「競争性」を欠く日本政治と野党の責任~メルケル後を競うドイツとの違いは
政権の形、政策の中身、首相の人選で選択肢があるドイツの政治風土・文化から学ぶこと
曽我豪 朝日新聞編集委員(政治担当)
隣の芝生は青く見えるのは世の習いとはいえ、やはりうらやましくはある。我らが日本と同様、この秋に総選挙を控えるドイツのことだ。
党派も世代も性別も多様な3人の首相候補
16年の長きに及んだメルケル政権の後を争う首相候補は、党派も世代も性別も多様な3人が並び立った。大連立を組む与党はメルケル首相の所属する中道右派のキリスト教民主同盟(CDU)がラシェット党首(60)を、左派の社会民主党(SPD)がショルツ財務相(62)をそれぞれ擁し、野党は緑の党が女性のベアボック共同党首(40)を結党以来初の首相候補に押し立てる。

ドイツのメルケル首相=2021年1月、ベルリン

ドイツ・緑の党のベアボック共同党首=2020年2月
対決構図はわかりやすい。政治キャリアに秀でつつもカリスマ性に欠ける60代の男性の二人と、ほぼ20歳若く党の外交・安全保障アドバイザーの経歴を持ち、2人の子供を育てる女性との闘いだ。コロナ禍対策をはじめ現政権に共同責任を負う伝統的な左右両派の政党と、現政権に対峙し環境問題で先駆けて来た政党との争いでもある。
世論調査では緑の党が一番人気に迫る勢いと伝えられるが、おそらく日本ならかつての小池百合子東京都知事率いる希望の党の時のように、メディアが「女性党首旋風」などと騒ぎ立てるのではあるまいか。
ただ、うらやましいのは、そんな表面的な清新さではない。

キリスト教民主同盟(CDU)のラシェット党首=2020年2月

ドイツ社会民主党のショルツ氏=2019年11月
ベアボック氏が支持率で首位に
4月のロイター電によると、ドイツの週刊誌が企業経営者1500人に対して行った調査で、支持率はラシェット、ショルツ両氏が10%台だったのに対して、ベアボック氏が26.5%で首位に立ったという。教育やデジタル、環境関連事業への投資に重点を置く点が理由に挙げられたが、政権担当能力への信頼感と現実を無視した極端な変化はもたらすまいとの安心感がなければ、そんな数字になってはいまい。
緑の党は1979年の結党直後こそ新左翼色が濃く「何でも禁じる党」と揶揄(やゆ)されたが、1998年から2005年まで社会民主党との連立政権に参加し、副首相兼外相や保健相、環境相など要職を担った。現在もドイツで16州のうち11州で連立政権の一翼を担う。
外交や国防、貿易に関する政策を巡る党内の意見の相違は、「まわりくどい難しい表現で覆い隠している」一方で、ベアボック氏らは経済界と関係を築こうとしてきており、公約案でも気候変動への取り組み強化から増税を原資とした公共投資の実施など、「従来の政権とは異なる政策案であふれている」という(5月4日付け日経朝刊 英エコノミスト誌記事の翻訳)。
そこで、緑の党が総選挙で躍進すれば何が起きるか。過半数に至らずとも、多数派を形成するために、左右両派が「ベアボック首相」を前提にして連立工作を競う展開も予想される。当然、政策協議が長期・複雑化する可能性もあるだろう。