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朝日新聞出版、毎日新聞の「架空予約」報道は「悪質な妨害愉快犯」なのか?

自衛隊に無茶なシステム開発・運営を押し付けたために生じた失態

米山隆一 衆議院議員・弁護士・医学博士

「架空予約」報道は犯罪に該当するか?

 もちろん、これはこれで仕様の追加ではあるので、当然のことながら工数は増えるでしょうが、そもそも菅総理の発表からわずか1カ月弱でシステム全体が完成しており、追加仕様もどう見てもたいした工数とも思えないので、完成までの期間が1、2週間伸びる事があっても、3カ月も4カ月も伸びるという事ではないと思われます。

 システムの運用をスムーズにし、現場の混乱や悪用を防ぐためにこの程度の仕様を入れておくのが、IT技術というものなのであって、そういった工夫(というほどでもないですが)をほとんど一切していないのは、防衛省の失態と言うほかはなく、これを報道するのは当然であると私は思います。

 ところがこれに対して、それこそ安倍元総理の「朝日、毎日は極めて悪質な妨害愉快犯」に始まって、主にSNS上で「犯罪に該当するのではないか」という意見も出ていますので、この点について検討します。

 まず条文上、今回の「報道目的の検証ログイン」が該当しそうな犯罪は、不正アクセス禁止法、電磁的記録不正作出罪、偽計業務妨害罪の三つだと思われます。以下、詳しく見ていきます。

(A)不正アクセス禁止法
不正アクセス行為の禁止等に関する法律(通称「不正アクセス禁止法」)
第2条
第2項 この法律において「識別符号」とは、特定電子計算機の特定利用をすることについて当該特定利用に係るアクセス管理者の許諾を得た者(以下「利用権者」という。)及び当該アクセス管理者(以下この項において「利用権者等」という。)に、当該アクセス管理者において当該利用権者等を他の利用権者等と区別して識別することができるように付される符号であって、次のいずれかに該当するもの又は次のいずれかに該当する符号とその他の符号を組み合わせたものをいう。
第4項 この法律において「不正アクセス行為」とは、次の各号のいずれかに該当する行為をいう。
①アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能に係る他人の識別符号を入力して当該特定電子計算機を作動させ、当該アクセス制御機能により制限されている特定利用をし得る状態にさせる行為(当該アクセス制御機能を付加したアクセス管理者がするもの及び当該アクセス管理者又は当該識別符号に係る利用権者の承諾を得てするものを除く。)
第3条 何人も、不正アクセス行為をしてはならない。
第11条 第3条の規定に違反した者は、三年以下の懲役又は百万円以下の罰金に処する。
(B)電磁的記録不正作出罪
刑法
第161条の2
人の事務処理を誤らせる目的で、その事務処理の用に供する権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
(C)偽計業務妨害罪
刑法
第233条
第1項 虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、人の信用を毀損し、又はその業務を妨害した者は、三年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

不正アクセス禁止法違反には該当せず 

 まず(A)不正アクセス禁止法ですが、これは、「不正アクセス行為」すなわち、「アクセス制御機能を有する特定電子計算機に電気通信回線を通じて当該アクセス制御機能に係る他人の識別符号(ID・パスワードなど)を入力」する事などが要件なのですが、上述の通りワクチン大規模接種東京センターの予約システムは、最初から「アクセス制御機能」をまったく有しておらず、識別符号(ID・パスワードなど)の入力を要しませんので、該当しません。

電磁的記録不正作出罪・偽計業務妨害罪には該当せず、が常識的解釈

 次に(B)電磁的記録不正作出罪で、こちらは一見すれば条文に該当しうるようにも見えます。

 しかし、例えば、
「窃盗罪・刑法第235条 他人の財物を窃取した者は、窃盗の罪とし、十年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する」
において、条文を見る限り、友人の部屋に行ってティッシュ1枚を黙って使うことは形式的には窃盗罪に該当しうるけれど、事情(そもそも友人はティッシュの無断使用を暗黙の裡に許諾しており「窃取」といえない)や、程度(ティッシュ1枚は財物の価値としてあまりに低く「財物」と言い難い)に鑑み違法行為とされる事はないように、あらゆる犯罪は、「事情」や「程度」などを考慮した「事実認定」の解釈次第で成否が異なります。

 判例があるわけではないので断定はできませんが、今回の様に検証目的で架空の予約をし、ただちにキャンセルした場合、「人の事務処理を誤らせる目的」があったと認定することは困難でしょう。

 また、検証目的で一時的にできた(そしてすぐキャンセルして消された)予約情報を「権利、義務又は事実証明に関する電磁的記録を不正に作った」というのも困難で、電磁的記録不正作出罪にも該当しないとするのが、常識的解釈だと考えられます。

 最後の(C)偽計業務妨害罪は条文が漠然としているので、実は最も該当しうる可能性が高いと思われ、SNS上の議論でも比較的多く取り上げられています。しかし、架空の接種券番号の入力を「偽計」と言えるとしても、検証目的で一時的に予約をして直ちにキャンセルしたことをもって「その業務を妨害した」とは言い難く、こちらも該当しないとするのが常識的解釈でしょう。

 このように、(A)不正アクセス禁止法についてはまったく該当性はなく、(B)不正電磁的記録作出罪(C)偽計業務妨害罪については、形式的には該当しうる余地はあるものの、常識的条文解釈では、いずれも該当しないと思われます。

西山事件の最高裁判決の趣旨を当てはめると

 また、仮に(B)不正電磁的記録作出罪や(C)偽計業務妨害罪に、軽微とはいえ該当する余地がありうるとしても、有名な西山事件における、最高裁判決(昭和44年(し)第68号同年11月26日大法廷決定・刑集23巻11号1490頁)「報道機関の国政に関する取材行為は、国家秘密の探知という点で公務員の守秘義務と対立拮抗するものであり、時としては誘導・唆誘的性質を伴うものであるから、報道機関が取材の目的で公務員に対し秘密を漏示するようにそそのかしたからといつて、そのことだけで、直ちに当該行為の違法性が推定されるものと解するのは相当ではなく、報道機関が公務員に対し根気強く執拗に説得ないし要請を続けることは、それが真に報道の目的からでたものであり、その手段・方法が法秩序全体の精神に照らし相当なものとして社会観念上是認されるものである限りは、実質的に違法性を欠き正当な業務行為というべきである」の趣旨を当てはめると、今回の朝日、毎日、そしてなぜか問題視されていない日経xTechの報道は、「真に報道の目的から出た」「手段・方法が社会通念上是認されるもの」であり、「実質的に違法性を欠く(違法性が阻却される)」「正当な業務行為」あるとするのが、民主主義社会として当然の解釈であると、私は思います。

 以上、「東京大規模接種センターの予約サイトは、架空番号、対象外地域、対象期間外で予約できる問題」はセキュリティホールでもなんでもなく、ただ単に「そういう(ぼろぼろの)仕様」であり、これを報じた朝日、毎日、そしてなぜか問題視されていない日経xTechの報道はなんら違法ではないというのが私の結論です。

拡大報道公開された大規模接種センターでの予行演習=2021年5月21日、東京都千代田区の大手町合同庁舎3号館、代表撮影

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筆者

米山隆一

米山隆一(よねやま・りゅういち) 衆議院議員・弁護士・医学博士

1967年生まれ。東京大学医学部卒業。東京大学医学系研究科単位取得退学 (2003年医学博士)。独立行政法人放射線医学総合研究所勤務 、ハーバード大学附属マサチューセッツ総合病院研究員、 東京大学先端科学技術研究センター医療政策人材養成講座特任講師、最高裁判所司法修習生、医療法人社団太陽会理事長などを経て、2016年に新潟県知事選に当選。18年4月までつとめる。2022年衆院選に当選(新潟5区)。2012年から弁護士法人おおたか総合法律事務所代表弁護士。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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