松下秀雄(まつした・ひでお) 「論座」編集長
1964年、大阪生まれ。89年、朝日新聞社に入社。政治部で首相官邸、与党、野党、外務省、財務省などを担当し、デスクや論説委員、編集委員を経て、2020年4月から言論サイト「論座」副編集長、10月から編集長。女性や若者、様々なマイノリティーの政治参加や、憲法、憲法改正国民投票などに関心をもち、取材・執筆している。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
選別を止め、生きられる社会をつくるために声を上げるふたりの訴え
古賀)年齢や持病、障がいの有無のような属性によって命を選別するのは、広い意味での優生政策だと思います。
優生政策は「不良な子孫が生まれるのを防ぐ」とか、生まれる時の話として語られてきましたが、ナチスは「断種」に加えて「安楽死」と称して殺害することにまで手を染め、これも優生政策と呼ばれました。妄想で終わることを祈りますが、障がい児施設にまでDNARを確認させようとする現状をみると、社会がもう一回転、悪い方向に進んだ時に、どんなことが起こるのか。嫌な感覚をもちますね。
【注】 ヒトラーは、治る見込みのない患者を殺害する権限を、指定された医師たちに与えるという命令を発出。この「T4作戦」で、精神や身体に障がいのある人や病人などが「生きるに値しない命」とみなされ、ガス室などで殺された。殺害の対象はさらに広がり、ユダヤ人やロマ人、同性愛者など様々な人たちに対する虐殺につながった。
【注】 田中良・杉並区長は3月5日の区議会予算特別委員会で、「私の問題提起が優生思想を内包しているというように、一方的に決めつけて、レッテルを貼って批判するのは違う。私の考えはそれとは違う」と答弁した。
松下)杉並区長は文春オンラインのインタビューで、「特に高齢者の場合、どこまで『治療』してほしいのか、あらかじめ意思を示しておきたい人がいるかもしれません」ともいっています。でも、「意思」はそう簡単には定まらない。その人の耳にどんな情報が入るかによっても、「意思」が変わりそうな気がします。
古賀)区長は3月5日の区議会で、朝日新聞の記事を引用しながら、人工呼吸器や胃ろうで挿管するのは患者さんに苦痛を与える、といっていました。記事にも、人工呼吸器をつけるために気管を切開すれば話せなくなると書いてある。だけど、コロナ感染の場合は一時的なものですから、もう一回縫い合わせれば声は出るんです。マイナスイメージを与える報道も、患者さんが治療を選択しない方向に導いてしまう可能性があるので、気をつけていただかなきゃいけない。
「尊厳死」を推進する人はよく、「人工呼吸器をつけたり、胃ろうをしたりするのは苦しい」という言い方をします。でも、そうやって生活している障がい者はけっこういる。人工呼吸器をつけて「学校に行きたい」といっている障がい児もいるし、胃ろうで体力が回復したらまた口から
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