山口 昌子(やまぐち しょうこ) 在仏ジャーナリスト
元新聞社パリ支局長。1994年度のボーン上田記念国際記者賞受賞。著書に『大統領府から読むフランス300年史』『パリの福澤諭吉』『ココ・シャネルの真実』『ドゴールのいるフランス』『フランス人の不思議な頭の中』『原発大国フランスからの警告』『フランス流テロとの戦い方』など。
※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです
ワクチン接種拡大で支持率もアップ。日本は「国賓訪問」をするべきリストの最優先国
「マクロン大統領が東京五輪の開会式に出席するというのは本当か?」とのメールの問い合わせが日本の友人たちから、いくつかあった。
新型コロナウイルスの感染がやまない日本では、10都道府県で緊急事態宣言が延長され、半数を超える国民が「五輪反対」という世論調査もあるなか、マクロンの訪日は「蛮勇」、あるいは「狂気の沙汰」に思えるのだろう。
しかし、パリから見ると、これは非常に常識的な判断に見える。フランスは3回目の2カ月間の「外出禁止」が解除され、出遅れていたワクチン接種も順調に進んでいるからだ。
菅義偉首相の支持率は「コロナ対策」への不満から30%台に急落したが、マクロン大統領の支持率は持ち直しつつある。燃料値上げに対する反対に端を発した2018年秋からの「黄色いベスト」の全国的な大規模デモへの対応のまずさや、「コロナ対策」における当初の判断ミス、またワクチン接種の遅れなので、今年の年頭までは30%台に下がっていたが、ここにきて各種世論調査で40%台をマーク。最新の調査(ハリス・インターアクティヴ、5月28日発表)では48%をマークした。ワクチン接種率の上昇に対する評価や、厳格な「外出禁止令」によるコロナ封じ込めにある程度成功したからだ。
マクロンの五輪開会式(7月24日)出席について、フランスのマラシネアヌ・スポーツ担当相は、次のように指摘した。
――東京の次はパリ五輪(2024年)で、「五輪の聖火を継がないといけないためだ」。
つまり、フランス政府にとっては東京五輪の開催は“決定事項”なのだ。
マクロン自身も訪日には意欲満々だ。数日前にはツイッターで、日本文化の熱狂的ファンで芸名を「星」と漢字で書く若手歌手マチルド・ジェルネ(25)の新アルバム発売に触れ、「私も駆けつけて買おう」などと発信していた。
マクロンは来春の大統領選での再選を目指して、「若者層」の取り込みに躍起になっており、若者に人気がある歌手や芸能人などに急接近中と伝えられる。その一環かと思ったが、この歌手は特に若者に人気があるわけでもなく、知名度も低い。肩入れしても票につながるとは思えなかったが、このツイッターを流した直後、「五輪開催式出席」の報道があったので、なるほど、と納得した。今後、マクロンの日本や日本文化に関する発言は多くなりそうだ。
大統領の訪日は、天皇、皇后陛下主催の晩餐会を伴う「国賓」になる予定だ。外交上の慣習により、国家元首のある国への「国賓訪問」は任期中に1回に限られている。そのほかの訪問は「公式訪問」になり、「晩餐会」はなしだ。
2017年5月に大統領に就任したマクロンはまだ、日本を「国賓」として訪問したことがない。来春の任期切れを前に、日本は「国賓訪問」をするべきリストの最優先国だ。
論座ではこんな記事も人気です。もう読みましたか?