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失われた時代の末のパンデミック~日本のフラストレーションはどこへ向かうのか

対外関係に向かう危険性――日本再生を託せる理性的指導者の選択を

田中均 (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

国内のフラストレーションが外に向くのが心配だ

 実はこれまで、停滞に伴う国内のフラストレーションが外との関係に向けられてきた傾向は否めない。

拡大「強い日本を取り戻す」は安倍政権のキャッチコピーとなった
 第2次安倍政権が8年近く続いた長期政権となったが、その間、経済的停滞に歯止めがかかり先進性が強化されたわけではなかった。相対的国力は低下していったにもかかわらず、北朝鮮の脅威を前面に出し、また「主張する外交」を掲げ、近隣諸国との関係で日本のナショナリズムを鼓舞する政策を追求していったことが国民の支持につながったのだろう。若い人を中心に安倍政権の人気は高かった。

 もし日本に蓄積されている強いフラストレーションが国内的に消化されていかない場合には、これまでのように、それが外に向く危険性を認識しなければならないのではないか。日本が周りの国々と安定的な関係を維持していくためにもまず集中しなければならないのは国力の回復なのだが、国力の回復は長期的な作業なので、むしろ、反北朝鮮に加え嫌中・反中感情や嫌韓・反韓感情が高まりを見せていることを考えると、フラストレーションのはけ口がこれらの国々との関係に向かう可能性は否定できないのではないか。

中韓への優位性を失いつつある現実への焦燥感

 日本のGDPは2000年にはおよそ中国の4倍、韓国の8倍であったが、2020年には中国は日本の3倍と大きく日本を逆転し、韓国は日本の三分の一まで肉薄してきた。これは日本自身が成長しなかったことの結果ではあるが、歴史的に見ても日本は日清戦争以降中国や韓国との関係で優位性を保ってきたことが、心理的にも大きく変化している。反中・嫌中や反韓・嫌韓の感情は、中国の尖閣諸島に対する攻勢や韓国の約束を反故にする行動があったことだけではなく、優位性を失いつつある現実への焦燥感がある。

 それでも中国の場合には、人口は日本の十倍の大国であり、習近平総書記の掲げる「中国の夢」が実現するかどうかは別として、経済力・軍事力のいずれの面でも日本との差は開いていく事は受け入れざるを得まい。

 ただ、これからの国際社会は米国と中国の対立を軸として動いていくのだろうし、同盟国として日本は米国と連携して中国にあたるという意味で中国に引け目を感じる必要もない。米国の存在が日本の中国への過剰なナショナリズムの発露を抑えるとともに、中国に対する有効な抑止力として機能していくのだろう。従って反中の感情が必要以上に日中を過剰な対立に追いやる蓋然性は低い。

拡大中国の習近平国家主席と握手を交わす安倍晋三首相=2019年12月23日、北京の人民大会堂

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筆者

田中均

田中均(たなか・ひとし) (株)日本総合研究所 国際戦略研究所 理事長/元外務審議官

1969年京都大学法学部卒業後、外務省入省。オックスフォード大学修士課程修了。北米局審議官(96-98)、在サンフランシスコ日本国総領事(98-2000)、経済局長(00-01)、アジア大洋州局長(01-02)を経て、2002年より政務担当外務審議官を務め、2005年8月退官。同年9月より(公財)日本国際交流センターシニア・フェロー、2010年10月に(株)日本総合研究所 国際戦略研究所理事長に就任。2006年4月より2018年3月まで東大公共政策大学院客員教授。著書に『見えない戦争』(中公新書ラクレ、2019年11月10日刊行)、『日本外交の挑戦』(角川新書、2015年)、『プロフェショナルの交渉力』(講談社、2009年)、『外交の力』(日本経済新聞出版社、2009年)など。2021年3月よりTwitter開始、毎日リアルタイムで発信中。(@TanakaDiplomat)

※プロフィールは原則として、論座に最後に執筆した当時のものです

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