松下秀雄(まつした・ひでお) 朝日新聞山口総局長・前「論座」編集長
1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員、編集委員を経て、2020年4月から言論サイト「論座」副編集長、10月から編集長。22年9月から山口総局長。女性や若者、様々なマイノリティーの政治参加や、憲法、憲法改正国民投票などに関心をもち、取材・執筆している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
選別を止め、生きられる社会をつくるために声を上げるふたりの訴え
新型コロナウイルスの感染者が増え、医療崩壊の危機に瀕しています。だれかの命を救うために、だれかの命を諦める……。そんな「命の選別」が進むことを危惧する古賀典夫さんと鷹林茂男さんにインタビューしました。視覚障がいがあるふたりは、コロナ禍のもとで障がい者や高齢者の命が軽視されていると指摘し、そんな流れを止めるために声を上げています。
古賀典夫(こが・のりお) 1959年生まれ。全盲、あんま鍼灸師。身体や精神に障がいのある人や難病患者らによる「『骨格提言』の完全実現を求める大フォーラム実行委員会」副委員長。「怒っているぞ! 障害者きりすて! 全国ネットワーク」世話人。
鷹林茂男(たかばやし・しげお) 1952年生まれ。全盲、あんま鍼灸師。「『骨格提言』の完全実現を求める大フォーラム実行委員会」と「怒っているぞ! 障害者きりすて! 全国ネットワーク」のメンバー。
松下)おふたりは、医療が逼迫するなかで命の選別が進むことを懸念し、自治体に抗議したり、話し合いを求めたりしています。いったいいま、何が起きているのでしょうか。
古賀)新型コロナウイルスの感染によって、多くの人々の命が危険にさらされていますが、とりわけ高齢者施設、障がい者施設、精神科病院に入院・入所している人々は危険な状況にあります。
たとえば、北海道の高齢者施設で昨年、クラスターが発生し、救急搬送を求めても保健所に断られ、施設内でなくなる方が相次ぎました。栃木県の障がい者施設でもクラスターが起き、同じように施設内でなくなったと報じられています。
【注】 札幌市の介護老人保健施設「茨戸アカシアハイツ」では昨年春、入所者と職員あわせて92人が感染し、入所者17人が死亡。このうち12人が施設内でなくなった。栃木県佐野市の知的障がい者施設「とちのみ学園」では今年1月、53人が感染し、入所者2人がなくなった。ともに入院がかなわなかったことや、感染した人と、していない人が利用する区域をわけて接触を防ぐのが難しかったことなどが指摘されている。
また、私立の精神科病院の団体である日本精神科病院協会が、会員の病院にアンケートを実施したところ、感染した人の6割以上が治療のため転院することができなかったと報道されています。回答の中には、保健所から「繰り返し転院を依頼されても困る」「貴院でおみとりしていただきたい」と言われたというものもありました。
そして、精神科病院で感染した人の割合は、全国で感染した人の割合の約4倍、死亡した人の割合も約4倍に及ぶという試算もあります。