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ある日突然、「外国人」と宣告され、拘留される人々

インド・アッサム州の市民権問題と、あなたにできること

木村真希子 ジュマ・ネット運営委員 津田塾大学教授

 社会課題に向き合う。どうしたら解決できるのかをともに考え、行動する――。そのきっかけとなる論考を、これまで以上に力を入れて、「論座」で公開していきたいと考えています。
 その一環として、「ソーシャル・ジャスティス基金」(SJF)のご協力のもと、連載を始めます。SJFは、社会的公正の実現を希求し、見逃されがちだが大切な課題の解決策を提案する市民の活動を、民間の力を集めて支援する基金です。SJFがともに対話の場をつくってきた団体のメンバーによる寄稿を、順次ご紹介します。コメント欄にご意見をお寄せください。

(編集部)

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 「私は2009年に、いきなりやってきた警察に『不法侵入した外国人だ』と言われて逮捕され、そのまま10年間拘留されました。3人の子どもと夫がいましたが、夫はこのことがショックで病気になり、私が釈放される数か月前に亡くなりました。一体、どうしてこのようなことが起きるのでしょう。」

 これはインド北東部アッサム州のある村における、40代の女性の訴えである。

 生まれ育った国で、ある日突然、「外国人」にされてしまう……。もしもそんな立場に追い込まれたら、あなたはどう感じるだろうか。日本で暮らす私たちには、無縁のできごとなのだろうか。

190万人が「市民」として登録されなかった

 アッサムでは不法移民(主にバングラデシュ)への反感が強く、2013年から「全国市民登録簿」を更新し、外国人を摘発するための基盤を作ろうとしている。2019年にその更新版の名簿が公開されたが、登録申請をした3300万人のうち、190万人が名簿から漏れており、登録されなかった人たちは排斥に直面するのではという危機感を持っている。

インド・アッサム州とその周辺(Google Mapから)拡大インド・アッサム州とその周辺(Google Mapから)
 アッサム州は、イギリスの植民地だった時代に茶園の開発と、隣接するベンガル地域からの移住が進み、1947年のインド独立の段階で、人口の約35~40%が植民地になったあと州外から移住した「よそもの」とみなされる人々であった。その中でも、ベンガル出自のイスラーム教徒(ムスリム)は、イスラーム教徒が多数のバングラデシュ(植民地時代はインドの東ベンガル地域)出身の「外国人」とみなされ、嫌がらせを受ける被害が数多く報告されてきた。特に、アッサム州西部と中部には旧東ベンガルからの移住者が多く、反移民感情が高揚した際には暴力の標的となってきた。

 2019年8月の名簿公開以降、アッサム州には全国市民登録簿に名前が掲載されず、今後どのような扱いを受けるのか、不安を抱える人が多く存在している。また、今までに「外国人」という疑いをかけられ、外国人審判所で「外国人」と認定された人々も多く存在する。こうした人々の多くはインド生まれなのだが、認定後に外国人拘留センターで無期限に拘留されてきた。拘置所は刑務所と同じ敷地内にあり、劣悪な環境で食糧も不十分である。心身ともに病み、拘留後に亡くなる人が後を絶たない。

 筆者は2020年2月末、コロナ禍で海外渡航ができなくなる直前に、アッサム州の西部地域で「ある日突然、外国人と宣告される」ことを恐れる人々のもとを訪れ、話を聞いた。さらに日本の支援団体とつなぎ、市民権問題の影響を受けることが多い河川地域のムスリムの人々への支援が始まった。


筆者

木村真希子

木村真希子(きむら・まきこ) ジュマ・ネット運営委員 津田塾大学教授

 横浜生まれ。インド北東部の民族問題に関心を持ち、2001年よりインドのジャワーハルラール・ネルー大学に留学。研究を進める傍ら、日本やアジアの先住民族支援の活動に携わる。主著『終わりなき暴力とエスニック紛争――インド北東部の国内避難民』(慶應義塾大学出版会、2021年)。現在、津田塾大学学芸学部多文化・国際協力学科教授、先住民族の権利を支援する国連NGO「市民外交センター」共同代表、ジュマ・ネット運営委員。

※プロフィールは、論座に執筆した当時のものです