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失われた時代の末のパンデミック~日本のフラストレーションはどこへ向かうのか

対外関係に向かう危険性――日本再生を託せる理性的指導者の選択を

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

拡大3度目の緊急事態宣言についての菅義偉首相の記者会見が映し出された街頭の大型ビジョン=2021年4月23日、東京都新宿区

遅れる日本のコロナ対策。充満するフラストレーション

 今日の日本には強い不満、フラストレーションがたまっている。コロナ・パンデミックは一万人以上の死者を出し、大きなインパクトをもたらした。それだけではなく、最近になって特に目立ち出しているのは、日本に充満してきた強いフラストレーションだ。

 欧米諸国に比べて圧倒的に感染者や死者が少ないことに大方の日本人は日本の強さであると考えた。にもかかわらず、日本は未だ再び高い感染のサイクルにあり、切り札と言われたワクチンの調達・接種が明らかに遅れ、十分な医療資源を有していると思われたのに医療の逼迫も危惧される。

 東アジアのコロナ感染防止でも中国、韓国、台湾に後れを取り、経済回復速度に至っては1-3月期で中国の経済成長率は+18.3%、米国は+6.4%に比べ日本は-5.1%と大きく遅れていることへの憤りは強い。これも感染防止と経済のどっちつかずの対策を打ってきた結果ではないか。国家の基本である国民の生命財産を守るという危機管理がおざなりになったのではないか。

 さらに追い打ちをかけるように東京オリンピック・パラリンピックの開催問題についてIOCのバッハ会長以下が「非常事態宣言下でも開催」といった断定的な姿勢を日本の組織委や東京都、はたまた政府を差し置き示すことにも、「何故、日本の頭越しに」といった強い反感が生まれだしている。蓄積されているフラストレーションはどこへ向かうのか。

拡大緊急事態宣言を受け、百貨店の店頭に掲示された臨時休業の案内=2021年4月25日、東京・渋谷

統治体制劣化と国力低下が続く中でのコロナ・パンデミック

 コロナを巡るフラストレーションの高まりは中長期的な視点で見る必要もある。過去30年の日本は「Japan as No.1」と言われ楽観論が支配していた時代から、失われた何十年を経て、実質成長率、労働生産性、公的債務のGDP比といった経済指標のどれをとっても先進国最低レベルとなり、男女平等度や報道の自由度といった政治的指標においても途上国にも劣る状況となってしまった。

 本来であれば、このような日本の衰退は失政であるとして批判が政府に向かうはずで、政治の刷新を通じて先進性を高めていくべきであった。ところが、残念ながら、そのような変化は起こらなかった。官僚による忖度や政治指導者による権力の私物化、選挙違反・汚職・説明責任の回避など政治家の質の低下など日本の統治体制は政権が交代していくごとに劣化していった。

 不思議なことにそのような現実を見ても強い危機意識を持つ人々も多くはない。現政権の内閣支持率も下がってはいるが、未だ30%以上の支持率を維持している。

 これから緊急事態宣言を再延長するのかどうか、ワクチンは政府の期待通り迅速な接種が実現するのか、五輪の開催判断がどうなるのか、秋には自民党総裁選、そして10月までの衆議院総選挙と今後半年は政治的に大変微妙な時期となる。

 沈滞した現状へのフラストレーションが総選挙にぶつけられ、国民の選択が行われることになるのか、それだけの危機感を国民が持つことになるだろうか。フラストレーションはどこか他に向かうのか。

 それともワクチンの接種がある程度進みコロナが収束に向かいだしたとき、このフラストレーションも消えていく事になるのか。そうなりたくはないが、再び何も変わらず、日本は国力や先進性を低下させていく事になるのか。

拡大ワクチンの接種予約が始まった病院の前で列を作る人たち=2021年5月17日、大阪府堺市

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

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