙で勝利したドナルド・トランプ氏を就任前に訪れて首脳間の信頼関係を構築、安全保障ではインド太平洋戦略にアメリカのみならずEUの支持を得るなど、長期政権を生かして一定の成果をあげた。

 これに対し、内政分野では、新型コロナ対策に象徴されるように、安倍政権はさしたる成果を出せなかった。2012年の政権交代以来、今に至るまでの政権の宿痾(しゅくあ)と言っていい。

 政治主導で得られた成果が失われたとき、政治主導で新たな成果を求めてかなわず、政権が劣化していくプロセスは、先に述べた通りである。安倍政権もまた、そうしたプロセスをたどった。

もはや政権の劣化は止まらない

 それにしても、政権はなぜ、劣化を立て直せないだろうか。

 第一に、リーダーの不在である。

 自民党にはかつて、中興の祖とでもいうべき、政権の立て直しを果たしたリーダーがいた。自民党長期政権時代の1970年代、激しい派閥抗争後に安定政権を確立した中曽根康弘、細川護熙・非自民連立政権の成立で野党に転落後、政権に復帰した自民党を率いて省庁再編を含む六大改革を推進した橋本龍太郎、経済危機に苦しむなかで構造改革を掲げ、高支持率を誇った小泉純一郎である。

 自民党政権で閣僚を歴任、政策に通じた中曽根、橋本、政局での勘が研ぎ澄まされた小泉など、いずれもきわめて優れたリーダーであった。これに対し、2009~12年の下野後の自民党には、閣僚経験を積んで政策知識を得たり、抗争のなかで政局観を身につけたりした政治家が育っていない。

拡大記者会見をする中曽根康弘首相 =1986年12月30日、首相官邸
拡大記者会見する橋本龍太郎首相=1997年12月17日、NHKテレビから

 第二に、政治主導に政権弱体化のメカニズムが組み込まれている。

 中曽根、橋本、小泉政権の官邸の役割は、各省が主導する政策形成を最終的に方向付けるというものであった。これだと、政策が失敗しても各省や担当大臣が責任を負えばよかった。

 現在は、内閣人事局によって各省の幹部人事を官邸が左右し、官邸が主導する政策を各省が受けいれて政策が展開される。まさしく政治主導だが、いったん政策が失敗すると、その責任は官邸に跳ね返るという怖さがある。

 また、政治資金制度改革により、党幹部が政党交付金を議員に配分するようになり、所属議員にもろもろの資金を配分した派閥の影響力が格段に低下した。党幹部の影響力の拡大である。

 長期政権時代の自民党はまさしく派閥の連合体であった。政治責任はそれぞれの派閥が分有し、政権が行き詰まれば、派閥の合従連衡で多数を押さえた政治家が後任首相になればよかった。

 まとめると、かつての自民党政権は党も政府も適度にバラバラであることで、逆に長期政権を担えたのである。

 これに対し、現在の政治主導の政権では、政策失敗の非難が政権、なかんずく官邸に集まるのは避けられない。すなわち、政治改革後の政治主導を掲げる新しい政治スタイルこそが政権を弱体化させる。よほどの幸運に恵まれない限り、政権はいつかは政策でしくじり、その責任の一切を問われて崩壊するのである。

拡大記者会見する小泉純一郎首相=2005年8月8日、首相官邸で

与党も野党も頼りない時期に

 代わるべき野党がいないから、与党は安心というのは一見もっともであるが、誰の目にも与党の劣化が明らかになったとき、さすがに野党も政権奪取のための本腰を入れることになる。つまり、与党もダメであり、野党もまるで頼りないという時期が、一定期間続くのである。そして、現在、そうなりつつある。

 新型コロナが政権をさらに消耗させるならば、次の衆院選や来年の参院選の結果しだいで、統治能力に欠けたままの野党が多数の議席を得るという大番狂わせが起こらないとも限らない。それは、日本の政治・経済・社会のすべてにおいて悲劇である。

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筆者

牧原出

牧原出(まきはら・いづる) 東京大学先端科学技術研究センター教授(政治学・行政学)

1967年生まれ。東京大学法学部卒。博士(学術)。東京大学法学部助手、東北大学法学部教授、同大学院法学研究科教授を経て2013年4月から現職。主な著書に『内閣政治と「大蔵省支配」』(中央公論新社)、『権力移行』(NHK出版)など。

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