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ひめゆりの塔を知っていますか? 戦争を知らない世代が歴史を学ぶ切実な意味

今春、展示を改装したひめゆり平和祈念資料館が志向するものは……

山本章子 琉球大学准教授

「ひめゆり学徒隊の証言“退屈”」が社会問題に

 戦前生まれの人口は、1947年には7384万人いたが、70年あまりで4分の1に減少し、2019年には1962万人まで減っている。しかも、戦争を体験した世代の平均年齢は81.8歳となっている。これに対し、戦後生まれの人口は1億655万(84.5%)。もはや、ひめゆり学徒隊を「忘れてしまった」のではなく「知らない」世代が、圧倒的多数を占めているのだ。

 戦前から戦後へと世代交代が確実に進むなか、戦後60年にあたる2005年、青山学院高等部の英語の入試問題に「ひめゆり学徒隊の証言“退屈”」という内容が出されて社会問題になった。この“事件”を振り返ってみたい。

 問題ではまず、出題者が高校時代に修学旅行で訪れた、沖縄の「古い防空壕」での経験が以下のように語られる。

 「老ガイドが言った。『では、明かりを消しましょう。』最後の明かりが消えると、暗闇が現れた。〔中略〕『これが戦争です。この洞窟のなかで私たちが唯一望んだことは、いかにしてこの戦争を生き延びるかということでした。私はもう二度と戦争を経験したくありません。』〔中略〕私はなぜその老ガイドがこの旅行のあいだじゅう多くを語らず、また私達の質問にも言葉少なにしか答えなかったのかを初めて理解した。」

 注目されたのは、出題者が次に訪れたひめゆり平和祈念資料館に関するくだりだ。「ひめゆり部隊で生き延びた老婦人が私達に語った体験談は、ショッキングだったし、戦争のイメージについてもすごくよく伝わった。でも、ほんとうのことを言うと、私にとってそれは退屈だったし、私は彼女の体験談を聞いているのが嫌になってしまった。彼女が話せば話すほど、私はあの洞窟の強い印象を失った。」

 なぜ「退屈」だったのかについて、出題者は次のように述べる。

 「言葉の力は強い。でも、問題なのは、私達がそれをどういうふうに理解するのか、なのである。もし聞き手が話し手の考えを理解しなければ、いい話もただの言葉の羅列になってしまう。もう一つの問題は、話し手の意見が強すぎると、違ったメッセージを与えてしまうかもしれない、ということである。」

青山学院への批判を展開した沖縄のメディア

 戦後60年の節目ということもあり、沖縄戦の組織的戦闘が終結したとされる6月23日の「慰霊の日」を前に、地元メディアは「証言者の努力に冷水」「語り部落胆」などの見出しで、青山学院の入試問題への大々的な批判を展開した。

 80歳近いひめゆり学徒隊の生存者たちが、限られた情報しかない中で、「ひめゆりだけでなく全県民の問題ですよ」などの言葉で記者から強要されたコメントの一部を切り取る形で過熱報道が行われ、当事者の思いは置き去りにされる。

 当時も現在もひめゆり平和祈念資料館を支える戦後生まれの職員たちは、次のように指摘する。

 「戦争の時その壕の中で何が起こったのかの証言を聞くことなしには戦争の実相は分からないのではないだろうか」

 「全く何も知らずに入るとガマはそれこそただの『洞窟』であり、『探検ごっこ』にしかならない。電気を消して暗闇を体験し恐怖を味わったとしても『この場所で何があったのか』を知らなければ意味がない」

拡大自然壕(ごう)「チビチリガマ」の中で行われた慰霊祭で、祭壇に手を合わせる遺族ら=2021年4月3日、沖縄県読谷村波平

ひめゆり平和祈念資料館にとって最も大事なこと

 しかし、修学旅行の平和学習の現場である資料館にとって最も大事なことは、「戦場に身を置いたことのない」「戦争の話は聞きたくないと思う若者」に、どのようにして戦争体験を継承するか、という課題を学校関係者と共有し、一緒に取り組んでいくことである。

 職員の仲田晃子さんは、「今伝わらなくても、証言したことがいつか時を得て重みをもってくる」という、少なくない来館者の経験を、「出会い損ね」と「出会い直し」という言葉で表現する。「出会い損ね」た出題者によって書かれた入試問題をきっかけに、戦争体験の継承に共に取り組む相手との機会を増やしていくことこそが、問題の解決なのである。

 ところが、青山学院高等部の責任者がひめゆり平和祈念資料館を訪れて謝罪した際、報道で事前にそれを知った市民団体が、資料館側が拒絶したにもかかわらず敷地内で抗議行動を実施した。「謝罪を受け入れるべきではなかった」という抗議の電話も来た。地元紙はその後も、青山学院へのバッシングを続けた。

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筆者

山本章子

山本章子(やまもと・あきこ) 琉球大学准教授

1979年北海道生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了。博士(社会学)。2020年4月から現職。著書に『米国と日米安保条約改定ー沖縄・基地・同盟』(吉田書店、2017年)、『米国アウトサイダー大統領ー世界を揺さぶる「異端」の政治家たち』(朝日選書、2017年)、『日米地位協定ー在日米軍と「同盟」の70年』(中公新書、2019年)など。

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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