2021年4月22日、国際オリンピック委員会(IOC)は、きわめて思わせぶりな表現を使いながら、「eスポーツ」とおぼしきイベントが5月13日から6月23日まで開催されると公表した。ここでは、「ぼったくり男爵」(Baron Von Ripper-off)と揶揄されるトーマス・バッハ会長率いるIOCのつぎなる「商法」について論じてみたい。「汚れた五輪」の実態を多くの人々に知ってもらいたいからだ。
なお、eスポーツについては、「パンデミックで流行するeスポーツに「電通・経産省」の影:貴重な税金をカネ儲けのために使ってはならない」、「eスポーツと自衛官募集:税金の無駄遣い 遊び感覚が軍事と結びつく「スポーツの再定義化」」、「eスポーツにおける「ロボ・ドーピング」問題:フェアプレイの精神が保障されないまま推進してもよいのか」を公開済みなので、そちらを参考にしてほしい。
ぼったくり男爵・バッハの手口

国際オリンピック委員会(IOC総会)で話をするトーマス・バッハ会長=2021年3月10日、スイス・ローザンヌ
バッハを「ぼったくり男爵」と書いた「ワシントン・ポスト電子版」では、彼のぼったくりぶりをつぎのように指摘している。
「IOCは意図的に過剰を奨励している。IOCは、収益のために手の込んだ施設やイベントを要求し、そのほとんどを自分たちのものにする一方で、すべての資金を保証しなければならない主催者にコストを丸投げする。IOCは規模やデザインの標準を設定し、ライセンス料や放送料を厳しく保ちながら、主催者の良識に反してどんどん支出を増やすことを要求する。東京の当初の予算は70億ドルだった。今ではその4倍になっている。」
加えて、実に率直な記述もある。
「もはやIOCと何らかの関係をもつ政府指導者は、ウラジーミル・プーチンや習近平のような、労働を強制し、名声のために際限なく資金を使える「ごろつき独裁者」(thug[ごろつき]+autocrats[独裁者])だけになってしまった。」
IOCの発表文のからくり
こんなバッハがつぎにねらっているのが最初に紹介したeスポーツだ。ぼったくりのためには用意周到な準備が必要だからか、バッハのやり口は手が込んでいる。4月22日のIOCの発表文は念入りに練られたものになっている。あえて曖昧な表現にとどめたり、別のイベント(後述するIntel World Open)との関係を説明しなかったり、どうにもわかりにくい発表をするにとどめることで、IOCとeスポーツ業界との癒着・結託という既成事実化をねらっているようにみえる。
発表文のからくりをみてみよう。最初に、「五つの国際競技連盟およびゲームパブリシャー(ゲームソフトの販売・広告などを行う会社)と提携し、肉体的および非肉体的なバーチャルスポーツを対象とした初のオリンピックライセンスイベント『オリンピック・バーチャル・シリーズ(OVS)』を開催する」と書かれている。ただし、この資料のどこを探しても、「バーチャルスポーツ」の定義が出ているわけではない。eスポーツ(esports)という普通名詞は一カ所だけ登場するが、これについても定義があるわけではない。
「OVSは、世界中のバーチャルスポーツ、eスポーツ、ゲーム愛好家を動員して、オリンピックの新たな観客を獲得するとともに、IOCの「Olympic Agenda 2020+5」の提言に沿って肉体的および非肉体的な形態のスポーツの発展を促進する」という、曖昧な説明があるだけだ。
そこで、「Olympic Agenda 2020+5」なる提言をのぞいてみると、つぎのように書かれている。
「ここで重要なのは、バーチャルスポーツとビデオゲームの2つの形態の違いである。バーチャルスポーツには、肉体的なもの(自転車競技など)と非肉体的なもの(サッカーなど)があり、ビデオゲームには、競技用ゲーム(リーグ・オブ・レジェンドなど)とカジュアルなゲーム(スーパーマリオなど)がある。」
この記述から、どうやらIOCはバーチャルスポーツなるものと、ビデオゲームにかかわるものの二つについて新たな観客を獲得して商売につなげようとしていることがわかる。しかし、この二つの概念の間において、eスポーツがどう位置づけられるのかは書かれていない。とくに、ビデオゲームがスポーツと呼ぶに値するのかといった疑問については、これを無視することで、誤魔化しているとしか読み取れない。あるいは、目と手を主に使うだけの非肉体的なサッカーゲームがスポーツなのか、といった疑問に答えないまま、独断的にバーチャルスポーツという分類に組み込んでいる。
要するに、曖昧な記述に終始することで、IOCがeスポーツでカネ儲けをしようとしている事実をもわかりにくくしようとしているように映る。