長期的戦略がなく昭和型政治が続く日本。教育に注力、地方ビジョンを示す新たな政治を
2021年05月28日
新型コロナによって、日本の社会が抱えてきた根の深い課題があらわになっています。それは、不平等や雇用、女性などの社会問題、ITやデジタルディバイドといった社会基盤にかかわる問題、危機管理や民主主義のあり方をめぐる問題など、多岐にわたります。
こうした現実を前に、政治は何をするべきか。政治家は克服する道を示すことができるのか。「論座」では、政治の当事者である政治家とともに、課題解決を視野に「論考」を展開することにしました。今回は国民民主党の4人の議員、玉木雄一郎さん、前原誠司さん、大塚耕平さん、舟山康江さんに、継続的に寄稿をお願いします。
それに先立ち、今の政治をどう見るか、どんな課題に着目し、社会をどう変えていきたいかなど、座談会で語っていただきました。(司会 論座編集部・吉田貴文)
玉木雄一郎(たまき・ゆういちろう)
1969年香川県生まれ。東京大学法学部卒業、ハーバード大学大学院修了。1993年大蔵省入省。外務省などを経て、2009年衆院選で初当選、4期目。現在、国民民主党代表。著書に『令和ニッポン改造論』(毎日新聞出版)、『#日本ヤバイ』(文藝春秋)
前原誠司(まえはら・せいじ)
1962年京都府生まれ、京都大学法学部卒業。(財)松下政経塾入塾、京都府議を経て1993年衆院選で初当選、9期目。民主党代表、国土交通相、外相、国家戦略担当相、経済財政政策担当相、民進党代表などを歴任。現在、国民民主党代表代行 兼 安全保障調査会長
大塚耕平(おおつか・こうへい)
1959年愛知県生まれ。早稲田大学政経学部卒業。日本銀行入行、在職中に早稲田大学大学院博士課程修了。2001年参院選で初当選。4期目。内閣府副大臣、厚生労働副大臣を歴任。現在、参院国家基本政策委員長、国民民主党代表代行、経済調査会長、税調会長。
舟山康江(ふなやま・やすえ)
1966年埼玉県生まれ。北海道大学農学部卒業。農林水産省に入省。2007年の参院選で初当選(山形県選出)。2期目。農林水産大臣政務官、参議院国会対策委員長などを歴任。現在、国民民主党政務調査会長、農林水産調査会長。
――新型コロナウイルス感染症、マイナス成長の経済への対応など様々な課題が押し寄せ、支持率の低下が目立つ菅義偉政権ですが、野党の議員として現状をどう見ていますか。
玉木 昨年から1年以上、コロナへの対応に追われているわけですが、菅政権だけの問題ではなく、日本政治の有事対応の弱さが露呈しています。
一つは「司令塔」の不在です。菅政権は縦割り行政の打破を掲げていましたが、コロナ対策も担当大臣が複数いて縦割りで進められる。そのため優先順位がつけられず、対応が後手後手になっています。もう一つは、財政当局が財政赤字にこだわるあまり、対策が小出し、後出しになっている点です。緊急事態宣言下の支援策もいかにも中途半端です。
要するに、平時の感覚のまま有事対応をしているわけです。これは日本のシステム全体の問題だということも真摯(しんし)に見つめ、改めるべきところは改めていかないといけません。
前原 菅首相にトップリーダーとしての覚悟が感じられないのが、一番の問題だと思います。記者会見も原稿の棒読みで、国民の窮状を理解し、乗り越えていこうという覚悟が伝わらない。ワクチン接種の遅れに不満はあるけど、この人がいうなら仕方がない、みんなで力を合わせてがんばろうということになっていない。リーダーが本当に国民のことを思っているかどうかを、危機の時には国民は肌身で感じるものです。
菅政権の支持率が下がり、不支持率が上がっているのは国民の不安の裏返しだと思います。ワクチン接種がある程度いき渡れば、支持率はまた動くでしょう。
柔軟性のなさも菅さんの特徴です。学術会議の問題も、一回ダメだと言えばどんなに状況がかわってもこだわり続ける。カーボンニュートラルにしても、これ一本やりではなく、地球環境の持続的な維持という観点から他の面も考えないといけません。カーボンニュートラルという枕詞をつければ何でも通るというのも、柔軟性のなさのように見えます。
大塚 旧国民民主党のころから、私たちは「正直な政治」「偏らない政治」「現実的な政治」の三つが日本に欠けていると申し上げきました。安倍晋三政権とそれを引き継いだ菅政権にも、その三つが欠けています。
菅さんは「陶酔」と「錯覚」の政治に陥っています。つまり、安倍政権で官邸主導政治がうまく機能したという「陶酔」と「錯覚」。思い込みと言ってもいいでしょう。自分は官房長官としてそれを差配した。だから、首相としてうまくやれるという思い込みです。しかし、安倍政権は大きな危機は経験しておらず、結果論として、平時においてすら課題をあまり解決できなかったと言えます。
官邸の人事圧力政治のもと、官僚はすっかり疲弊し、提案力もなければ、苦言を呈する力もない組織になってしまった。そのため、オールジャパンの叡智を集約できず、コロナという大問題にも対処できていないのが現状です。
――官邸、官僚、国会などをひっくるめた統治機構の劣化も、コロナ禍を機に一気に露呈した印象です。平成の30年間、政治や行政、司法などの諸改革を通じて昭和型の政治を超克しようとしたはずですが、どうしてそうなってしまったのでしょうか。
舟山 平成2年に農林水産省に入り10年間、官僚として働きました。当時も長時間残業でしたが、少なくとも私も周囲も、肉体的には疲れても、いい政策をつくりたいと、精神的には前向きに仕事ができたと思っています。
官僚の疲弊という話がでましたが、内閣人事局の間違った運用というのか、官邸に都合のいい発言をする人しか出世できない、自由に議論もできず、指示待ちになる。そういったことが官僚の疲弊につながっていると思います。
統治機構について言えば、国会も問題が多い。形式的な審議に終始し、委員会でいい意見がでても、ほとんど修正にまで至りません。議論で出たいい意見を法案に反映させる柔軟性がもっと必要です。
衆参の二院制の中で、参院のあり方も再考するべきです。衆議院は人口比例で選出するにしても、参議院は別の視点の選び方、たとえば地域代表的なものがあってもいい。地方回帰、あるいは地域資源の活用による再生可能エネルギー推進の動きをみても、地方の声を反映する選挙制度が必要だと思います。
結局、バブルは崩壊。ITバブルなどで1997年まで平均所得は上がり続けますが、そこから下がり放し。また、競争力強化するための新たな投資、特に人的投資は30年前と変わりません。大蔵省や財務省が、日本はこの分野で競争力をつけるという戦略を持たずに予算をつくった結果、国際競争力も企業の収益力も下落しました。日本のお家業だった半導体の現在の惨状は象徴的です。
一番の問題は、国家の意志を集約するシステムがなかったことです。小泉純一郎政権では、経済財政諮問会議が財務省にかわって国家戦略や予算編成を主導しましたが、こうした国家意思を考える仕組みを持つことは大事です。その後、財務省が再び予算編成の主導権を握り、メリハリのない予算になったツケが今、回されています。
大塚 昭和末期の1983(昭和58)年に日銀に入って以来、日銀マン、政治家として活動してきましたが、その経験から平成政治について二つの点を感じています。
第一に、「平成」とは結局「昭和の第二幕に終わった」ということです。
ところが、安倍首相が再登板した8年間に、ものすごい勢いで先祖返りした。しかも、「官邸主導」を悪い方向で使ったため、「昭和第二幕」は「第一幕」より昭和型が抱える問題を深刻化させました。
第二に、では平成で昭和の何を変えないといけなかったのか。
高度成長型の昭和の成功が永遠に続かないことは皆、感じていました。僕は日銀に前川春雄総裁の時に入り、速水優総裁の時に辞めていますが、前川さんは「前川リポート」で日本経済を内需主導型に変えるべきだと提言、速水さんは著書『海図なき航海』で円の基軸通貨化を主張しました。先人たちは昭和の限界や構造問題を分かっていた。それをなんとかしようというのが平成でした。
にもかかわらず、平成の最後に「昭和第二幕」をやってしまった。その結果、日本はすっかり凋落(ちょうらく)した。日銀で半導体の産業調査を担当していた時期がありますが、90年代前半には世界の半導体の5割以上を日本でつくっていたことを思うと、現在の凋落ぶりはゾッとします。
昭和型から脱却できなかったツケがここまで回ってきた現状は、首相官邸の数人の力、特定の取り巻きの力でなんとかできるほど生やさしいものではありません。与野党関係なく、叡智(えいち)を結集して対応しないと克服できない。
令和で新しい時代に踏み出せるのか、「昭和第三幕」をやってしまうのか。昭和第三幕となれば、日本はいよいよ三流国に転落するでしょう。
政治家は選挙があるので仕方がないとすれば、選挙のない役人が先を見据えた計画をかつては考えていましたが、今はそれもない。仮にあったとしても各省バラバラの中長期計画にとどまり、国家全体としての整合性がとれていない。コロナについていうと、国産ワクチンを開発する能力がなかったというのも、中長期的戦略を欠き、科学技術への投資が犠牲にされてきた表れでしょう。
これは反省も含めてになりますが、国家戦略といった大きなテーマは、党首討論で議論するはずだったのに国会がそれをできていませんでした。大臣以外に、副大臣、政務官を設けたのも、国会で政治家同士が丁々発止議論しようということだったのですが、今はそこから遠くなっている。むしろ、国対政治が前面に出て……。
大塚 ひと言、口を挟みます。与野党とも「昭和第二幕」をやってしまった人たちが今も国会を牛耳っているから問題なんです(笑)。
玉木 与党と野党第一党の国対のプロセスは議事録に残りません。後の時代の検証に耐えられない場で、極めて重要なことが決まっていく。今の時代の物事の決め方としてどうなのか、非常に危機感を持ちます。
――日本がかつての力を失うなか、野党はどういう役割をはたさないといけないのでしょうか。
前原 1993年に日本新党から国会議員に当選しましたが、細川護熙さんが日本新党の結党宣言でうたったのは新しい保守政治という流れでした。昭和のカネまみれの政治にからめ取られた自民党にかわる保守政治の旗を掲げ、改革を進めようというのが日本新党であり、その流れを受けて旧社会党、元自民党の方も巻き込んで政権交代を目指してつくられたのが民主党だったと、私は思っています。
民主党政権が終わって8年以上がたちますが、野党はまだ四分五裂の状態です。ただ、どういう道筋であれ、野党を収斂(しゅうれん)する方向にいかなければいけないのは間違いない。
日本人は保守の匂いが好きなのです。いわゆる土着、共同体、地域。それを代弁してきたのが自民党です。いい意味で人の匂いや汗の香り、現実的な判断といったものを持つ新たな勢力を糾合することが大事です。われわれはまだ数は少ないですが、その中核になるという意志をもって力を合わせていきたいと思っています。
大塚 細川さんを首班に非自民連立の細川政権が誕生したのを僕は日銀で見ていました。民主党政権は党の一員として経験しました。細川政権は多党内閣。民主党政権は基本的には二大政党制のもとでの政権交代。では、次に目指す政権交代の形は何なのか。
考えなければならないのは、今や、かつてと違って日本が無条件に先進国であるという状態ではないこと。「昭和第二幕」をやったために、課題が噴出していることです。叡智を結集しないと世界と伍してやっていけない中、自分たちの手勢だけで対応できる政党は、自民党も含めて一つもありません。「大連立」と言うのはあまりにもおこがましいですが、叡智を結集するための与野党連立、今まで想定していなかったような政権の姿も追求しなければ対処できないと思います。
建国100年で世界の覇権を取り戻すという中国の「China 2049」ではないですが、日本も「Japan 2045」を掲げてはどうかと考えています。敗戦から100年後に日本は本当に立ち直れているか。バブルの頃に敗戦から立ち直ったと思っていたら、「昭和第二幕」をやってしまい、奈落に落ちる寸前です。「昭和第三幕」にならないように、ネジを巻き直して改革すれば、2045年にはまだ間に合う。そのためには、常識の範疇(はんちゅう)で考え得るような政界の動きでは、たぶん無理だろうと思います。
なんとなく漠然と自民党イコール保守と思っている方が多いようですが、無防備に進める規制緩和や自由化による農業の衰退という実態をみると、最近の自民党はむしろ保守とは逆の方向の政治をしていることを訴えていかないといけないとも思います。保守を自認する人がなんとなく自民党に流れているけど、待ってください、今の自民党は保守じゃないですよ、と。
日本は世界のトップランナーだと勘違いしている人が多いですが、実はそうではない。日本の置かれた現実に目を向け、それを招いた自民党的なやり方に対して、きちんと行政監視をしておかしい点は指摘しつつ、次の解を提案するのが野党の仕事だし、そういう意味で議論から逃げてはいけない。土の匂いのする政党、汗のにおいのする政党を目指し、現実を見つめ、議論をして、理想を語っていくような提言ができればなと思っています。
与党は目の前のことに手一杯で、少し先のことが見えにくくなっている。だからこそ、おかしい点は厳しく指摘するとともに、少し先に想定されることを先取りして提案して実現していく。昨年3月、コロナの感染拡大直後にわれわれが提案した「10万円の一律現金給付」はその好例です。「政策先導型」とこの1月から呼んでいますが、この立ち位置が今の野党に必要です。
衆議院に小選挙区制度が導入されてから、どの政党も単独では政権をとれていません。大なり小なり連立政権です。価値観の多様化が進み、日本が総力をあげて国際競争力を持たないといけない状況では、この傾向はますます強まるはずです。
連立政権では、いわゆる「要(かなめ)政党」、英語で言えば pivotal partyが重要になります。1990年代の連立政権、たとえば村山富市政権では新党さきがけがその役割を果たしましたが、時代が回って今こそ「要政党」が求められているのではないか。大事なのは、どういう価値を「要」の中心に置くかです。
ひとつは現実的な安全保障政策です。中国が経済力、軍事力を付けるなか、日本が外交・安保で現実的にどのように対応すべきかを、野党も提示する必要がある。もう一つは、地方をどうするか。人口減少は激しいし、農地は荒れ放題。地方の再生なくして日本の再生はないと私は考えます。
そこで考えているのが「21世紀の田園都市国家構想」です。IT技術や再生可能エネルギーを組み込み、地域で頑張っている人に寄り添っていく。土の匂いのする政治を目指したい。地方問題の解決策は、どの党もまだ明確なビジョンを示していない。国民民主党は一次産業の再生も含め、提案していく「要」の政党になりたいですね。
――これから秋までに必ず衆院選があります。こういう課題を訴えたいということがあれば、最後にお願いします。
具体的には、農業を中心に地域を築き、食の安全を守り、地球環境問題にも貢献する。与党がなお脱却できない「大きいことはいいことだ」型の農政からの転換をやっていきたいです。
社会のデジタル化も進めなくてはいけません。友人がデンマークにいるのですが、デジタル化が進んでいて、コロナ検査もスマホと保険証をもっていくとすぐできて、陰性だとどこにでも行けます。マイナンバーもうまく使って、デジタルを活用する社会をつくりたい。ただ、一方で、教育現場でデジタルがどこまで使えるのか。メリット、デメリットを踏まえ、未来を担う子どもたちの成長に何がいいのかということもしっかり議論したいと思います。
前原 ふたつ申し上げたいと思います。明治維新で日本は幕藩体制から中央集権になり、国を守るため富国強兵を進めた。当時の日本は世界情勢にうまくキャッチアップできたのですが、背景には江戸時代に各藩で藩校や寺子屋での教育が行われ、基礎作りがしっかりしていたことがあると思います。
ところが、今の日本は、対GDPの教育支出比率が先進国の最低レベル。人づくりこそが国づくりであるにもかかわらず、そこを怠ってきたことが、凋落を招いたと思います。人づくりをやり直す、教育国債を発行してでも教育に注力することが大事です。
もう一つは、自分の国を自分で守るということです。日米安保は現状においては大事ですが、すべてアメリカにおんぶに抱っこでいいのか。赤坂の真ん中に米軍基地がある。首都の上空の空域が今でも日本の自由に使えない。こうした状態が今なお続いているのは、自分の国を自分で守るということをこれまでしてこなかったからです。防衛だけではない。エネルギー、食糧を含め、国を守るための態勢をつくることが大事だと思います。
大塚 専門の経済に引きつけていうと、「豊かさを感じられる経済」をつくることです。単にGDPや企業収益を上げるのではない、コロナ後をにらみつつ、本当の豊かさを感じられる経済を復元していく。短期的には再分配をきちんとやる。中期的には技術力をつける。長期的にはそれを支える教育、人材育成、そういうことだと思います。
最終的に目指したいのは、冒頭で述べた「正直な政治」「偏らない政治」「現実的な政治」。それを実現することで、豊かさと進歩と平和を追求していきます。
玉木 税金の使いみちを未来に向けた投資へと流れを変えたい。平成の30年間で国家予算全体は1.7倍になりました。年金・医療・介護の社会保障は3.3倍なのに対し、教育・科学技術は横ばいです。高齢者が大切なのはもちろんですが、これだと未来への発展の芽が生まれません。
これから20年、高齢者は増え続けるので、政治が何もしなければ、何かを削って高齢者世代にお金を回すことになります。教育や科学技術は未来への投資経費だと明確に位置づけ、国債を発行してでもやるべきです。その部分に強い需要を作り出せば、研究開発への投資が進むし、人材も生まれます。その結果、労働市場がタイトになれば、賃金も上がるでしょう。
供給を上回る需要を一時的に作り出してでも、とりわけ未来への投資の分野では、積極的に需要をつくり、これまで染みついた投資のやり方、経済学でいうところの「負の履歴効果」をいったん払拭(ふっしょく)しないと、日本はだらだらと衰退の道をたどります。教育国債を発行してでも、教育や科学技術への投資はぜひ、やりたいです。
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