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コロナ禍のもとで障がい者、高齢者の命が軽視され、「命の選別」が進んでいる

選別を止め、生きられる社会をつくるために声を上げるふたりの訴え

松下秀雄 「論座」編集長

治療を望むか? 「意思確認」を求める行政

 松下)「命の選別」は、どのように進められているのでしょうか。

 古賀)大阪府の医療監が4月19日、各保健所あてに「年齢が高い方は入院の優先順位を下げざるを得ない」と記したメールを送ったことが明らかになりました。大阪府はこれを撤回し、謝罪しましたが、救う命と救わない命をふるい分ける動きは確実に進んでいます。そこで使われているのが「DNAR」(do not attempt resuscitation)という言葉です。

 日本救急医学会の医学用語解説集によると、DNARとは、患者本人または代理者の意思決定をうけて心肺蘇生法をおこなわないこと。つまり心肺停止した人に心臓マッサージや人工呼吸を施さないというのが本来の意味のはずです。

 しかし、神奈川県川崎市が1月22日付で出した通知には、高齢者や障がい者施設などで陽性者が出た場合、「DNAR(延命処置・人工呼吸器装着希望の有無)を必ず確認すること」と書かれていました。これはDNARを拡大解釈し、心肺停止状態でなくても、人工呼吸器やECMO(体外式膜型人工肺)を使った救命治療を施さないことがありうるといっているのです。

川崎市の「蔓延期における高齢者・障害者等施設内陽性者の入院対応について(協力要請)」から抜粋拡大川崎市の「蔓延期における高齢者・障害者等施設内陽性者の入院対応について(協力要請)」から抜粋

「尊厳死」のための事前指示と同じことに

 私たちは3月30日に川崎市を訪ねて担当者と面会し、公開質問状も提出しました。川崎市によれば、1月22日付の通知は2月に解除されましたが、それとは別に、高齢者、障がい者、あるいは障がい児の施設に対して、入所者がDNARを希望しているかどうかがわかる一覧表をつくるようお願いしているということでした。

 【注】 川崎市は公開質問状に対する4月20日付の回答の中で、「限りある病床や医療スタッフを最大限有効活用することを唯一最大の目的として、延命措置や人工呼吸器装着の希望の有無の確認を依頼した」「事前に希望の有無が確認できれば、望まない方に望まない治療を施すことがなくなる」「延命措置等を希望しない方については、概ね人工呼吸器管理を行わない病床に受け入れていただきました」などと説明した。
 施設での事前確認が難しい場合には、市の医療調整本部や医療機関で確認しており、「老若男女、障害の有無、施設・在宅の別に関わらず、すべての陽性患者に同様の対応を行わざるを得ない状態でありました」としている。

 

古賀典夫さん拡大古賀典夫さん
松下)こうした動きは、各地で進んでいるのでしょうか。

 古賀)そうだと思います。東京都八王子市が昨年12月18日付で、医療機関や高齢者施設などにあてた通知でも、「患者がDNARを希望されている場合、自院、自施設内で介護、看護し続けていただかざるを得ないケースが出てきました」として、準備を進めるよう求めています。

 これらは結局、本人や家族の意思を理由に、救う命と救わない命をふるい分けているということにほかなりません。それではDNARが「尊厳死」のための事前指示と同じものになってしまいます。

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筆者

松下秀雄

松下秀雄(まつした・ひでお) 「論座」編集長

1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員、編集委員を経て、2020年4月から言論サイト「論座」副編集長、10月から編集長。女性や若者、様々なマイノリティーの政治参加や、憲法、憲法改正国民投票などに関心をもち、取材・執筆している。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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