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「ロング・コヴィド」(long COVID)という後遺症に目を向けよ

めまいや脱毛、認知機能の低下など、その深刻さが十分認識されていない

塩原俊彦 高知大学准教授

 世界の潮流を探り、地政学的な視点からながめるという仕事をしながら、いま痛感するのは、日本のマスメディアの浅はかさである。新型コロナウイルス感染症(COVID-19)そのものに対する報道が不十分である点と感じるのだ。変異株で事態が悪化している程度のことはだれでも知っているのだろうが、新型コロナウイルス(SARS-CoD-2)に感染した者のその後についての報道がきちんとなされていないために、COVID-19の深刻さが十分に理解されていないと感じるのである。

 目先の感染者数の推移および医療体制の逼迫度合いばかりがクローズアップされている。もちろん、これらは重要な指標だが、すでに60万人近い人々がPCR検査で陽性となったという累積感染者の数は重い。この膨れ上がる累積感染者が今後、COVID後遺症に悩まされるという大問題を引き起こしかねないという観点から、COVID-19の恐ろしさに向き合う姿勢が足りないのではないか。

 彼らの多くが「ロング・コヴィド」(long COVID)と呼ばれる、激しい息切れ、疲労、「ブレイン・フォグ」(頭にもやがかかったようになり、集中力が失われた状態)のうちのいずれかの症状を一つないし複数かかえているという現実はあまり知られていない。こうした人々への対策にもっと目を向けるべきなのだ。この問題への関心が高まれば、若者の傍若無人な行動も少しは抑えられるかもしれないからである。

 非常事態を宣言し人流を抑え込めば、それで感染者を減らすことができ、東京五輪も開催できるといった安直な見方には大きな違和感を覚えざるをえない。おそらく少なくとも数万の人々がこのロング・コヴィドという後遺症に苦しんでいると推測される。ここでは、この問題を論じた、「研究者らはロング・コヴィドに迫る その結果は憂慮すべきものだ」というThe Economistの記事を参考にしながら、ロング・コヴィドに苦しむ人々の問題について考えてみたい。

拡大傷病名欄に「新型コロナウイルス感染後遺症」と書かれた診断書を持つ女性。脱毛を隠すため、普段はニット帽をかぶっている=2021年1月8日、東京都

感染したゼミ生の苦悩

 昨年12月9日、筆者のゼミ生から、「昨晩から熱があったため、今日の午前、病院へ行ってきました。検査をしてもらったところコロナ陽性でした」というメールをもらった。その後、数日入院した後、このゼミ生は回復した。しかし、2021年1月5日、「卒業論文の締切について相談があり、連絡しました」というメールが届く。

 「まず現状についてなのですが、コロナウイルスに感染して以降、卒業論文の進捗が芳しくありません。パソコンに向かったり、本・論文などの文字列を見ることが辛く、長時間作業をすると頭痛が起こり、集中が続かず、考えることもうまくできていないという状況です。」

 まさに、この学生はロング・コヴィドに苦しみ、卒論の提出締め切りの延期を求めてきたのである。もちろん、この要望は受け入れられた。筆者にとって身近なゼミ生の苦悩を知っているからこそ、ロング・コヴィドに苦悩する感染者のことがずっと気になっていた。

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筆者

塩原俊彦

塩原俊彦(しおばら・としひこ) 高知大学准教授

1956年生まれ。一橋大学大学院経済学研究科修士課程修了。学術博士(北海道大学)。元朝日新聞モスクワ特派員。著書に、『ロシアの軍需産業』(岩波書店)、『「軍事大国」ロシアの虚実』(同)、『パイプラインの政治経済学』(法政大学出版局)、『ウクライナ・ゲート』(社会評論社)、『ウクライナ2.0』(同)、『官僚の世界史』(同)、『探求・インターネット社会』(丸善)、『ビジネス・エシックス』(講談社)、『民意と政治の断絶はなぜ起きた』(ポプラ社)、『なぜ官僚は腐敗するのか』(潮出版社)、The Anti-Corruption Polices(Maruzen Planet)など多数。

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